第四話 仲間
月明かりに照らされて、女性が出てきた。
先ほどまで、命の危機にさらされていたからか、上手く呼吸ができない。
とにかく落ち着こうとして呼吸をしていた僕に、女性が話しかけてきた。
「もう一回聞くけどここで、何でこんなところにいるの?」
答えようとしても上手く頭が回らない。
そうして何も言えずにいる僕に気を使ったのか、それとも呆れたのかは分からないが、こう言った。
「とりあえず、落ち着きなよ」
そうして僕は自分が先ほどまで寝ていた場所に戻ると、彼女も近くの木にもたれて座った。
少しの静寂の後、彼女が口火を切った。
「それで?もう大丈夫よね?」
僕も時間がたったことで冷静さを取り戻していた。
「はい大丈夫です」
「そう。ならよかった。じゃあ、さっきの質問に答えてくれる?」
少し高圧的な態度で聞いてくる。
「僕も分かりません・・・」
「はぁ?なにそれ?」
真面目に答えていないと思ったのか、彼女は語気を強めて言った。
だが、僕は真面目だ。
なぜなら、気づいたらこの森にいたから。
「本当なんです。少し聞いてくれませんか?」
そうして僕は彼女に自分のことを話し始めた。
気づいたらこの森にいたこと、自分の名前も分からないこと、とにかく森を抜けようとして歩き回っていたこと。
彼女は少しも信じていないようだが最後まで話を聞いてくれた。
聞き終えて、彼女は言った。
「ふ~ん。あんたよくこの森で生きてられたわね。
まあさっき死にそうになってたか」
「それは・・・ありがとうございました」
「どういたしまして」
率直にものをいう人だ。
言いづらいことを躊躇いなく言ってくる。
彼女は続けてこう言った。
「まぁ何でも良いわ。
よかったら私と一緒に森を出ない?」
「え・・・本当ですか!?」
僕にとってはありがたい提案だ。
「だってあんたこのままだと死にそうだし。私としても見殺しにするのは趣味じゃないの」
「そうですよね・・・。
僕も一緒に連れて行ってください」
「ん、了解!私はステラ。」
「僕は・・・」
「なんかごめん・・・」
気まずい空気が流れる。
何はともあれ、ステラさんに会えたことは運がいい。
これで森で苦しむことはなさそうだ。
すると「そうだ!」とステラさんが言った。
「あんたの名前きめない?」
「名前?」
「そうよ。だってこれから一緒に帰るのに名前が無かったら不便じゃない」
それもそうだ。
「じゃあナナシで」
「何ですかその名前!」
「いいじゃない、これがピッタリでしょ。それとも他になんかあるの?」
いきなりのことに言葉が詰まってしまう。
僕が必死に名前を考えていると
「ほら、無いじゃない。じゃああんたはナナシで」
決定してしまった。
無理やり決められてしまったが、名前がないよりはましだ。。
それに名前があると自分がはっきりするようで・・・悪い気はしなかった。
「これから一緒に過ごす仲間だし、私のことも軽く紹介しておくわ。
私はステラ。ステラ・シルフォード。冒険者をやっているわ。
あんた、冒険者のことは分かる?」
「いえ、分かりません」
「冒険者ってのはね、主に依頼を達成することによって生活していく人たちを指す言葉で・・・」
そう言ってステラさんは冒険者について話し始めた。
いわく、冒険者というのは依頼人からの依頼を受けて、その達成報酬で生活していく人のことらしく、
冒険者はかなりの数いるようだ。
依頼も様々で、魔物の討伐から護衛、採取に、町の清掃などあるらしい。
そんなステラさんは冒険者の中でもかなりの上級者である『二級冒険者』という人のようだ。
今回はギルドからの依頼でこの森に来たようだ。
そこまで話してくれたステラさんに僕は言った。
「あの・・・魔物とか、ギルドってなんですか?」
そう質問するステラさんは絶句した。
「そっか~記憶喪失だからか~」
めんどくさいという感情を隠すこともせず、うなだれている。
やがて、「そこから説明するわ・・・」としぶしぶ言った。
「まずはギルドからね。ギルドってのは簡単に言うと冒険者をまとめている組織のこと。
大きさはそれぞれだけど、共通しているのは依頼を取りまとめているっていうところね。
それで冒険者には二つの依頼の受け方があるの。
1.ギルドを通して依頼を受ける
2.直接依頼人から依頼を受ける
ギルドを通した依頼だとギルドからの支援があって、冒険者の評価になるの。
でも依頼達成の報酬は仲介手数料がいるから少し安くなるわ。
対して依頼人から直接ってのは、全部自分でやる。
それに冒険者としての評価には入らないという点もあるわね。
でもいいところもあってね。
依頼達成報酬が多くもらえるわ」
そこまで説明してから、ステラさんは魔物についても話してくれた。
「魔物は簡単に言うと魔力を持った生物のこと。
その昔魔王が生み出したとかって言われてるけどホントかは知らないわ。
たいていの魔物は人にとって脅威になる存在だから、討伐対象になっているって感じね」
「じゃあさっき襲ってきたのも魔物ですか?」
「そうね。さっきのはビック・ボアっていう魔物ね。ナナシは死にそうになってたけどあれでも弱い方よ」
「え・・・あれで弱いんですか」
あれだけ強く、恐ろしい魔物が弱いなんて。
今まで遭遇しなくてよかった。
「じゃあ、次はナナシの番」
「でも僕記憶喪失ですし・・・」
「そんなの関係なくない?覚えてることとかあるでしょ」
「そう言われても・・・」
僕が返答に困っていると助け舟を出してくれた。
「じゃあナナシが今までどうやって生きてきたのか、教えてよ」
それなら語るのは簡単だ。
なにせこの三日間は記憶にこびりついている。
「じゃあまずは僕が目覚めたところから・・・」
今度は僕が話し、ステラさんが相槌を打つ。
そうしてこの三日間の出来事を話し終わる頃には、朝の光が僕らを照らしていた。




