第11話 銀河を見つめし者
「すごいよヤマト!」
カジオがヤマトの肩をバンバン叩く。
ヤマトは恥ずかしがりながら嬉しそうにする。
「あれから連勝とは、大した奴だ!」
ゴン太郎もヤマトの背中をバンバン叩いて祝福する。
「………でも、あの機体どうしたの? あんなの持ってたなんて聞いてないわよ」
アムが問い詰めるとヤマトは答えづらくて目を背けた。
「ちょっと、ね」
「ちょっとって何よ!?」
アムは更に問い詰めるがゴン太郎がそれを抑える。
「まあいいじゃないか。なんであれこのままだとヤマトは勝ち続けられそうだしな」
ゴン太郎が目配せするとヤマトは頷いた。
「今なら、きっとキリュウさんとも戦えると思うんだ」
「言うじゃねえか!!」
何者かの声が響き、ヤマト達は驚いて振り返った。
会場のロビーを、大柄の男がズシズシと歩いて来る。
「貴方、お兄ちゃんの仲間の……」
「おう。俺様がチームドラゴが一人、マルゴイだ!」
チームドラゴとはキリュウをリーダーとしたカスタムファイターの団体で、実力の向上を目指して活動している。
マルゴイはヤマトの前に立ち、ヤマトを見下した。
「キリュウと戦うだとか言っていたが思い上がるな! 強い機体を持っているだけじゃキリュウには勝てねーんだよ!」
マルゴイはヤマトを突き飛ばすと、ずかずかと足音を立てて去って行った。
「何だよあいつ、感じ悪い」
カジオはマルゴイの傲慢な態度に腹を立てる。
ゴン太郎はそんなカジオを窘める。
「『破壊のジャック』マルゴイ………奴の実力は本物だ。奴の手に掛かればどんな機体を使っても相手を木っ端みじんに破壊出来るという」
「ヤマト、大丈夫?」
アムはヤマトが怪我をしていないか心配する。
ヤマトは「大丈夫だよ」と言って軽く微笑んだ。
「僕は………勝つんだ」
ヤマトは決意を改め、ブラスター・ウイングを見つめた。
いよいよ今日の最終試合が始まる。
この試合が終われば、残りは明日の準決勝と決勝だけになる。
ヤマトはGキューブを挟んでマルゴイと向かい合う。
マルゴイはヤマトを嘲笑いながら自分の機体を取り出した。
「見せてやるよ。破壊のジャックと呼ばれた俺様の力を!」
ヤマトもブラスター・ウイングを発進させる。
「ブラスター・ウイング!」
「ギガンスロット!」
二体のカスタムソルジャーが現代都市ジオラマに降り立つ。
このジオラマは現代の都市をモデルにしたビル等の建物が立ち並ぶフィールドだ。
マルゴイの機体のギガンスロットは大きな槍を持った甲冑型の大型ロボだ。
「いくぜええええええええ!」
ギガンスロットはその体格からは想像出来ないスピードで動き、槍でブラスター・ウイングを突き飛ばした。
地面を転がり、起き上がろうとしたがすぐにギガンスロットが追いついていた。
振り下ろされる槍を間一髪で避ける。
「ひたすらひたすら攻め、相手に反撃させない……これが、俺様の戦い方だ!」
ギガンスロットは物凄い速度で槍を何度も突き出す。
ブラスター・ウイングはかわそうとするも避け切れず、何発も喰らってしまう。
「っ、ブラスター・ウイング!」
ヤマトはブラスター・ウイングを飛ばせて距離を置こうとするが、ギガンスロットはブラスター・ウイングが完全に飛ぶ前にたたき落とす。
「………」
アスカは戦いの成り行きを見守っていた。
ため息をつくと、どこかへ移動し始めた。
「オラオラどうしたぁ!」
ギガンスロットは何度も何度も槍を振り回す。
ブラスター・ウイングは反撃しようとするも抵抗出来ず、なすがままにやられる。
槍が命中する度にブラスター・ウイングの体から火花が上がり、確実に弱っていく。
「おしまいにしてやらぁ!」
ギガンスロットはブラスター・ウイングを押し倒すと槍を横向きに振り下ろした。
ブラスター・ウイングはビームジャベリンで防ごうとするが、ぶつかったジャベリンごと押し潰される。
槍が沈むごとに火花が激しく散る。
「このままミンチにしてすり潰してやる!」
マルゴイが勢いづくと槍が尚深く沈んでいく。
「ブラスター・ウイング!」
何とかしなければ、とヤマトは相手を見ようとする。
そこで見てしまった。
自分のちょうど向かいの観客席に、アスカがいるのを。
アスカは最前列で立ってこちらを見ている。
目が合った瞬間、また不思議な感覚に目覚めたのを感じた。
瞳が虹色に輝き、更に………
ヤマトはブラスター・ウイングを操作した。
ビームジャベリンを展開し直すと延びた刃がギガンスロットの手に突き刺さる。
ギガンスロットの力が抜けた一瞬の隙を突き、ブラスター・ウイングはチャージショットを放った。
爆発でギガンスロットはひるみ、ブラスター・ウイングは吹っ飛ぶ。
空中で回転しながら優雅に着地するとその場に立ち尽くした。
マルゴイは動かないブラスター・ウイングを見て勝ち誇った。
「まぐれで抜け出したはいいが手詰まり、って所か?」
ニヤニヤ笑いながら話すマルゴイを、ヤマトはクスッと笑った。
「いえ、大丈夫です。見えましたから」
マルゴイはヤマトに不審を抱き、尋ねた。
「………どういうことだ?」
「見えたんです……僕の勝利が」
ヤマトはブラスター・ウイングの操作に戻る。
マルゴイは真っ直ぐ向かって来るブラスター・ウイングを見て大笑いした。
「ははは! 真正面から来るとは馬鹿め!」
ギガンスロットはブラスター・ウイング目掛けて駆け出した。
槍を構え、突き刺すためにブラスター・ウイングの軌道を読もうとする。
神経を研ぎ澄まし、集中する。
するとブラスター・ウイングの僅かな動きを見切った。
「そこだ!」
ギガンスロットはブラスター・ウイングが来るであろう場所へ槍を突き出す。
が、ブラスター・ウイングはヒョイと槍をかわす。
「何!?」
ギガンスロットは休まず槍を何度も突き出す。
しかし、ブラスター・ウイングはそれら全てを簡単に避ける。
カウンターにビームジャベリンでの斬撃を与え、ギガンスロットのボディに傷が増えていく。
マルゴイは急に槍を全て避け始めたことも不審に思ったが、その動きにも動揺した。
まるでギガンスロットがどこ攻撃するのか読み、また、ギガンスロットがどう動くのか先読みして攻撃しているかのようだ。
一見空振りに見えても必ずギガンスロットに当たり、ギガンスロットが動く前に移動して攻撃をかわす。
「な、何なんだよ?」
マルゴイの足がガタガタ震える。
最初の頃のあの自信はもうどこにもない。
「フフッ」
ヤマトは不敵に笑うとブラスター・ウイングを変形させた。
小型ジェット機の様な姿になり、高速で飛行する。
先端のバルカン砲からバルカンが放たれ、雨が降り注ぐかのようにギガンスロットを襲う。
ギガンスロットの目の前に着いた瞬間に変形を解除し、ビームジャベリンで左腕を切断してまた変形して飛んでいく。
旋回して戻って来るとギガンスロットの足首に突撃し、もう片方にも突撃して足首を砕いて使い物にならなくする。
変形を解くと適当な所へチャージショットを放ち、ビームジャベリンでギガンスロットの胸を斬りつける。
斬りつけた刃の逆側をギガンスロットの胸に突き刺し、ジャンプして回し蹴りでぶっ飛ばす。
そして、チャージショットをギガンスロットに放つ。
ギガンスロットは右手に持った槍で防ごうとする。
その時、ビルの瓦礫が転落しギガンスロットの槍に当たって槍が砕け散った。
前にブラスター・ウイングの放ったチャージショットはビルに当たり、丁度槍を使おうとした瞬間にビルの一部が崩れたのだ。
また、ギガンスロットの槍も瓦礫が当たって砕ける直前になっていた。
「な、な、あ!?」
ありえない偶然の積み重ねにマルゴイが驚くのと、チャージショットがギガンスロットに直撃するのは同時だった。
ギガンスロットは全身から火花をあげ、限界を迎えようとしていた。
「……………!」
マルゴイはもう冷静に考えられず、ただヤマトの底知れない強さを恐れた。
ヤマトは怯えきったマルゴイに宣告した。
「貴方の目に刻み付けて下さい………これが、銀河の始まりです!!」
スペリオルアクション《JETデストロイヤー》
ブラスター・ウイングの体が紫色に輝き、光を纏って飛行形態に変形する。
先端のバルカン砲から深青色のビームが放たれ、それぞれ直進や曲線を描きながらギガンスロットを襲う。
周辺の地面やギガンスロットの体はビームが当たる度に爆発し、ギガンスロットは完全に四肢を失う。
爆発で空中に浮かび上がったギガンスロットにぶつかり、ビームを何度も撃ちながら急上昇する。
ブラスター・ウイングの全身が更に激しく紫色の輝きを纏い、全身がそのまま強力な必殺技となる。
ギガンスロットは耐え切れずに地上に落ちていった。
地面に墜落し、力無く横たわる。
タフに設計しているためか、まだダウンフェイズになっていない。
ブラスター・ウイングは変形を解除し、同時にスペリオルアクションの力も切れた。
ギガンスロットの頭に着地し、数回踏み付けて頭を地面にめり込ませて固定する。
そして、ビームジャベリンを振りかぶると勢いよく振り下ろした。
ビームジャベリンが首を切断し、ギガンスロットは今度こそダウンフェイズを迎えた。
「ひ、ひいいいいいい!!」
マルゴイはギガンスロットの残骸を拾うのも忘れ、一目散に逃げた。
「はぁ…はぁ…っ、勝ったの?」
ヤマトは汗を拭いながら呟いた。
つい先程のことだったはずなのに、よく思い出せない。
言い知れぬ不安を抱えながらもブラスター・ウイングを回収してその場を去る準備を始めた。
会場はもう帰ろうとする人々がちらほらと出始めていた。
丁度正午を過ぎた頃で、予定通りに試合が終わった。
ヤマトの試合が最後だったため、その話をしている人でいっぱいだった。
「すごかったわねあの子!」
「ちょっと怖かったけど………」
アスカはヤマトの姿が見えなくなったのを見計らって後をつけた。
「ちょっと、仕上げないといけないわね」
そう言ったアスカの肩に、赤いカスタムソルジャーが飛び乗った。




