第六話 薬草採取①
ステラさんが言うには魔法は一朝一夕で身に着けるようなものではなく、
簡単な魔法一つとっても一か月ほど習得に時間がかかるらしい。
さらに僕は魔力の魔の字も知らないような初心者であるため、
最初の魔力を感じるところから修行する必要があるとのこと。
それゆえ、一か月以上かかることから「めんどくさい」と言ったようだ。
「それならしょうがないですね・・・」
突きつけられた理由が至極真っ当なため、なにも言えない。
それにステラさんが僕の魔法の習得に付き合うメリットは何もない。
断るのも当然だ。
だが、頭ではわかっていても落胆はしてしまう。
目の前であんなものを見せられては憧れざるを得ない。
そんなことを考えながら焦げてしまった魚を取り出し、一つをステラさんに渡す。
受けっとったステラさんは魚にかじりつき、「まずい・・・」と言いながら食べる。
僕もそれを見て食べるが確かにまずい。
今度はちゃんと焼けるように気を付けよう。
そんな反省をしているとステラさんがこう言った。
「別に魔法は今じゃなくてもいいじゃない」
「どうゆうことですか?」
「町に行けば、魔法使いの教室があるし、冒険者になれば魔法の勉強もできるわ」
「そうなんですか!?じゃあ僕もいずれ魔法が使えたり・・・」
「いずれ・・・ね」
やった!僕も魔法が使える。
魔法を使うには時間が必要だが、それも何とかなるだろう。
僕がそんな期待を膨らませていると
「ナナシは森を出たらどうするの?」
とステラさんが聞いてきた。
確かに。言われるまで考えたことが無かった。
僕は記憶喪失であるため覚えていないが、以前の僕には家族や親しくしていた友人がいたかもしれない。
そんな人が僕の前に現れたら僕はどうするのだろうか?
そう考えながらじっと手元の食べかけの魚を見つめていると
「まっこれから考えればいいか」
とステラさんが服をパンパンと手ではたきながら言った。
「そうですね。これから考えてみます」
僕も急いで完食し、出発する準備に取り掛かる。
新しい水を作りながら荷物をまとめ、松明の準備をに取り掛かろうとする。
その時、ステラさんが「松明はいらないわよ」と言った。
そう言われてハッと気づく。
これからはステラさんが魔法で火を起こしてくれるということか。
僕はかまどの火を川の水で完全に消す。
これで準備は整った。
「これからどうするんですか?」
「とりあえず私の依頼を達成してから、森を出るわ」
「依頼ですか?」
「そう。私、この森に依頼を受けてきたからね」
「どんな依頼なんですか?」
「薬草の採取依頼。ソリアっていう薬草よ」
「薬草の採取依頼ですか・・・簡単そうですね」
「そうでもないわよ」
「そうなんですか?」
薬草の採取なら僕でもできそうな気がする。
冒険者は魔物討伐や護衛もするそうだからそれと比べれば簡単そうだ。
「とってくる薬草によって難易度が変わるの。ソリアは難しい方ね
私レベルなら楽勝だけど」
「珍しいとか、生えている場所とかですか?」
「正解。そこらへんは歩きながら話すわ」
そう言ってステラさんは森に足を踏み入れる。
「分かりました」
ステラさんは迷いなく森に入っていく。
僕もおいていかれないように彼女の背を追った。
ステラさんは道中、ソリアについて話してくれた。
白色の三日月形の花弁を持っているという見た目から三日月を意味するソリアという名前が付いた。
ソリアは傷を治す『ポーション』を作るための原料らしい。
魔法では治すことのできない傷を治すことができるポーションは冒険者にとっては生命線だ。
だがそんな現状に反していつでもポーションは不足している。
その原因として、ソリアの入手難易度が高いことがあげられるとのこと。
ソリアは森で採取することができるが『魔力のたまり場』でのみ育つ。
魔力のたまり場とは魔力が周りよりも濃い場所のことであり、その場所を見つけることが極めて難しい。
そんな特殊性から難易度が高くなっているのだ。
「で、その魔力のたまり場を見つけるためには魔力の流れに敏感な奴が必要なの。
だから私みたいなある程度実力のある魔法使いがいないと無理ってわけ」
「その魔力の流れっていうのが分からないと見つけるのが難しい・・・」
「そう、じゃないとこの森全体を探し回ることになるから」
「でも、それならステラさんみたいな実力者はあまりいないってことですよね」
「そうね。だからいつまでたっても足りないままになってる」
「じゃあ僕は役に立ちませんね」
魔力が何かわからない僕には当然魔力の流れなんて分からない。
「そうね。役立たずね」
あまりに直球な回答にさすがの僕も何か言い返したくなった。
そこでステラさんにこんな提案をしてみた。
「じゃあ勝負しませんか?」
「勝負?」
「そうです。先にソリアを見つけた方が相手に何か一つ要求できる」
もし僕が勝てばステラさんに魔法を教えてもらえる。
それに役立たずでないところを証明したかった。
このままでは僕はただのお荷物だ。
提案を受けたステラさんはニマーと不敵な笑みを浮かべて「面白そうね」と言った。
それから僕はステラさんよりも先に見つけるため目を凝らしながら歩いていた。
一方ステラさんは余裕の表情で森をズンズンと進んでいく。
「そんなに余裕でいいんですか?」
「当然よ。だってここたまり場じゃないし」
「そ、そうですけど・・・」
これでは僕だけ頑張ってるみたいじゃないか。
「でも、もしかしたら私が見落としてるだけかもね」
そう言ってからかいながらも余裕を見せてくる。
こうなったら絶対先に見つけてやる。
そう思いながらも周りを見渡しながら歩いていると視界の端に白色の何かが写った。
慌てて立ち止まり、少しづつ近づいていく。
すると先程聞いたソリアの特徴と似ている植物が生えていた。
僕はもう一度確認するため顔を近づけて、じっくり見る。
見れば見るほどこれがソリアではないかと思えてくる。
後ろから「どうかしたの~?」と間延びした声でステラさんが問いかけてきた。
「もしかしてこれじゃないですか?」
僕はステラさんが見えるように横に移動しながら指を差す。
白色の三日月形の花弁を持った植物。
これで間違いない。
「ええそうね・・・フフッ!」
その瞬間ステラさんがこらえていた笑みを開放し、笑い始めた。
「何で笑うんですか!?」
なおも笑い続けるステラさんに問いかける。
「だってそれ・・・ソリアじゃないもん」
「え・・・これ違うんですか?」
もう一度見つめる。
どう見てもこれにしか見えない。
「ほらよく見て~。ここ、花弁が二枚あるでしょ」
そう言ってステラさんがペラっと花弁をめくる。
確かに花弁は二枚だった。
「それが何なんですか?」
「これはソリアと似た薬草でタリアっていうやつ」
「タリア!?」
「ほんとのソリアは花弁が一枚」
「でもそんなこと聞いてませんよ!?」
「だって聞かれなかったし」
あまりのことに呆然としてしまう。
「それずるじゃないですか?」
「だって言おうと思ったときにナナシが勝負とか言ってくるんだもん
そりゃ隠すでしょ」
「不公平だ・・・」
あんなに自信満々で言ったのに違ったなんて。
しかもまんまと手のひらで踊らされて・・・。
恥ずかしすぎる。
僕は恥ずかしさのあまり、謝ってくるステラさんの顔を見ることができなかった。




