第17話 ビギンズナイト
「エクレール・テロメア……」
私の傍らにいる少年がそう呟いた。
無理もない。その名を知らない人など殆どいない彼女を倒せと言われたのだから。
アスカは再び歩き始め、肩を借りているヤマトもつられて歩き出す。
「Gサイトがどうして目覚めたのかは分からない。でも、確かにこれは優れた力よ。相手の動きが、自分のするべき行動が手に取るように分かる」
アスカは引き続きGサイトの説明に入る。
ヤマトが疑問に思ったことを尋ねる。
「Gサイトがファイトの様子を予知出来るのは分かるんですけど……でも、どうしてああもすんなり勝てるんですか?ありえない程正確な動きもしますし………」
「それもGサイトの厄介な所だけど……Gサイトは、一度やった動きなら完璧にマスターしてしまう力も持っているの」
ヤマトはよく分からずに首を捻る。
アスカは更に詳しく話す。
「Gサイトの力で未来を予知し、そのイメージ通りに動く………すると、それからはGサイトを使わなくてもそんな複雑な操作が出来る実力を身につけてしまうの」
「そんな……」
「だから厄介なのよ。Gサイトを使えば使っただけ実力も上がる。そして更なる強さを求めてGサイトを……」
「……そうやって、僕みたいに力に溺れてしまうんですね」
「そう。貴方が正気に戻ったのも珍しいのよ」
「ブラスター・ウイングのおかげです」
ヤマトが名前を呼ぶと、ブラスター・ウイングが起動してヤマトの肩に乗った。
アスカはそれを見て少しだけ微笑んだ。
まだダメージが残っているのにヤマトが呼べばいつでも駆け付けるようだ。
「どうして、ブラスター・ウイングは操作していなくても動くんですか?」
「分からないの。マグナ・オーバーロードも……」
マグナ・オーバーロードもフラフラと飛んでアスカの肩に乗った。
ブラスター・ウイングと目を合わせると、ヤマトとアスカの回りを二人で一緒に飛び始めた。
「ああやって勝手に動くけど……Gサイトを持つ者の中でも、中々事例がないから」
「アスカさん、貴女はどうしてお姉さんを倒して欲しいんですか」
ヤマトは次の疑問をぶつける。
アスカはそれに答える。
「Gサイトは優れた力……そして、姉さんはその力を持つ者を集めた集団を作り始めてるの。貴方も聞いたことあるでしょう?世界大会のベスト4が三年連続で変動無しって」
「もしかして……」
ヤマトの想像したことを肯定して、頷いた。
「そう、世界大会ベスト4は全員Gサイトを持っているの」
「………」
アスカは遠くを見ながら話す。
「私は、カスタムソルジャーは皆に希望を与える物と思ってる。だから、Gサイトを使って勝つのは自由だけど………大会の頂点を自分達で独占しようとしている姉さんは許せない」
「お姉さんはどうして………あ」
ヤマトは思わず声をあげ、アスカも足を止める。
ブラスター・ウイング達も持ち主の元に戻る。
見ると、そこはヤマトの家だった。
「あの、僕の家此処です」
「………じゃあ今日はここまでね」
アスカはヤマトを家に帰そうとする。
すると、ヤマトがアスカに尋ねた。
「あの、アスカさんって今どこに住んでるんですか?」
「ホテルにね。お金なら賞金とかで色々あるから」
ヤマトは頷いた。
そういえばアスカはプロだから、大会で優勝すると賞金が出るのだ。
「あの、もし良かったら………」
「どうしてこうなったのかしら……」
アスカは半ば呆れながら、辺りをキョロキョロ見渡した。
今、アスカはヤマトの部屋にいる。
ヤマトにどうしても、と言われつい来てしまった。
「あの子、自分の部屋に女連れ込んでる自覚あるのかしら」
無いだろうな。と思いながらも呟かずにはいられなかった。
アスカはヤマトの机の前に移動する。
「ロボマガと……カスタムソルジャー関係の物ばっかりね」
机の上にはドライバーやらパーツやらスプレーやらでごちゃごちゃしていた。
綺麗に整頓されている部屋の中でここだけが掃除されていない。
「あ、私」
ロボマガをペラペラめくっていると、自分の特集を見つけた。
気になったことがあったので他の雑誌も確認する。
「これも、これも………私が出てるページに付箋が貼ってある」
恐らく初めて会った時に調べ直したのだろう。
何だかストーカーされていたみたいで笑ってしまう。
「私も人のこと言えないけどね」
自分の鞄の中に入っているノートパソコンの事を思い出して苦笑する。
あれにはヤマトについて調べ上げた資料がびっしり詰まっている。
好きな色が緑だったことを、机の色から正解だったと確認する。
明らかにカスタムソルジャーに関係ないことも調べてしまったが、それもこれもあの子が………
やめよう。初めての男子の部屋で少しおかしくなっているようだ。
その時、ヤマトが部屋に戻って来た。
お盆の上にケーキとジュースが乗っている。
「すいません。お待たせして」
「別に(やっぱり、この子友達を部屋に呼ぶのと同じ感覚なのね)」
私だけ舞い上がって馬鹿みたいじゃない。
アスカは少し落ち込んだ。
「アスカさん。ちょっと聞きたいことが………」
ヤマトの用件は、ブラスター・ウイングのメンテナンスに付き合って欲しいとのことだった。
海外できちんとカスタムソルジャー工学を学んだアスカに手伝って貰いたいそうだ。
久しぶりにマグナ・オーバーロード以外のカスタムソルジャーを整備するからか、妙に舞い上がってしまう。
あっという間に時間が過ぎていき、ヤマトと談笑も交えながら整備を続けている最中不意に疑問に思ったことを尋ねた。
「もう夜なのに、ご家族はまだ帰って来ないの?」
「今日、皆仕事で帰って来ないんです」
「…………………………………………………………………………………………………………え?」
アスカは呆気に取られた。
当のヤマトは「?」と首を傾げている。
(この子、天然なのかしら……いえ、まだ子供だし。そうよね、私ったら何子供相手に)
「アスカさん?」
ヤマトがぶつぶつ呟きながら俯いたアスカを心配して顔を見上げた。
不意に顔が近づいたのでドキッとしてしまう。
改めて見ると、益々その童顔が目につく。
本当に女の子ではないかと疑いたくなる。
(でも、男なのよね)
アスカは内心自分に呆れ果てた。
いくら否定しても仕方ない。
自分はどうもこの小さなお子様を意識しているらしい。
もはやいつからそうだったかも思い出せない。
ただ、いつにしてもこの幼さの残る童顔の裏にカスタムソルジャーに向けた熱く、固い意志があることに惹かれたことは違いない。
自分でも分かっている。
この子をもう子供ではなく一人の男として見ていることに。
(まあ、これから一緒に戦って欲しい人を子供扱いするわけにもいかないけど)
アスカはそう思った。
やがて整備も一段落し、ヤマトは満足げにした。
そこへ、アスカは改めて尋ねた。
「それで、聞かせて欲しいんだけど………私と一緒に、姉さんと戦ってくれる?」
「あの、一緒にって……」
「貴方も知っているでしょ?セコンド」
ヤマトは頷いた。
セコンドというのはいわばパートナーのようなもので、機体の整備や戦闘中の作戦指揮をする存在だ。
各選手に、一人までのセコンドが認められている。
「私がセコンドになるから……一緒に、戦ってくれる?」
アスカはヤマトの顔を見れずに尋ねた。
今まで力を無理矢理使わせて、これからも利用しようとしているのだから顔向けが出来なかった。
そんなアスカの手を、ヤマトはそっと握った。
「アスカさんは………カスタムソルジャー、好き?」
「もちろんよ」
アスカは速答した。
今までずっとカスタムソルジャーをやってきた。
それこそ、姉とのいざこざの前から。
だから、私はカスタムソルジャーが大好きだ。とアスカは胸を張っていえる。
「僕も。だからアスカさんのお姉さんがカスタムソルジャーで、ただ勝利にこだわるようになっているなら………カスタムソルジャーは楽しいんだって、伝えたい」
ヤマトはアスカの顔をまっすぐ見つめながら言った。
「だから、戦うよ。世界大会で………エクレール・テロメアさんと!」
アスカの目から涙がこぼれ落ちた。
それを拭うと、ヤマトをギュッと抱きしめた。
「ありがとう……………じゃあ早速、言葉遣いから」
アスカの言っていることが分からず、「へ?」と混乱する。
「パートナーにさん付けじゃおかしいでしょ。だから……呼び捨てにして」
「いや、でも。アスカさんは僕より4つも年上で」
「いいの!」
これは単なる我が儘だと自覚している。
確かに小学生が実質高校生の年齢のアスカを呼び捨てにするのはおかしいだろう。
それでも、この子に名前のままで呼んで欲しい。
ヤマトは大分悩んだが、やがて腹を括ったのか顔を見上げた。
「じゃあ………宜しくね、アスカ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
アスカは我慢できずにヤマトを抱きしめた。
ヤマトは慌てふためくが、アスカは構っていられなかった。
頬の熱気がおさまりそうにない。
「……………」
アスカは困り果てた。
どれだけ抱きしめていたのか分からないが、気が付いたらヤマトは寝てしまっていた。
とりあえずヤマトをベッドに乗せなければ。
ヤマトをベッドに乗せて、顔を眺める。
穏やかな寝息を立てるこの顔が愛しくて………
「あれ?」
気付いたらヤマトの隣で一緒に寝ていた。
体が勝手に動いたようだ。
さすがに、一緒に寝るだけと言ってもそれはまずい………と思いつつも両手はヤマトを抱きしめて離さない。
このまま朝になって家族に見つかったら大問題になるだろう。
「まぁいいか」
気にせず寝ることにした。
愛しい人の傍で、アスカは眠りに付いた。




