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カスタムソルジャー  作者: バームクーヘン
第1章 槍騎士覚醒
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第8話 日は沈み、そして…

「でも、初心者のヤマトがいきなり都大会の決勝かー」


カジオが感慨深げに呟いた。確かに信じられないし、あっという間の出来事だ。


「初めてファイトした時から才能のある奴だと思っていたが、まさかここまでとはな」


ゴン太郎は誇らしげに言い、ネジスケとパナスケも頷く。


「最後のファイトも、頑張るのよ!」


アムはヤマトに話し掛けたが、ヤマトはボーッとしていて返事が無かった。


「ちょっとヤマト、聞いてるの?」


「・・・・・えっ、あっ、うん」


ヤマトは慌てて答える。




ヤマトが考えていたのは、通路で会った女の子のことだった。

自分の背が低いことを差し引いても、背の高い人だった。


「年上かな・・・」


ヤマトはぼんやりと考え込む。

気になったことはもう一つ。あの目だ。

一瞬、何か妙な感覚を感じたが・・・


そう、まるで、全てを見通すような、不思議な感覚・・・・・


ぼんやり考え込むヤマトにカジオが話し掛ける。



「ヤマト、年上がどうしたの?」


「もしかして、年上のお姉さんに一目惚れでもしたかー?」


ゴン太郎がヤマトを冷やかす。

アムは驚いた顔でヤマトを問い詰める。


「あ、貴方何大事な決勝前に浮ついてるのよ!」


「ち、違うよ!」


ヤマトはアムの剣幕に怯えながら弁明する。


「じゃあ年上がどうしたって言うのよ!?」


「いや、それは、その・・・」


ヤマトは更に強まるアムの気迫に押されて目に涙を浮かべる。


どうしてこうなったんだろう。

ヤマトは自分の不用意な呟きを後悔した。




いよいよ決勝戦の開始の時が来た。


ヤマトは緊張しながら中央のGキューブに向かう。

周りからの歓声と視線にヤマトは自信を無くしていく。


その時、ヤマトはある人物の視線を感じた。

観客席を見ると、先程の黒いパーカーの少女がいた。


距離があって顔がよく見えないはずなのに少女の燃えるような深紅の瞳が自分に向けられていることが何故か分かる。

まるで自分と少女が共鳴しているみたいな・・・


「あの、何かあったのかい?」


ヤマトは対戦相手の声にハッと我に帰った。


対戦相手の青年は不思議そうな顔をして眼鏡をかけ直す。


「す、すいません。ボーッとしてて」


ヤマトが頭を下げると、青年はクスッと笑った。



「構わないよ。僕の名前はシアン。君の事は妹からよく聞いているよ」


「妹?」


ヤマトが聞き返すと、シアンは妹の名前を答えた。




「ええ!?お前の兄なのか?」


ゴン太郎は驚きを隠せずに声をあげた。

ラフレは髪をいじくりながら話し始めた。


「大会に出たことは無かったけど、カスタムソルジャーの腕は確かよ」


「そういえばお兄ちゃんもそんなこと言ってたような・・・」


アムは前にキリュウと話していた内容を思い出した。


「そのバトルスタイルから付いたあだ名が・・・神速の武士」


「何だそれ?」


カジオはアムから聞いたあだ名に首を傾げた。

一体どんなファイトをするのだろうか。




『それでは、いよいよ始まります。トーキョー都大会決勝戦!』


司会の声がマイクで会場全体に響き渡る。

ヤマトは緊張しないように出来るだけ周りを見ないようにした。


二人はそれぞれ自分の機体を取り出す。


『ではバトル、スタート!!』


司会の合図を聞いて、ヤマトとシアンは自分の機体を発進させる。



「サンソルジャー!」

「居合師範・剣豪!」


二体のロボが草原ジオラマに降り立つ。


剣豪は銀色の鎧と黒い兜を付けた正に武士と言ったカスタムソルジャーだ。


決勝の舞台である草原ジオラマは辺り一面に草原が広がる障害物の少ないステージだ。


「行きます!」


ヤマトはサンソルジャーを剣豪に向かわせる。

先手必勝がヤマトのスタイルだ。



「でも、僕と剣豪にそれは通用しない!」


シアンがそう言った瞬間、剣豪の刀がサンソルジャーの右腕を切り落とした。


「あぁ!?」


ヤマトは驚きながらサンソルジャーを下げさせる。

切り落とされた腕は握っていた槍と共に無惨に地面を転がる。






「何よ、全然駄目じゃない」


黒髪を後ろで短く二つに束ねた眼鏡の少女がヤマトに落胆する。


「フン、雑魚だな」


大柄で迷彩柄のジャケットを着た男もヤマトを嘲笑う。


二人の間にキリュウがいた。

キリュウは面白そうに口を開く。


「誰にでも相性の悪い相手はいる・・・さあ、どうするヤマト」


「もう帰りましょ、キリュウ。マルゴイも退屈してるし」


「チェールの言う通りだぜ」


眼鏡の少女・・・チェールはマルゴイと一緒に帰りながらキリュウを呼ぶ。

キリュウはファイトが気になったものの、二人と一緒にその場を去った。




「今の振り、見えたか!?」


「ぜ、全然」


カジオはゴン太郎に同意し、ラフレに詳しいことを聞こうとする。

ラフレは解説を始める。


「お兄様の最大の武器。それがあの反射速度と居合い斬りよ」



「不用意に接近したのが間違いだったね!」


剣豪は刀を鞘に納め、身を屈める。

その瞬間、剣豪の足のブースターが発動した。


地上スレスレを滑空しながらサンソルジャーに接近する。


サンソルジャーは横に飛びのくが、剣豪も一瞬動きを止めると方向をずらして接近する。


しかし今度はしっかり盾で防御する。



だが、サンソルジャーの盾には傷が付きサンソルジャーも押し負けて地面に尻餅を付く。


その隙に剣豪はまたサンソルジャーに接近する。


ヤマトはサンソルジャーにガードを命じるが・・・今度は、盾が真っ二つに切り裂かれる。


「くっ!」


ヤマトはサンソルジャーを急いで後退させ、残っている左手で槍を拾う。


「一気に攻めないと負ける!」


《スターブースト》


ヤマトはスターブーストを発動させ、サンソルジャーの全身が黄金に輝く。

そして、猛スピードで剣豪に接近し槍で攻撃する。


「何てスピードだ」


シアンはサンソルジャーのスターブーストに驚く。

威力、スピード共に高く軌道を逸らすのがやっとだ。


「うおおお!」


ヤマトは休ませないよう果敢に攻める。

少しでも隙を見せたらまた居合いの餌食だ。ヤマトの槍が剣豪の胸を捉え、更に続けざま槍を繰り出す。

胸部にヒビが入り、大きく吹き飛ぶ。


「今だ!」


スペリオルアクション《ストームスピア》


槍に金色のエネルギーが溜まり、剣豪に向けて突き出す。

剣豪は起き上がると同時に鞘に納まった刀に手を掛ける。


「焦ったね、ヤマト君」


スペリオルアクション《居合抜刀》


剣豪は刀を握ったまま微動だにしない。

そして、ストームスピアが当たりそうになった直前に振りぬいた。


ストームスピアは真っ二つに裂かれ、剣豪を避けるように突き進んでいく。




「ああ!?」


カジオは身を乗り出して心配した。

ゴン太郎は目をつむる。


「必殺アクションは破られ、スターブーストもじき切れる・・・これは、駄目かもしれないな」




「そ、そんな・・・」


ヤマトは必殺技が通用しなかったことに戦慄する。更に追い打ちをかけるかの如く、スターブーストの効果が切れた。


黄金の輝きを失い、元の白い装甲に戻る。


「それじゃあ、決めさせて貰うよ!」


シアンの宣言と共に、剣豪がサンソルジャーに向かって接近した。


サンソルジャーは剣豪の居合を避けられず、その身を切り刻まれていく。

頭、胸、足と次々に傷が付き、限界が迫る。


「くっ、っ!」


ヤマトは何とか逃れようとするも、斬撃の嵐から逃れることが出来ない。

それほどまでに、剣豪の剣速が早過ぎる。



「諦めない。集中すれば必ず・・・」


ヤマトは集中し、剣豪の居合斬りを何とか見切ろうとする。

焦りながらも極限まで集中し続けるヤマト。


その瞳が、虹色に輝いた。





「!?」


黒いパーカーの少女は、目を凝らしてヤマトを見つめた。

その瞳は、ヤマト同様に虹色に輝いていた。


もっとも、ヤマトの異変に気づく者は一人もいなかったが。


「あの子・・・やっぱり」


少女は確信し、その顔に一瞬笑みが宿る。




「これは・・・・・」


ヤマトは自分の異変を感じ取っていた。それは通路で少女と会った時の感覚と同じだった。


ヤマトには見えていた。

剣豪の動きが、次に自分が何をすべきが。


感覚のままに、ヤマトはサンソルジャーを動かす。



急に刀を避け始めたサンソルジャーに、シアンは動揺する。


「な、何だ!?」


何度も居合斬りをするが、寸前でかわされる。

蓄積したダメージがあるためサンソルジャーのボディからは何度も火花があがるも、あと一撃が与えられない。


「見える・・・見える、僕の勝利が!」


ヤマトは信じられない速度でPCDを操作し、サンソルジャーを動かす。


サンソルジャーは火花を散らしながら動き、剣豪に槍を刺していく。

何度も突かれ、剣豪のボディが傷ついていく。


サンソルジャーの槍が剣豪の手に刺さり、剣豪は刀を取りこぼす。


落ちていく刀をサンソルジャーは素早く蹴り、飛ばされた刀の先が剣豪の脇腹に突き刺さる。

怯んだ剣豪の胸に槍を突き立て、地面に倒れた剣豪に跨がる。


そして槍を逆手に持ち、剣豪の胸を貫いた。


剣豪は耐え切れず、ダウンフェイズした。


サンソルジャーは立ち上がると、剣豪から歩いて離れた。




「・・・あ・・」


ヤマトは我に返った。

視界にはボロボロのサンソルジャーと剣豪が映る。


サンソルジャーは全身から火花を散らし、剣豪は胸にポッカリ穴が空いている。



『勝者、サンソルジャーー!!よって全国への切符を手にしたのは、翼ヤマトだああああ!』


「いやったああああ!」


司会声を聞くと、カジオは跳んで喜んだ。

ゴン太郎も惜しみない拍手を送る。


「ヤマト!」


アムがヤマトに呼び掛ける。



ヤマトはアムに答えようとしたが、その瞬間何かが爆発する音が聞こえた。


Gキューブを見ると、バラバラになったサンソルジャーの姿があった。

刀のダメージと最後の無理な操作で、限界を迎えたのだろう。


ヤマトはサンソルジャーの残骸を全て拾い、ギュッと握り締めた。


「ありがとう・・・ありがとう、サンソルジャー」


ヤマトは泣きながら、散ってしまったサンソルジャーにお礼を言った。





『では、ただ今から表彰式を始めます。今回の優勝者は・・・翼ヤマト選手!』


会場から歓声があがる。

ヤマトは緊張しながら表彰台を登り、優勝トロフィーを受け取った。


ヤマトは恥ずかしかったが、思い切ってトロフィーを掲げた。


「いいぞー!」

「おめでとう!」


カジオやゴン太郎、そのほか多くの人々から拍手を浴び、ヤマトは再び緊張して縮こまる。

それを見て全員が笑い出し、アムは呆れてため息をついた。



『そして、今回の大会には急遽予定された特別サプライズがあります!』


司会の突然の発言に会場がざわつき始める。


『優勝者への花束贈呈・・・・・それをやっていただけるのが、現世界チャンピオンの妹で自身も各地の大会で優勝の実績を持つ・・・』


「お、おい・・・」

「それってもしかして」


カジオやゴン太郎だけでなく、その場にいる全員が一層ざわつき始めた。


『登場して頂きましょう。アスカ・テロメアさんです!』


会場のライトがある場所を一斉に照らすと、そこから花束を持った人物が現れた。


少女は頭に被っていたパーカーのフードを降ろした。

黒髪のツインテールは少女が歩く度に揺れ、風が少女の髪をたなびかす。



観客はアスカの姿を見ると歓声をあげた。

世界クラスのカスタムファイターを目の前にして、カジオ達も興奮を隠せなかった。


「あ、あ、あ、アスカさんだああああ!」


「本物かよぉ!」


「美しいですわぁ・・・」



会場が最高峰の盛り上がりを見せる中、ヤマトは呆然としていた。

ヤマトはアスカに見覚えがあった。

今日通路で会ったあの黒いパーカーの少女だ。


上は黒白のジャージのような物を着て、下は黒いミニスカートに前にスリットが入ったロングスカートを重ね着している。


特徴的な深紅の瞳は燃えるような存在感を示している。


ヤマトがどうしようか戸惑っていると、アスカは花束を差し出した。


「おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


ヤマトは左手にトロフィーを持つと右手で花束を受け取った。

そして、アスカの瞳を見つめる。


アスカもヤマトの瞳を見つめ、その瞳が虹色に輝いた。

ヤマトの瞳も虹色に輝き、足元がふらつく。


「あ、あ・・・・・」


ふらつくヤマトをアスカが支え、ヤマトにだけ聞こえるように呟いた。



「また、会いましょう」


「・・・え?」


ヤマトの疑問には答えず、アスカはその場を去った。


アスカの登場に浮かれた観客は今だに騒いでいた。


ヤマトは、駆け寄って来るアム達に手を振って応える。



それでも、アスカの言葉が頭から離れずにいた。

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