第9話 翼、羽ばたく時
「はぁ……」
ヤマトは今日何度目か分からないため息をついた。
アム達は遠くからそんな様子を見守っていた。
「都大会で優勝してからずっとああだね」
「相当ショックだったんでしょうね。サンソルジャーのこと」
鞄を背負って教室を出ていくヤマトを見ながらゴン太郎が口を開いた。
「無理もない。あんなに気に入ってた愛機が木っ端みじんに壊れたんだ」
「ヤマト、これからどうするのさ? 全国大会は来週からなのに」
「せっかく登校日も終わって夏休みだけになったのに不運な奴だ」
カジオとゴン太郎は哀れむような顔でヤマトを見送る。
アムは不安気に呟いた。
「ヤマト、全国大会に出て大丈夫かしら?」
アムが喋るとカジオとゴン太郎は考え込んだ。
ネジスケとパナスケが中に割って入って来る。
「カスタムソルジャー無しでどうするのー?」
「替えの機体ってあるのー?」
二人の質問にアムが答える。
「ヤマトはサンソルジャーしか持ってないから………ガンマやドゥルーならすぐに買えるけど」
「そんな間に合わせじゃ全国では通用しないよ!」
カジオが叫ぶと、場は静まり返った。
全員ヤマトを案じて黙り込んだ。
だが、何も良い案は浮かばなかった。
ヤマトはショップに向かっていた。
サンソルジャーの代わりの機体を買うためだ。
もちろんそんな間に合わせでは勝てないことは分かりきっているが、棄権するのは絶対に嫌だった。
せめてファイトをして全国の力を味わってみたい。
「駄目で元々……だよね。何だか失礼だけど」
最初から負ける気で戦うことに負い目を感じ、ヤマトは罪悪感に包まれた。
その時、ヤマトは腕を掴まれて路地へ連れ込まれた。
何が何だか分からないまま引っ張られ、奥まで連れて来られた。
場所を入れ替わられ、逃げ道を失う。
不良にでも絡まれたのかと思ったが、相手を見て目を疑った。
相手はパーカーを外し、ツインテールを揺らす。
薄暗い路地の中、燃えるような深紅の瞳が輝いて見えた。
「ア、アスカさん?」
ヤマトを連れ込んだのは、アスカだった。
アスカは静かに口を開いた。
「欲しいんでしょ?新しい力が」
カスタムソルジャーのことだろうか。
ヤマトは戸惑いながら答える。
「はい……でも、サンソルジャーみたいな機体なんて」
「ここにある。貴方について来れる最高の機体が」
そう言ってアスカは持っていたスーツケースをヤマトに見せた。
ヤマトはアスカの言っている意味が分からず、「え?」と聞き返した。
「でも僕、まだサンソルジャーを使いこなすことも出来なくて………」
「釣り合ってないのは貴方じゃない。サンソルジャーの方よ」
アスカの言葉にヤマトは衝撃を受け、呆然となる。
アスカは解説を始めた。
「確かに最初は釣り合ってなかったかもしれない……でも、ガガコングとの戦闘の時点で貴方は既にサンソルジャーを扱えるようになっていたの………でも、キリュウとのファイト。あれが最大のきっかけ」
アスカは淡々と話を進める。
「キリュウについていこうとするあまりの貴方の成長に、サンソルジャーが耐え切れなくなった。あの時既に貴方の操作の速度にサンソルジャーは付いていけなくなったの」
だから動きを見破られやすくなったのよ、とアスカは付け足す。
そして、僅かに笑みを浮かべながらケースを開けはじめる。
「でも、この機体ならそんな心配はない。この………」
そして、アスカはケースを開いた。
ヤマトはケースの中身に釘付けになる。
「ブラスター・ウイングならね」
ケースの中にあったのは、見たことのない機体だった。
薄い青紫色のボディに白い枠や線。特徴的なのは二翼の機械的な翼。
その碧の瞳はヤマトの心を掴んで離さない。
「これは……?」
ヤマトはアスカにこの機体の詳細を尋ねる。
「ブラスター・ウイング。TC社の最新鋭の技術を詰め込まれ、半年前に作られた三傑作の一つ………極薄の翼によるブースターの飛行能力を持つ」
「空を飛べるんですか?」
ヤマトは驚いた。
飛行能力なんて、まだ一般には出回っていない技術だ。
「でもそれは副産物………ブラスター・ウイングの最大の特徴は、高速飛行形態への変形」
「変形!?」
ヤマトは更に驚く。そんな大掛かりな変形は聞いたことがない。
「高速飛行形態時には先端からバルカン砲を放つことが出来る。武装を三つ使いながらも、重量を増やさない構想で作られたらしいわ」
アスカの話を聞くと、改めて全体をじっくり見る。
次に目に入ったのは、武装として付いているビームライフルとビームジャベリンだ。
「そのビームジャベリンは私が作ったわ。本当はビームライフルと大型銃なんだけど、貴方の戦闘スタイルに合っていないでしょうから」
ヤマトは一瞬驚いたが、アスカ・テロメアは海外でカスタムソルジャー工学を学んでいたことを思い出した。
そして、もっともな疑問をアスカにぶつけた。
「……どうして、僕にこれをくれるんですか?」
そう、アスカがヤマトにこんな最新鋭の機体を譲る必要はないはずだ。
なのに、どうして………?
困惑するヤマトに、アスカはクスッと笑った。
「貴方に必要な物だからよ………一目見て気付いたでしょう? これが貴方の運命の機体だと」
ヤマトはブラスター・ウイングの碧の瞳を見つめる。
心なしか、まるでブラスター・ウイングに見つめられているような気がする。
ブラスター・ウイングの目が輝き、操作されていないにも関わらず勝手に動き出した。
ヤマトの肩に乗り、ヤマトの顔を見つめる。
ヤマトも困惑しながら見つめ合う。
「………決まりね」
アスカは嬉しそうに微笑むと、ヤマトの頬に両手を添えた。
ヤマトは驚いて頬を紅く染める。
「さぁ、使いこなしてみせて。ブラスター・ウイングを、貴方のその力を!」
アスカの瞳が虹色に輝き、ヤマトの瞳も同じく輝く。
ヤマトは思わず後ずさる。
しかし、アスカはヤマトを離さず自分の目をヤマトの目に思いっ切り近付ける。
「あ、あ……」
ヤマトは自分のこの不思議な力を恐れ、声を漏らす。
アスカは、そんなヤマトに囁く。
「貴方ももう気付いているんでしょう? 自分には特別な力があると………」
アスカは右手を頬から離すと、ヤマトと自分の頬を合わせる。
「期待してるわよ? 貴方と………貴方の、Gサイトの成長を」
ヤマトは、ただ呆然と頷いた。
翼ヤマト CV.代永翼
アスカ・テロメア CV.井上麻里奈