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第五話 魔法

「あれ、もう朝じゃない」


ステラさんの一言で初めて、夜が明けていることに気づいた。

今まで一人だったこともあって、不安や焦燥を抱えていたわけだけれど、

それがステラさんと出会って一気に解放されてしまったようだった。

結果として、ステラさんと話をしていたことでまったく休むことはできなかった。

だが、誰かと時間を共有することがこんなに楽しかったのだから仕方がない。

つい、話し過ぎてしまった。

ステラさんは僕の話を聞きながら、時折笑ったり、苦言を呈したりといろいろな反応をしてくれた。

僕も、それに反応しながらも、できるだけ正確に記憶をたどる。

今では、ステラさんとの距離は、格段に縮まっていると思う。


「とりあえず、朝ごはんにしましょ」

「そうですね。じゃあ僕は魚を取ってきますね」

「りょうかい~。じゃあ私は火を見てるわ」

「お願いします」


それぞれ分担して朝ごはんの準備にかかる。

僕は昨日やったようにもう一度簡易的な釣竿を作り、川に垂らす。

その間、ステラさんは火を強さを調整してくれていた。

木の選び方や、手際の良さから考えて、ステラさんは相当経験があるようだ。

流石は冒険者というべきか。

そうして待つこと数分、昨日と同じ種類の魚が釣れた。

二匹釣ったところで寝床に戻る。

ステラさんは持っていた、(くし)で髪を解いていた。

あまりまじまじと見つめては失礼にあたるかもしれないが、その黄金に輝く髪に見惚れずにはいられない。

僕が、じっと見つめていることに気が付いたのか

「その目玉、繰りぬくわよ」

と恐ろしいことを言ってきた。


「ごめんなさい。とてもきれいだったので」

「へ~。あんたもそうなんだ」

「そうとは?」

「いや、なんか人間の間ではこの金髪が珍しいみたいで」

「そうなんですね」


つまらない返しになってしまったが、許してほしい。

だって僕はステラさん以外の人を知らないのだから。

それに、ステラさんの発言で気になることがあったことも原因だ。


「あの、ステラさんは人間ではないんですか?」


そうこのことである。

ステラさんは『人間の間では』と言った。

まるで自分は人間ではないみたいに。


「そうよ。私、人間じゃないわよ」

「え、そうなんですか!?」


意外とあっさり言われてしまった。


「あ、そっか。話してなかったわ。ごめんごめん。

 そんなことよりおなかすいたから早く用意しましょ」

「そうですね」


僕は少し、戸惑いながらも了承した。


パチパチと火が音を立てている。


「じゃあ、さっきの話だけど」


そう言って焼いている魚を見つめながらステラさんが話しかけてくる。


「私は人間じゃなくて、エルフなの。まあ、そういう種族だと思ってもらえればいいわ」

「エルフ・・・ですか」


それからステラさんはエルフについて話してくれた。

エルフとは人間よりも耳が長く、主に金髪、寿命は数百年と長く、そして容姿端麗な種族のようだ。

そして人間とエルフとの最大の違いは、『魔力量』らしい。

魔力量とは魔法を使う時に必要な魔力をどれだけ持っているかを表す数字である。

魔力量は生まれたときに決まるため努力ではどうにもならないものである。

エルフの多くの者は魔力が漂う森で暮らしており、生まれたときから魔力量がとても多い。

それゆえ、人間よりも優れた魔法使いになりやすい種族のようだ。


ここまで聞いて気になることが増えた。


「魔法って何ですか?」


先ほどの話で魔力量や魔力が魔法を使うために必要なことは分かるがその魔法が分からない。


「あれ?魔法も説明してなかったっけ?魔法ってのは・・・こういうのだよ」


そう言ってステラさんはいきなり人差し指に炎を灯した。


「え・・・指が燃えてますよ!!」

「アッハハ!!なにその反応。おもしろすぎる」

「何言ってるんですか!」


僕は慌てて水をステラさんの指に水をかける。

なんとか消火できたようだ。

ステラさんはそんな事お構いなしにお腹を押さえて笑っている。


「いや~こんなに笑ったのはひさしぶりだよ」


そういって笑いをこらえながらもう一度人差し指を立てる。


「次は消さないでね。絶対大丈夫だから」


次の瞬間、再び炎が灯った。

僕はステラさんの言葉を信じて、消火しようとはしなかった。


「いいね。じゃあ今起こったこと説明できる?」

「いえ。いきなり炎が出てきたとしか言えないです・・・」

「そう!そういうのを魔法っていうの」


そう言ってステラさんはスッと指先の炎を消す。


「今みたいに、論理的に説明できない現象のことを魔法って言うの。

 実際に自分で火を起こしたナナシなら分かるでしょ」


ステラさんの言うとおりだ。僕は火を起こしたときに摩擦熱を利用した。

しかし、今のはそんなものを使っていない。

いきなり出して、消す。

仕組みがどうなっているかは分からない。


「魔法は魔力を使って発動させるんだけど、あまり分かっていることは少ないわね。

 言うなれば原因は分からないけど結果が出る見たいなもんかしら」

「すごいですね・・・魔法。不思議だ・・・」


僕はあまりのことに呆気にとられてしまう。

この世界に魔法なんてのものがあるなんて。


「まあ、その過程部分を今、世界中の魔法使いが研究しているって感じだけど」

「じゃあ、最初に魔法を使った人はどうやって使ったんですか?」

「さあ?私が生まれる前から魔法使いはいたらしいし・・・たまたまできちゃったんじゃない?」

「そんな適当な。というか生まれる前からって何歳なんですか?」

「殺すわよ」

「ごめんなさい」


命の危険を感じた。

この質問は絶対してはいけない。


「でもそんな感じよ。今まで何百年とたまたまできちゃったことを再現しようと頑張ってきたんだから」

「う~ん。謎は深まるばかりですね」

「そうね~。でもあんまり考えすぎても意味ないわよ」

「何でですか?」


ステラさんはそれが常識であるかのように言った。


「それが魔法だから」


そう言われてしまっては何も言えない。

だが、ステラさんの言ったことも一理ある。

今まで魔法について何も知らなかった僕が考えたとしても何もわからないに決まっている。

時間の無駄だ。

ならもっと有意義なことに使うべきだ。

僕は勇気を出して聞いた。


「僕は魔法は使えますか?」

「簡単な魔法なら使えるわ」


嬉しい答えが返ってくる。


「本当ですか!?」

「さっき使ったやつみたいなものなら。でもナナシは魔力量が少ないから大規模な魔法は無理ね」


それでもかまわない。

魔法が使えれば、僕にできることが増えるはずだ。

火も簡単に起こせるようになるかも。

魔法に対する期待と好奇心が抑えられない。


「僕に魔法を教えてくれませんか?」

「いやよ。めんどくさい」

「え・・・」


雲一つない青空の下で、僕らの前に焼きすぎて黒くなった魚が、煙を上げていた。





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