第3話 必殺の槍
「俺様にそいつを譲ってもらうぜ!」
ヤマトに命令した少年は大柄でがき大将のような風貌だった。
側には二人の取り巻きがいる。
「何だ、ゴン太郎じゃない」
アムは呆れた物言いで言った。
ゴン太郎はヤマトと同じクラスの悪ガキで、いつも先生にちょっかいを出すちょっとした問題児だ。
取り巻きのネジスケとパナスケが囃し立てる。
「大人しく渡した方が身のためだぞー」
「ぞー」
ゴン太郎はニヤニヤしながら提案した。
「まぁ俺もそんなに鬼じゃない。お前から無理矢理奪ったりはしない」
「先生が怖いからね」
「ねー」
ゴン太郎はネジスケとパナスケをポカリと叩く。
「と、とにかく!俺様とカスタムバトルをやらねぇか?」
「バトル?」
アムがゴン太郎に聞き返す。ゴン太郎はコクリと頷いて詳しく話す。
「つまり、俺達三人とお前ら二人で勝負。俺達が勝ったらそのサンソルジャーを頂くぜ!」
カジオはその話を聞くとアムに話し掛けた。
「だったらさ、ヤマトとアムが出たらいいんじゃないかな?」
「私、今日はイカロス持って来てないわよ。メンテナンス中だから」
カジオはガックりと落ち込んだ。そして、ヤマトに話し掛ける。
「どうやら、僕とヤマトで戦うしかないみたい」
「そ、そうだね」
ヤマトも残念そうに言った。アムとならば絶対勝てると思っていたので、少し残念だった。
そうなると、ヤマトとカジオが戦うしかない。
「ねえ、た、戦わなきゃ駄目かな?」
ヤマトはオロオロとしながらカジオに尋ねた。
カジオはヤマトを一喝する。
「すぐ弱気になるんだから。さっきの勢いはどこに行ったのさ!?」
ヤマトはしゅん、とうなだれる。
ゴン太郎はそれを見て大声で笑う。
「はっはっはっ!いっそ諦めて素直に渡したらどうだ?」
ゴン太郎はヤマトを挑発する。
ヤマトは恐くて嫌だったが簡単にサンソルジャーを渡したくはなかったため、カジオと一緒に戦うことを選んだ。
「カジオ。た、戦おう!」
「うん!」
二人と三人が向かい合う。そして、Gキューブの中にそれぞれのロボを出撃させる。
「サンソルジャー!」
「行け、ガンマ!」
ヤマトはサンソルジャーを、カジオはガンマを出撃させる。
「それ、ドゥルー!」
「それ、ドゥルー!」
ネジスケとパナスケは茶色いアーマーが特徴の量産機、ドゥルーを出撃させる。
「行けぇ!ガガコング!!」
ゴン太郎は他の機体に比べて倍はある大きさのロボを出撃させる。
見た目はそのままゴリラで、体の所々に葉っぱ型の装甲を身につけている。
そして、ガガコングは背中のジャイアントハンマーを両手に持つ。
「さあ、行けお前ら!」
ゴン太郎が命令すると、ネジスケとパナスケのドゥルーがカジオに襲い掛かる。
「うわぁ、来た!」
カジオは突っ込んで来るドゥルーに驚き、後退する。
ヤマトは助けようと思ったが、ガガコングがハンマーを振り下ろそうとしているのに気が付いてサンソルジャーを下げさせた。
ネジスケのドゥルーはハンドガンを構えており、ガンマと撃ち合いになる。
その隙を突いてパナスケのドゥルーがガンマをソードで切り付ける。
ガンマは右肩を破損し、バランスを崩す。
「うわ、えと、えと」
カジオは動転してまともに制御出来ていない。
ネジスケのドゥルーはハンドガンを撃ちながら後退する。
「行くぞ!これが必殺技だ!」
ネジスケが宣言すると、カジオは慌ててガンマを逃げさせようとする。
スペリオルアクション《バーストバレット》
ネジスケのPCDから電子音声が流れる。
スペリオルアクションとはカスタムソルジャーにおいての必殺技で、パワーエナジーを溜めることで使用することが出来る。
パワーエナジーは攻撃や防御、移動やダメージなどにより溜まる。
どの行動でどれだけ溜まるかもロボやカスタマイズによって異なってくるため、それぞれどんな必殺技を使うかも重要になってくる。
必殺技はそれぞれ必要なパワーエナジーの量が異なる。それに加え、専用技と武器技がある。
武器技は銃や剣などの武器を使えば誰でも使える技で、多くのプレイヤーはこちらを使用している。
それに対して専用技は、ワンオフ機などのみ使用可能だったり、独自に組み上げた技のことを指す。
バーストバレットは武器技のためカジオでも見慣れた技だ。
一直線に飛ぶことは分かっているため、カジオは横に避ける。
「もらった!」
そこへ、パナスケがドゥルーを仕掛ける。
スペリオルアクション《メガスラッシュ》
ドゥルーの持つソードが青いエネルギーで満ち溢れ、カジオのガンマを切り裂いた。
「あああ、ガンマが!」
カジオはショックを受けた。ガンマは壊れてしまったが、切断されたのは手だけなので修理に出せば大丈夫だろう。
一方のサンソルジャーとガガコングは、接戦だった。
サンソルジャーはガガコングの拳やハンマーをかわしながら、隙を突いて攻撃するも決定打にはまったくならない。
ガガコングは、ハンマーを振るい、サンソルジャーは盾で防ぐも吹っ飛ばされる。
起き上がろうとするも、二体のドゥルーがサンソルジャーを押さえ付ける。
「ゴン太郎さーん!」
「言われた通りにしましたよー」
ネジスケとパナスケはゴン太郎の顔を伺う。
ゴン太郎はニッと笑った。
「お前らよくやった!」
スペリオルアクション《メガインパクト》
ガガコングのハンマーが黄金に輝き、両手で天に向かって掲げる。
そして、ハンマーを思いっ切り地面に叩き付ける。
黄金の衝撃波が地面を伝って進んで行き、動けないサンソルジャー目掛けて進む。
そして、ドゥルーを巻き込んで大爆発を引き起こす。
「・・・・・ん?」
一人の少女が河川敷の上段の道を歩いていた。
年は16程で手足はスラリと伸びた大人びたルックスをしている。
黒いパーカーを深く被り、顔や髪は隠れて見えない。
少女は河川敷でファイトをしているヤマト達を見詰めた。
「子供はいいわね・・・?」
少女はヤマトを改めて視界に捉える。
パーカーに隠された顔から燃えるような深紅の瞳が現れる。
「あの子・・・」
「あー!ひどいッスよ」
「ゴン太郎さーん!」
ネジスケとパナスケはゴン太郎に抗議する。
すると、ゴン太郎は不敵に笑い出す。
「フッフッフッ・・・お前達、よく見ろ!」
二人は言われた通りにGキューブの中を覗く。
「あ!」
「あ!」
二人は自分のドゥルーを見つけた。
ダウンフェイズこそしているものの、壊れた箇所は無い。
「はっはっはっ!俺様がお前達のロボを壊すわけないだろう!」
ゴン太郎は得意気に高笑いする。
ネジスケとパナスケはホッと胸を撫で下ろす。
「さすがです、ゴン太郎さん!」
「マグレっぽい・・・」
ゴン太郎はネジスケとパナスケからヤマトに視線を移す。
「さあ、俺様の勝ちだ!サンソルジャーは譲って貰うぞ」
「ゴン太郎さん。サンソルジャーが見つかりません」
「ひょっとして壊しちゃったんじゃ・・・」
ゴン太郎は顔を青くしてサンソルジャーを探す。
が、どこにもいない。
まさか本当に木っ端みじんに破壊してしまったのだろうか。
「大丈夫です」
ゴン太郎やカジオが慌てていると、ヤマトが口を開いた。
「サンソルジャーは、ここにいます!」
「え?」
「「どこ?どこ?」」
「ど、どこなの?」
ゴン太郎にネジスケとパナスケ、カジオもGキューブを覗き回るがどこにも見当たらない。
アムは考え込む。
「・・・下」
上段の少女は小さな声で呟いた。
その瞬間、サンソルジャーが地中から飛び出した。
ゴン太郎は驚愕のあまり飛び上がる。
「そうか。二体のドゥルーを盾にして、その隙に地面に逃げたのね!」
アムが真相を推理する。
ヤマトはコクッと頷き、操作に戻る。
サンソルジャーとガガコングが再度向かい合う。
「これが、僕の必殺技!」
スペリオルアクション《ストームスピア》
サンソルジャーは槍を天に突き出す。すると青い風が槍から弾け飛ぶ。
槍を後ろに引くと同時にクルクル回転させる。
辺りに散った風が再び槍に集まり、槍全体と右手が青く輝く。
大地を強く踏み締めると、サンソルジャーは思いっ切り槍を前に突き出した。
槍の先からさっき集まった青い風エネルギーが放出され、ガガコング目掛けて直進する。
ガガコングは身動きが取れず、腹にストームスピアを直接受けてしまう。
「が、ガガコングー!」
ゴン太郎の叫び虚しく、ガガコングは大木に叩きつけられる。
ガガコングの腹はボロボロになり、バチバチと弱い電流が流れている。
そして、ガガコングの体から光が弾けた。
ダウンフェイズだ。
ゴン太郎達は呆然と立ち尽くし、ヤマトは深呼吸をして呼吸を整える。
カジオとアムは拍手でヤマトを祝福する。
「やったな、ヤマト!」
「本当、凄いわ」
ヤマトは恥ずかしくなり、ううう、と呻く。
そこへ、ゴン太郎が歩み寄って来た。
「俺の負けだ・・・まさか、今日カスタムソルジャーを始めたばかりのお前がここまで強いとはな」
「そうだそうだ!この翼ヤマト先生を敬え!」
カジオが自慢げに大声を出す。
アムは呆れてため息をついた。
「何でアンタが調子に乗ってんのよ」
「真っ先に負けたくせにー」
「くせにー」
ネジスケとパナスケの呟きにカジオはムキになって怒る。
ヤマトはサンソルジャーを手に取った。
いつの間にか夕日が顔を出し、サンソルジャーのボディをオレンジに染め上げる。
その輝きを見て、ヤマトの顔に笑みが零れた。
少女はまだ河川敷を見下ろしていた。
その瞳はアムやゴン太郎ではなく、ヤマトだけを見詰めていた。
少女の深紅の瞳にはヤマトの深緑の瞳が映り込んでいる。
「翼・・・ヤマト」
ヤマトの名を呟くと、少女はその場を去った。