第八話 魔物①
勝負は引き分けということで相手に要求する権利はなくなった。
魔法は教えてもらえそうにないが仕方がない。
それから僕らは池に戻ってきて、昼ごはんを食べながら、休憩をしていた。
メニューは僕が持っていた残り一つの果物と、ステラさんの携帯食料だ。
果物は美味しいが、携帯食料は見た目に反して意外と美味しかった。
ステラさん曰く携帯食料は冒険者に重宝されているため、味の研究などが進んできたらしい。
最初のころは全然おいしくなくてゴムを食べているみたいだったようだ。
それが今ではこんなにおいしくなっている。
ちなみに、これができたときからステラさんは冒険者だったのかと思ったが、
口に出すと殺されそうなのでやめておいた。
そうして食事も済ませ、僕は池のほとりで寝転んだ。
今日はとても暖かく、こうしていると気持ちがいい。
そうしているとステラさんも僕の横で寝転び始める。
「気持ちいー」
「そうですねー」
暖かい風が僕らにそっと当たる。
このまま寝てしまいそうだ。
「これであとは帰るだけね」
「はい。ところでどうやって帰るんですか?」
「どうゆうこと?」
「だってどの方向が出口かなんて分からないじゃないですか」
「あーそうゆうことね。それなら大丈夫。魔法を使うから」
「魔法?」
「そ。方角が分かる魔法があるの」
「そんな便利な魔法が?」
「そうでもないわよ。
あらかじめ魔法の目印をつけておかないと意味ないから」
「じゃあその目印が分かる魔法ってことですか?」
「正確に言うとね」
そういうことか。
僕には到底出来そうもないことだ。
つくづく魔法がうらやましい。
「冒険者の人はみんなそうやっているんですか?」
「そうね。大体パーティーを組んで冒険してるわ」
「でもステラさん一人じゃないですか」
「私は良いのよ。強いし。仲間なんて必要ないし」
「でも、何かあったときに一人だと危険ですよ?」
するとステラさんは分かってると言いたげな顔をしながらこう言った。
「私ってエルフでしょ。だからそれ目当てで近づいてくる奴が多いのよね」
「それ目当て?」
「性欲」
予想外の返答に驚いて飛び起きてしまう。
「私って美人だからさーそういう目的のやつが近寄ってきて気持ち悪いのよ」
「いや、確かにそれはそうですけど・・・」
ステラさんはかなりの美人だ。
そういう目的で近づいてくるやつもいるだろう。
だが、このような会話には慣れていなくてどう返せばいいか分からない。
「私が冒険者を始めてからずっとよ。隙あらば近づいてくるんだから」
「それは・・・大変ですね」
「まあ最近は冒険者の中で実力者として見られるようになってきて少なくなってきてるけど」
無理やり話題を変えようとして僕は聞いた。
「そういえば、ステラさんは『二級冒険者』なんですよね」
「そうよ」
「それってどれくらい強いんですか?」
「うーんと、冒険者には階級があって・・・」
よし。なんとか話題変更に成功だ。
「階級は十段階になってるの。初心者が十級から始まってだんだん上がっていく感じね」
「上がるにはやっぱり依頼を達成するんですか?」
「そ。でも薬草採取なんかでもちゃんと上がれるから経験が重視されてるって感じね」
「経験ですか・・・」
僕にはないものだ。
「大体、冒険者として初めて二級くらいに行くには最速でも五年くらいはかかるんじゃないかしら」
「五年ですか・・・長いですね」
「言ったでしょ。経験が大事だって」
「じゃあステラさんの上に『一級冒険者』がいるってことですよね?」
「そうだけど・・・私会ったことないわよ。大体いるのかも怪しいわ」
「そんな感じなんですか・・・」
「それこそ一級に上がるにはドラゴン討伐とかそのレベルでしょ。私じゃ無理ね」
「ステラさんでも無理って・・・相当ですね」
「まあ私は階級にこだわってないけど。ナナシも気になるなら冒険者になってみたら?」
「冒険者ですか」
「記憶がないなら、うってつけでしょ。それに万が一、いや億が一『一級冒険者』になれるかもよ」
「本当にそう思ってますか?」
「いや。全然」
実力者のステラさんに言われるとやる気をなくしそうになるが、今の僕にはいいかもしれない。
冒険者として活動するのも楽しそうだ。
「じゃ行くわよ」
「あ、はい」
そうして休憩を終えて僕らは出発した。
ステラさんが魔法を使って目印の場所をたどっている。
目印は森に入る前に着けてきたようだから大丈夫だろう。
ステラさんが歩いていく方に僕も後ろからついていく。
時に、坂を上り、草木をかき分け、木を避けながら歩いていく。
こうしているといろいろなものを見ることができて面白い。
不思議な色の植物や、見上げても先が見えない木など。
一人でいたときは楽しむ余裕もなかったが、今ではそんなこともない。
森を歩いているだけでなかなか楽しい。
そうして歩いていること半日ほど。
日も暮れてきてこれ以上歩き続けることは危険というステラさんの判断に従い、寝床の準備をすることにした。
なるべく広い場所を見つけ、昨日と同じように寝床を作る。
火はステラさんが魔法で出してくれた。
一瞬でついてしまい少しやるせない気持ちにはなるが表情には出さない。
近くに川はなく、魚を取ることはできないため、携帯食料を夜ごはんにした。
ステラさんは何も言わず分けてくれたが、これでは頼りすぎている気がする。
僕も他にできることを精いっぱいやろう。
そうして食事も終え、眠ろうというところでステラさんが提案をした。
「交代で見張りしましょ」
確かにそうだ。
昨日、魔物に襲われたことを思い出す。
寝ている間に襲われてはたまらない。
「分かりました。じゃあ僕が先に見張りましょうか?」
「お願いね。何かあったら起こして。おやすみ」
「おやすみなさい」
そうしてステラさんは寝床に入るとすぐに眠りについた。
昼の会話を不意に思い出す。
すぐに眠るということは一応信頼してくれているということだろうか。
まあそんなことを聞いたらステラさんは「弱いから」とでも言いそうだ。
それに、命の恩人にそんなことをする気はない。
そう考えながら周りを見渡す。
暗闇では見える範囲も限られているが、最大限注意する。
そうして時間がたち、僕が睡魔と戦いながらも踏ん張っていると
『ガサッ』っと右前方で音がした。
続いて『ゴフッ』というような呼吸音も聞こえてくる。
僕は寝ているステラさんを起こし、音がしてきた方向に注意を向ける。
ステラさんもすぐに戦闘態勢に入る。
やがて出てきたのは、昨日よりもさらに大きい、ビッグ・ボアだった。




