「私に一つ考えがあるのですが……」
賭け試合の賞金ど宿を取り、割り当てられた部屋に辿り着くと、リヴァイアはカーテンを開けて光を部屋に入れる。
「月くんがここにいるのを見た時は正直驚きました」
「いや、俺もまさかもう一度ここに来るとは思わなかったよ。でも会いたいとは思ってた」
「シンキ、君には分かる?月がどうしてここに来たのか」
とリヴァイアがシンキに尋ねる。
「悪いけど分からない。私は博士ではないしね」
「俺、どうしたらいい?どうやったら帰れるんだろう」
「来たからには何か意味があるんだろう。しばらく様子を見るべきかもしれない」
シンキの意見に月はため息をつく。
「幻光石じゃなかったらなぁ……」
「どうして?」
今度はシンキの問いに苦笑する。
「だって、もう一人の俺って石だぜ?せめて人にして欲しかった」
「我が儘だねぇ、幻光石だからこそここにいられるんじゃないか!」
仁王立ちでリヴァイアが言った。
「それを言ったら、身も蓋も無いでしょうリヴァ」
シンキが口元を引きつらせてツッコミを入れる。月も苦笑したままだ。それは月自身が一番考えていたことでもあり、正論だ。今さら違うものがいいと言っても仕方がないのも承知している。ただ、やはり期待してしまうのだ。人としての自分の価値が石ではないことを。
「これからどうしようか……?」
不安そうに尋ねる月の言葉に二人も考え込む。しばらくの沈黙のあと、口を開いたのはリヴァイアだった。
「ねえ、月。前みたいに幻光石の光る場所へ行ってみたらどうかな?」
「最初にそれがいいかな……て思ったんだけど、ここに来て一回だけ見たきり、幻光石が光ってないんだ」
リヴァイアの提案は月の一言でもろくも崩れ去った。八年前も旅の鍵を握っているのは幻光石の光、たまに光る光を頼りに解決させた。だが、石の光は一度しか光っておらず、頼りたくとも頼れる状態ではなかった。今回は前回のようには上手くいかなさそうだ。もっと別の答えを探さないといけない。ただでさえ、どうしてここに呼び出されたのか分からないのに、どうしろと言うのか。どう考えても遊んでらっしゃいていう感じじゃない。このまま目的もないまま進むのもおかしいだろう。一体どうすればいいのだろうか……。
「私に一つ考えがあるのですが……」
とシンキが言い出した。
「あの時以来、幻光石の管理をロースレントが行っているのですが」
「なに、幻光石はロースレントにあるわけ?」
青筋を立てそうな勢いでリヴァイアが聞く。
「月くんには教えていないと思うんですけど、幻光石というものは一つだけじゃないんです。たしかに幻光石はこの世界の秩序と均衡を守っているわけですけど、石は大陸に一つずつ存在していて、そんな中で一つでも欠けてしまう世界の秩序と均衡は乱れ、いずれ壊滅します。それで、前回のことがあったので、ロースレントが全責任を持って管理することになったわけなんです」
「……で、シンキの考えって?」
冷静に月は尋ねる。昔の彼なら、回りくどい説明を嫌がっていたことだろう。
「はい、試しにロースレントの幻光石を見に……行ってみませんか?幻光石はバラバラでも互いに共鳴すると聞いています。幻光石自身でもある月くんがいれば、石が光らずとも別の幻光石のもとまで行けるんじゃないんですか?その確認のためにも必要なことだと思うのですが」
「そんな良い案があるなら早く言ってよ!つまらない恥をかいたじゃないか!」
とリヴァイアはご立腹である。別に恥ずかしいことを言っていなかったはずだが、どうやら自分の提案が空振りしたことが恥ずかしかったらしい。リヴァイアもずいぶんと可愛らしくなったものだ。そんなことを口にしたら、なにをされるか分からないので黙っておく。
「それじゃあ、ロースレントに行こう。ミリアとも会いたいしね」
月は賛同した。八年ぶりの親友との再会だ、相手がどう変わったか見てみたいし、それを万樹にも教えてやりたい。