第16話 カスタムソルジャー
「……………」
ヤマトはいつもの河川敷で、立っていた。
Gキューブの前で、目を閉じてジッと待っている。
雨も上がり、雲の隙間から光が射していた。
そこへ、カジオとアム、ゴン太郎がやって来た。
「ヤマト、一体どうしたんだ?何だか必死に走っていたからとりあえず皆を呼んでみたんだが」
「ヤマト、大丈夫?」
アムが話し掛けると、ヤマトはコクっと頷いた。
「もう、大丈夫だから」
目を閉じて、表情も読めないが、その声は暖かいいつものヤマトの声だった。
アムの顔に思わず笑みが零れる。
その時、ヤマトの目が開かれ虹色に輝いた。
「………来た」
カジオ達は思わず辺りを見渡した。
すると、パーカーを被った少女がこちらに向かっているのが見えた。
少女はパーカーを脱ぐとツインテールの黒髪を揺らす。
「アスカ・テロメア」
ゴン太郎は思わずその少女の名を呼んだ。
周辺にいた人々も、思わず少女に見とれ、その正体をざわざわと噂する。
「あれって、アスカ・テロメアじゃない?」
「えっ本物?」
「さ、サイン貰おうかな」
周囲のざわめきを無視し、アスカはヤマトに話し掛けた。
「………呼んだかしら?」
互いに虹色に輝く瞳を交わす。
ヤマトはアスカに告げた。
「僕に教えて貰います。Gサイトのことも、貴女の目的も」
「条件は、分かるわね?」
アスカが尋ねるてヤマトは頷き、二人共同時に自分の機体を肩に乗せた。
互いに自動で動いた機体を見つめると、今度は互いを見つめ合う。
「貴方の力を見せて。納得のいくものだったら、全て話す」
「ええ」
二人は自分のPCDを取り出して、握り締める。
「何だ何だ!?」
「あのアスカ・テロメアと、全国大会優勝者の翼ヤマトが戦うのか!?」
「ええ!?」
野次馬のざわめきも大きくなり、カジオ達は不安気に二人を見守る。
そして、二人のファイトが始まった。
「ブラスター・ウイング!」
「マグナ・オーバーロード!」
ブラスター・ウイングとマグナ・オーバーロードが森林ジオラマに降り立つ。
大量に生え茂る樹木が二体の姿を隠す。
次の瞬間、ブラスター・ウイングとマグナ・オーバーロードは銃で森林を薙ぎ倒し始めた。
「ちょ、何してんのさ!?」
カジオは思わず突っ込んだ。木を利用して相手から隠れながら戦うのがメインのフィールドで森林を伐採する意図が分からなかった。
もっとも、ヤマトとアスカの考えは二人だけには理解出来ていた。
全てを見通すGサイトに、小細工は通用しない。
ならば、大量にある木は邪魔でしかない。
フィールドの木をあらかた処理すると、二体は向かい合った。
ブラスター・ウイングはビームジャベリンを取り出すとマグナ・オーバーロードに向かって飛んでいく。
マグナ・オーバーロードは両手クナイを背中から引き抜くとビームの刃でビームジャベリンを受け止めた。
ブラスター・ウイングはバックステップでクナイをかわしてビームジャベリンをクルクル回してシールドの様にする。
そこに銃弾の嵐が撃ち込まれる。
マグナ・オーバーロードは小型銃を撃ちながら大型銃を取り出す。
ブラスター・ウイングは間一髪で変形して大型銃のビームをかわす。
飛行して旋回をしながらビームをかわして、マグナ・オーバーロードに接近して変形を解く。またビームジャベリンをクルクル回してシールドにし、投げ飛ばされたクナイを防ぐ。そして、すぐさま後ろに飛行する。
防がれたクナイを握り締めたマグナ・オーバーロードがクナイをビームサーベルにして直前までブラスター・ウイングがいた所を切り裂く。
そして、すぐに大型銃で追撃する。
ブラスター・ウイングは地面に垂直に向かって下りて着地する。
何発か放たれたビームは横や上など、ブラスター・ウイングが通らなかった所を素通りした。
マグナ・オーバーロードも地面に着地し、ビームサーベルでブラスター・ウイングに切り掛かる。
ブラスター・ウイングは襲い来るビームサーベルを何回かかわし、ビームジャベリンを突き出す。
マグナ・オーバーロードはビームジャベリンが突き出される前にバックステップをしていたため難無くかわす。
ブラスター・ウイングはかわされることを見越していたのか、突き出した後にダッシュで更に突きにいく。
マグナ・オーバーロードがあらかじめ振っておいたビームサーベルにビームジャベリンが当たり、弾かれる。
その隙に振るわれたビームサーベルをブラスター・ウイングは首を傾けてかわし、再びビームジャベリンを振るう。
ビームサーベルとビームジャベリンがぶつかり、激しい火花が散る。
激しさを増すファイトを見ながらゴン太郎が呟いた。
「しかし、二人とも中々ダメージを受けないな」
「そういや、まだ全然攻撃が当たってないね」
カジオはゴン太郎の言葉を聞いて頷いた。
ヤマトもアスカも、攻撃は全てかわすか防ぐかしている。
「まるでどんな攻撃が来るのか分かってるみたいだ」
ブラスター・ウイングは銃弾の雨をかい潜りながらビームライフルを発射する。
マグナ・オーバーロードはジャンプをすると両手クナイをクロスに構えた。
そこに目前に接近していたブラスター・ウイングのビームジャベリンが叩き込まれる。
地面に落とされるも見事に着地し、ブラスター・ウイングを押し返す。
ブラスター・ウイングは高速で繰り出されるラッシュをかわし、変形して距離を取る。
旋回してバルカン砲を発射する。
バルカンを小型の銃で撃ち落としながら真っ直ぐにブラスター・ウイングに向かい、片手のクナイを振るった。
ブラスター・ウイングは寸前で変形解除しながらクナイをかわし、背後からビームジャベリンを突き出した。
マグナ・オーバーロードはバク転でビームジャベリンをかわすと同じく背後からビームサーベルで切り掛かった。
ブラスター・ウイングは背中を向けたままビームジャベリンでビームサーベルを弾き、マグナ・オーバーロードと向かい合う。
そして、何度か抜き撃ちあうと距離を取る。
互いに真正面から接近し、それぞれビームジャベリンとビームサーベルを振って交差した。
二体は動かずに硬直していたが、やがて片方が動いた。
ブラスター・ウイングの脇腹に、切り傷が出来ていた。
「え!?」
ヤマトは驚いた。
ブラスター・ウイングが傷付く様子など、微塵も見えなかった。
こんな光景など予知出来なかった。
困惑するヤマトにアスカが告げた。
「確かに貴方は成長したわ……でも、まだよ。貴方のGサイトよりも、私のGサイトの方が強い!」
マグナ・オーバーロードが仕掛ける。
両手クナイのラッシュをかわしつつ、ビームジャベリンで反撃するも当たらない。
避けた勢いで回転し、竜巻のように回転しながら切り付ける。
ガードは出来たが体勢は崩れ、その隙に数回切り付ける。
反撃のビームジャベリンの突き出しを避けるとブラスター・ウイングを蹴っ飛ばした。
「くっ」
ヤマトは落ち着いて反撃に移る。
Gサイトもフルに使い、全力でアスカの手を読もうとする。
アスカも瞳を虹色に輝かせながら操作を続ける。
今のところ負ける姿は全く見えない。
「諦めなさい。別に負けても話さない訳じゃないわ」
「まだまだ!」
ヤマトはまだ諦めない。
二体のロボは銃撃戦を始め、銃弾やビームをかわしながら撃ち合う。
マグナ・オーバーロードの横をビームが素通りし、ブラスター・ウイングの肩に何発かの銃弾が当たる。
怯んだブラスター・ウイングを蹴っ飛ばし、更に追撃を掛ける。
振り下ろされるビームサーベルをかわすと、ビームジャベリンでサーベルを止める。
が、マグナ・オーバーロードは空いた腕でブラスター・ウイングの顔面を突き飛ばし、ビームサーベルで切り付けた。
ブラスター・ウイングは孤を描くようにして宙を舞うと地面に倒れた。
「操作も、Gサイトも私の方が上。諦めた方がいい」
「まだ、諦めません!」
「………どうして?」
アスカはヤマトに尋ねた。
「どうして貴方はまだ戦うの?」
「……キリュウさんに言われたんです。責任を忘れるなって」
「勝ち続ける事とでも言うつもり?」
「いいえ……さっき、僕みたいになりたいって子に会いました。その子は本当に真っ直ぐで」
アスカはヤマトの話を黙って聞く。
ヤマトは、アスカの目を見ながらハッキリと答えた。
「だから、僕は……Gサイトが相手より劣っている。そんな理由で負けられない。僕を日本一と目標にしてくれる人達のために……いつでも、誰が見ても恥じない戦いをする!それが責任なんだ!」
《スターブースト》
ブラスター・ウイングはスターブーストを発動させた。
サンソルジャーのスターブーストは全身が黄金に輝くものだったが、ブラスター・ウイングは全身に淡い青色の粒子を纏った姿をしている。
「今更スターブーストを使った所で!」
アスカは攻撃を仕掛ける。
マグナ・オーバーロードがビームサーベルをブラスター・ウイングに振るう。
ブラスター・ウイングは首を傾けてかわすとビームジャベリンを突き出した。
マグナ・オーバーロードはそれをかわすと、素早く小型銃を取り出して発砲した。
Gサイトで見た通りなら、これが命中する。
しかし、ブラスター・ウイングは身を屈めながら足払いをしてマグナ・オーバーロードを転倒させる。
「!?」
アスカは驚きつつもマグナ・オーバーロードを飛行させ、追撃を避ける。
(まさか、この短期間でGサイトを進化させている!?しかも、私と渡り合える程!)
アスカはヤマトの成長に驚いたが、同時に笑みを零す。
「いいわ……全力で来なさい!」
《スターブースト》
マグナ・オーバーロードの周りが炎に包まれ、その全身に赤い炎を纏わせる。
「行きます!」
「来なさい!」
ブラスター・ウイングとマグナ・オーバーロードの武器が真正面からぶつかった。
銃弾の嵐をかい潜りながら接近し、ビームジャベリンを振るう。
何回かかわされるも、見事その腹に命中し、装甲を傷付ける。
マグナ・オーバーロードはブラスター・ウイングを蹴っ飛ばし、背中の武器を引き抜いた。
すると、ビームの刃がクナイ以上に伸びる。
「両手で使っているのにクナイではなくビームサーベルになった!?」
ゴン太郎はマグナ・オーバーロードの武器に驚く。
両手で武器を使う時はクナイになるはずなのに……
「見て!ブラスター・ウイングも」
カジオがブラスター・ウイングを指差す。
ブラスター・ウイングは高速飛行形態に変形し、バルカン砲を放つ。
しかし、発射されたのは青いレーザーだった。
マグナ・オーバーロードは放たれたレーザーを次々と切り裂いていく。
「これがスターブースト……パワーやスピードの上昇だけでなく、武器の性質そのものを変えてしまう力」
アムがこの事態の解説をする。
そして、ヤマトとアスカを見た。
二人とも真剣な表情だが、ファイトの最初とは明らかに違っていた。
攻撃が当たれば笑みが零れ、逆に攻撃を受けたら悔しがり、そうでない時は真剣で………
二人とも、ファイトを楽しんでいた。
それは周りの野次も同様で、次第に笑顔で戦いの行方を応援する。
ビームジャベリンと二刀のビームサーベルが何度も激しくぶつかり合い、火花を散らす。
時には空中、少しすれば地上とフィールドを縦横無尽に駆け回りながら戦いを続ける。
ブラスター・ウイングはマグナ・オーバーロードの正面から背後に回り、ビームジャベリンを振るう。
マグナ・オーバーロードは上に飛んでかわし、反撃にビームサーベルを振り下ろす。
ブラスター・ウイングは横に飛んで回避し、ビームライフルを発射する。
ビームサーベルでビームを切り裂き、再度ブラスター・ウイングに向かって突っ込んでいく。
ブラスター・ウイングもビームジャベリンを持ち直して真っ向から挑む。
ビームジャベリンとビームサーベル二本がぶつかり、火花が激しく飛び散る。
二体は切り合うのをやめて蹴りを繰り出す。
それぞれの足がぶつかり合い、軽い爆発が起きて足の装甲が消し飛ぶ。
しかしお互いにそんなことは気にもかけずビーム兵器で相手を切り裂く。
互いの装甲に何度も命中し、避けることも忘れただひたすら相手を切り裂く。
そして、ビームジャベリンとビームサーベルが相手の体に深く突き刺さり、激しく火花を散らす。
やがて爆発が起き、二体は正反対に吹き飛ぶが、尚も起き上がる。
そして、
「必殺アクション!」
「必殺アクション!」
スペリオルアクション《ライトニンググングニル》
スペリオルアクション《ブレイジングエクスカリバー》
ブラスター・ウイングはビームジャベリンをグルグル回しながら天に掲げ、マグナ・オーバーロードは二本のビームサーベルを両手でグルグル回す。
すると、フィールド中からそれぞれ雷と炎が集まって周囲を囲む。
雷と炎が至る所でぶつかり合い、フィールドのありとあらゆる場所が崩れていく。
そして、二機は同時にゆっくり後方へ浮き上がり、目の前に集めた力を凝縮させた球体を発生させる。
ビームジャベリンには雷が、ビームサーベルには炎が纏われる。
そして、ブラスター・ウイングは球体にビームジャベリンを突き刺し、マグナ・オーバーロードは球体をX字に切り裂く。
武器が球体に触れた瞬間、エネルギーが爆発した。
二機は同時に急加速して雷と炎を武器と全身に纏って突撃した。
雷の槍と炎の刃がぶつかり合う。
轟音を立てながら激しくせめぎ合い、フィールド中に爆発が起こる。
「おおおおおおおおお!!!」
「おおおおおおおおお!!!」
ヤマトとアスカが全力で機体を支援する。
声を出した所でカスタムソルジャーに影響は無いはずだが、しかし二人の機体は徐々に力を増していく。
まるで二人の意志に応えているかのようだ。
雷と炎は更に勢いを増し、フィールドの外へ飛び出す。
「うわっ!」
「危ね!」
「何だ何だ!?」
近くで見ていた野次達が避難する。
炎や雷が外へ飛び出し、服や地面に当たって火花が散る。
本来Gキューブには見えないバリアが張られており、中から外へ何かが飛び出すことは無いはずだが何故か二人の攻撃の力は外へ溢れ出す。
ブラスター・ウイングとマグナ・オーバーロードの衝突は益々勢いを増し、二人の体にも炎と雷が当たる。
しかし、二人は全く引かずにカスタムソルジャーに全てを捧げる。
そして、いよいよ終わりが訪れる。
雷と炎のぶつかり合いが最高潮に達し、周囲が眩しいばかりの光で包まれる。
そして、決着がついた。
敗者は横に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
そして、全身から光が弾け飛ぶ。ダウンフェイズだ。
勝者は地面を滑りながら踏み止まり、起き上がった。
敗者に顔を向け、ダメージが効いているのか体の至る所から火花を散らす。
しかし、その碧の瞳は、力強く輝いた。
アスカはまだ黙っていた。
フィールドに横たわるマグナ・オーバーロードをジッと見つめ続ける。
ヤマトは目を押さえながらフラフラとアスカに近寄る。
「僕の、勝ち……です」
しかしもう力が入らないのか、フラッと倒れてしまう。
アスカは倒れる前に抱き留めるとヤマトをギュッと抱きしめた。
「ええ……貴方の勝ちよ」
あの後、野次馬達が騒ぎ出す前にカジオ達に抑えてもらい、ヤマトとアスカは移動しながら話を始めた。
「この力は……Gサイトって、一体何なんですか?」
ヤマトは肩を借りているアスカを見上げながら尋ねた。
アスカは前を見ながら答える。
「貴方の大体知っている通りよ。限られた者だけが使える特別な力……それがGサイトよ」
「今日、ブラスター・ウイングに言われたんです。僕はイヴに近いって」
「確かに、貴方ほど短期間で強くなるGサイトの持ち主も中々いないわ」
「イヴって………アスカさんのことですか?」
「そうよ……私とほぼ同時期に目覚めた人もいるんだけどね」
アスカが答えると、ヤマトは更に尋ねた。
「それは誰ですか?」
「それを言うためには、私の目的を話さないといけないわね」
「……目的?」
「ええ………倒して欲しい人がいるの。世界で最も強く、もう五年間も頂点の座に君臨しているカスタムソルジャーの王」
ヤマトは息をのんだ。
そして、恐る恐る尋ねた。
「それって………」
「ええ、私の姉……………エクレール・テロメアよ」
アスカがその名を呼んだ瞬間、周囲の空気が固まった気がした。
アスカは足を止め、ヤマトの顔を見つめた。
ヤマトも、その顔を真っ直ぐに見つめ返した。




