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カスタムソルジャー  作者: バームクーヘン
第3章 雷帝降臨
20/25

第20話 この小さな星で

その後も、ヤマトは順調に勝利を重ねていった。

Gサイトに頼らず相手を真っ向から倒していき、残り試合も少なくなって来た。


ヤマトとアスカは控室に戻ってブラスター・ウイングの手入れをしていた。


「あと少しで決勝ね……その後が本番だけど」


アスカは溜息混じりに話す。

ヤマトはブラスター・ウイングを机に置くとアスカと向き合った。


「エクレールさんって、どんな機体を使うの?」


「姉さんは三傑作を使って来るはずよ。ただ、それだけは機密でね……私でも、詳しくは探れないの。でも」


その時、何者かが扉をドンドンと叩いてノックした。

ヤマトは不審に思いながらもロックを解除し、扉を開けた。



「邪魔するわ」


入って来たのは眼鏡を掛けた少女だった。


「チェールさん?それにマルゴイさんも」


やって来たのはチェールとマルゴイだった。

そして、二人の後ろから現れたのは……



「キリュウさん!」


ヤマトはその人物の名前を呼んだ。

キリュウはヤマトの前に出るとヤマトの肩に手を置いた。


「久しぶりだな……お前の戦いは、見させて貰ってる。本当に見事だ」


「ありがとうございます……でも、キリュウさんはどうして此処に?」


ヤマトが尋ねるとマルゴイとチェールはずっこけ、キリュウは吹き出した。


「お前は、目の前の相手のことしか見えてないんだな……俺は前回の大会でベスト8に入ったからシード権があるんだよ」


「あ、そうなんですか」


ヤマトは恥ずかしくなって、頭をポリポリ掻く。

チェールは呆れて溜息をついた。


「そんなことにも気づかないなんて……何かあったわけ?」


「その、色々と事情が…」


ヤマトはアスカに目を向け、アスカは苦笑いで応える。


キリュウはコホンと咳ばらいすると、改めてヤマトと話し合う。


「……どうやら分かったようだな。頂点の、勝者の責任というものを」


「はい。チャンピオンになればその瞬間から皆の代表になる……だから、皆に誇れるファイターとして戦う。それが責任です」


「分かっているなら、俺が教えることは何もない……ただ、俺の頼みを聞いて欲しい」


キリュウはヤマトの目を真っすぐ見つめながら話し始めた。



「今のお前の戦い……確かに強くなっているが、決勝で俺と戦った時のような気迫が感じられない。だから、次に俺と戦う時は……お前の力の全てをぶつけて欲しい。それが言いたかった」


ヤマトは驚いた。

まさか、Gサイトのことを言っているのだろうか。


ヤマトが尋ねる暇もなく、キリュウは二人を連れて去ってしまった。


チェールは後ろ目でヤマトの控室を見ながら呟いた。


「あの子、何だか感じ変わったわね」


「俺はあんぐらいの方がいいぜ……戦ってる時のあいつこええからなぁ」


マルゴイが肩を震わせ、キリュウは二人を見ながら呟いた。


「俺は、あのヤマトと戦わなければならない……そうでなければ、前に進めない」




ヤマトはアスカに尋ねた。


「どうしよう」


「使って欲しいって言ってるんだからお望み通りにしてあげたら?」


アスカはそう言いつつも驚いているようだった。


「でも驚いたわ。あの人、まさかGサイトのことを感づくなんて」


「僕、薄々感じてるけど……キリュウさんには、Gサイト抜きじゃ勝てないと思う」


ヤマトの意見にアスカは頷いて肯定した。


「そうね……彼、以前とは比べものにならない力を感じる。機体も実力も、相当なはずよ」


ヤマトは暗い表情のままだった。

アスカはヤマトの考えを察するとヤマトの隣に座って話し掛けた。



「負けるかもしれないからGサイトを使う………っていうのが嫌なのよね?」


「うん……出来れば、Gサイトなんて使いたくない」


「色々あったし、私が言えることじゃないかもしれないけど……Gサイトって、本当はそんな悪い物じゃないの」


アスカの発言にヤマトは「え?」 と目を点にして驚く。


「人々がGサイトに目覚めた理由は分からないけど、皆、カスタムソルジャーともっと向き合いたい、もっと繋がりたい。そう願った人が、Gサイトに目覚めるんじゃないか……最初に目覚めた私と同じじゃないかって、そう思うの」


「カスタムソルジャーと、繋がる………」


「ええ。Gサイトは……私達人と、カスタムソルジャーの絆の証だと。私はそう思う。使い方さえ間違えなければ、互いに楽しいファイトが出来るはずよ」


アスカはそう言ってヤマトの手をそっと握り締めた。

ヤマトはブラスター・ウイングを見つめる。


Gサイトを使うと、声が聞こえた。



『主よ……貴方自身の力を信じるのだ。その身に宿りし力。それら全てが貴方の力だ。Gサイトも私も……貴方の一部なのだ』


ブラスター・ウイングの声だとヤマトには分かっていた。

アスカにも聞こえていたようで、フッと微笑むとヤマトに寄り添う。


ヤマトはブラスター・ウイングを撫でながら答えた。


「ありがとう、皆。僕、全力でキリュウさんと戦うよ!」





『さぁー! いよいよ始まりました、世界大会決勝戦! このファイトを制した者が、チャンピオンへの挑戦を掛けたファイトに足を進めます!』


司会のアナウンスに、会場がワーッと歓声を挙げる。


カジオはワクワクを抑えられない様子で、そわそわしていた。


「いよいよ決勝かー。僕、ワクワクが止まんないや!」


「うむ。俺も楽しみだ……あのヤマトが、まさかここまで成長するとはな」


ゴン太郎も感慨深い様子でいる。


「アムはヤマトとキリュウさんのどっちを応援するの?」


「私は……二人とも、頑張って欲しいわ」




キリュウはGキューブの前に立ち、ヤマトを待つ。

司会のアナウンスや周りの歓声などで騒々しいはずだが、全ての音が自分を通り過ぎていくようだった。


神経を研ぎ澄ませ、ただひたすら相手を待つ。

そして、歓声が一際騒がしくなったと同時に気配を感じた。


ゆっくりと目を開く。

ヤマトとアスカがこちらに向かって来ている。


やがてヤマトがGキューブの前に立ち、キリュウと向かい合う。

その瞳は、虹色に輝いていた。


キリュウは感じとっていた。あの時と同じ力を。



「俺の要望は、聞いてくれたようだな……礼を言うぞ」


「キリュウさん……僕は、自分の持つ全ての力で貴方に勝ちます!」


ヤマトはそう言い放った。

キリュウは不思議に思っていた。


(あの時と違い、ヤマト本来の雰囲気……しかし、力は弱まるどころか逆に強くなっている。まるで………)


ヤマトそのものだな。とキリュウは思った。

少しだけ笑みを浮かべ、そして告げた。


「もう語る必要は無い……行くぞ、翼ヤマト!」


「はい!」


そして、二人は自分の機体を取り出し、フィールドに出撃させる。


『さぁ、いよいよ始まります。世界大会ファイナル……ファイト!』



「ブラスター・ウイング!」

「ジ・アースパラディン!」


二人のカスタムソルジャーが闘技場ジオラマに降り立った。

闘技場ジオラマは正にこの世界大会会場の縮図のようなフィールドで、円形のフィールドを観客席に囲まれたフィールドだ。



そして、キリュウの機体のジ・アースパラディンは黄金(こがね)色に輝く騎士型の機体だった。


黄金に輝く剣と盾は見る者を威圧する凄まじいプレッシャーを放っていた。



二体は睨み合い、そして同時に駆け出した。ビームジャベリンと剣が激しくぶつかり合う。

互いの刃が何度もぶつかり、一度距離を取るとすぐに接近してまた刃を交える。


ブラスター・ウイングのラッシュとも言える怒涛の突きを盾で防ぎながらかわし続け、反撃に剣を突き出す。

ブラスター・ウイングは剣を蹴り上げるとそのままの流れで空中で回し蹴りをぶち込む。


ジ・アースパラディンは吹っ飛ばされるも大地を強く踏み締めてなんとか体勢を立て直す。



「……………」


ヤマトは大きく息をするとまた大きく吐き出した。

まずは一撃。


しかし、その一撃までが遠かった。

あれ程のプロセスを経てやっと蹴り一発とは。

やはりキリュウさんは強い、とヤマトは思った。

勝つための最善の手を打っても少しずつしかダメージを与えられそうにない。


それも、油断したらすぐに足元を掬われる。



ジ・アースパラディンはブラスター・ウイング目掛けて駆け出した。

また互いの刃が激しくぶつかり合う。


ジ・アースパラディンは力強く剣を横に振った。

ブラスター・ウイングはビームジャベリンで防ごうとするも耐え切れず、空中に吹っ飛ばされる。


しかし一瞬で体勢を整えるとビームライフルを放った。

ジ・アースパラディンは盾でビームを防ぎながらブラスター・ウイングに接近する。


そして、ブラスター・ウイングに剣を振り下ろした。これではかわせない……が、ブラスター・ウイングは変形することで剣を回避する。

ブラスター・ウイングはすぐさま飛び立つと旋回してバルカン砲を発射する。


ジ・アースパラディンは盾で防ぎながらブラスター・ウイングが接近して来るのを待つ。

すると、ブラスター・ウイングがジ・アースパラディンに近付いて来た。


ジッと構え、攻撃のタイミングを計る。

そして、勢い良く剣を振り上げた。

しかしブラスター・ウイングは変形解除しながらジ・アースパラディンの頭上を素通りする。


二体のロボは互いに背中を見せながらもそのまま武器を振って切り合う。

また距離を取るとジ・アースパラディンは接近し、ブラスター・ウイングはビームライフルを発射する。


ジ・アースパラディンは盾で防ごうとするが、ビームが当たったのはその足元だった。

バランスを崩したジ・アースパラディンにブラスター・ウイングは蹴りを叩き込む。


バランスを崩しながらもなんとか盾で防ぐ。

しかしそのせいで更にバランスが崩れる。

ブラスター・ウイングはジ・アースパラディンの肩にビームを撃ち、更にビームジャベリンで胸を突き飛ばした。


形勢が悪くなった瞬間、ブラスター・ウイングは更に仕掛ける。



キリュウは失敗を悟っていた。

ヤマトの戦闘パターンの強みは、その超攻撃性。

相手の弱点や隙を容赦なく突き崩し続ける戦闘スタイル。


だからこそ、絶対に弱みを見せてはならなかったのだが、上手くいかなかった。


しかし、キリュウに取ってそんなことはどうでも良かった。

そう、今ここで、全力でヤマトとぶつかることが大事なのだから。



その後も激しいぶつかり合いが続く。

しかし、それは徐々に変わっていった。

ジ・アースパラディンにばかりダメージが入り、動きが鈍くなって来たのだ。


ブラスター・ウイングは何度も何度も何度もビームジャベリンで切り付け、やがて盾ごと一緒に突き刺そうとする。

ビームジャベリンは盾を貫通し、ジ・アースパラディンの胸に突き刺さる。


バチバチと激しい火花が飛び散り、ジ・アースパラディンは何とか押し返そうとする。


ブラスター・ウイングはいきなりビームジャベリンを引き抜き、勢い余って倒れ込んで来るジ・アースパラディンの顔面を蹴り上げて何回か切り付けた後に回し蹴りで吹っ飛ばした。



キリュウはヤマトを見る。

もう雰囲気で分かる。

必殺技を使うつもりだ。


「なら俺も応えるまで!」


「必殺アクション!」



スペリオルアクション《ライトニンググングニル》

スペリオルアクション《グランドキングダム》


ブラスター・ウイングはビームジャベリンをクルクル回しながら天に掲げ、フィールド中から電撃のエネルギーを集める。


ジ・アースパラディンは剣に盾をくっつけると両手で天に掲げた。

周囲に強力なエネルギーフィールドが形成され、ライトニンググングニルの電撃を防いでいる。


「行くぞ、勝負だ!!」


ジ・アースパラディンは剣を大きく振りかぶり、地面へ叩き付けるように振り下ろした。

地を這うように巨大な黄金の衝撃波が突き進む。

互いの必殺技がぶつかり合う……かと思われた瞬間、ブラスター・ウイングは勢い良くジャンプした。


「何!?」


キリュウは突然のことに驚く。


驚くキリュウをよそにブラスター・ウイングは目の前に集まったエネルギーを凝縮した球体を作り出す。

そして、球体にビームジャベリンを突き刺し、強力な電気の槍と化して突き進んだ。


超スピードの槍をかわすことが出来ず、ジ・アースパラディンはライトニンググングニルを直に受けた。

大規模の爆発が起こり、辺りに電気が飛び散る。



ブラスター・ウイングは無事に地面に着地し、そっと後ろ目でジ・アースパラディンを見つめた。

碧の瞳に見つめられながら、ジ・アースパラディンは爆破して砕け散った。




キリュウは呆然としていたが、やがて深い溜息をついた。


「俺としたことが、熱くなりすぎたな」


相手の動きをよく見ず、勢いにまかせて必殺技を使ってしまった。

勝利を忘れ、考えることを放棄してしまう。そんな自分が負けるのも当然だ。


しかし、ヤマトは勝利を忘れなかった。

勢いに流されず、勝利への最善の行動をとり続けた。


キリュウはそっと手を差し伸ばした。



「俺の負けだ。まいったよ」


「キリュウさん。ありがとうございました………楽しかったです」


ヤマトとキリュウは、グッと互いの手を握り締めた。

勝負の、そして感謝の気持ちを全てこの握手に込めて。




『決まったああああああぁぁぁぁぁ!!!!世界大会優勝。そしてチャンピオンへの挑戦を掛けたスペシャルマッチへの権利を手にしたのは……ブラスター・ウイング!翼ヤマトだああああ!!!!!』



司会のアナウンスと共に、会場がワッと熱気に包まれる。


キリュウはヤマトの手を放すとその場から去って行った。


ジェネ達は集まってこの試合を見ていた。

ジェネはガムで風船を作りながら話し始めた。


「すっごいねぇ。Gサイト無しであそこまで戦えるなんて」


「………だが、ここからはGサイトを持つ者の領域だ」


ハイバラは静かに言い放つ。

その声には自身の持つ力についての絶対的な自信があるのだろう。



「……倒さないでね。私が倒すから」


ピタがハイバラに注意する。

ラスはキョトンとしながらピタに尋ねた。


「ピタは彼が気に入ったのかい?」


「うん。戦いたい」


ピタはニコニコ微笑みながら答えた。

ジェネはニタニタ笑い始めた。


「何々、ヤマト君ったらモテモテだねぇー」


「……悪いが、私は全力で戦うのみ」





ヤマトは階段を下りてGキューブの前から去り、アスカの前に立った。

アスカは申し訳なさげにしながら口を開いた。


「………明日から始まるファイトは、貴方の嫌いな……カスタムソルジャーを利用しての、Gサイトの優劣を決める戦いになる」


「大丈夫。覚悟は出来てる」


ヤマトはアスカの手をそっと握り締めた。

アスカはヤマトの目を見つめる。


「……お願い。勝って」


「うん」


二人は並んで歩き、会場を後にした。

普通の世界大会は終わりを迎えた。


Gサイトを持つ者達の、戦いが幕を上げた。

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