第一話 目覚め
『森の旅人』第一話です。
目が覚めると暗闇の中にいた。
「ここどこだろう?」
僕はどうやってここに来たのか思い出そうとする。
だがなにも思い出せない。自分が何者なのか分からなかった。
とりあえず体を起こし、周りを見る。
暗闇の中だが、後方から光が差し込んでいる。
僕はあちこち痛む体を持ち上げ、光の方に進んでいく。
やっとのことで光が差し込んでいる穴に近づき、一歩踏み出してみる。その瞬間体が光に満たされた。
あまりの眩しさに目が開けられない。少ししてゆっくりと目を開けてみる。
そこは緑の世界だった。周りにはたくさんの樹木がそびえたち、足元には背の低い植物が生えている。
目の前には大きめの広場のようになっている。
どうやらここは森の中のようだ。
あらためて僕が出てきた場所を見てみる。
そこには大きい穴が開いていた。
僕が倒れていたところは木の洞だったようだ。
「なにも分からない・・・」
僕は自分の意志でここに来たのだろうか?
何もわからない。
あまりのことに何も考えられずにいると視界の端に何かが写った。
目を凝らしてみると少し離れたところに茶色の何かがある。
僕はそれがなにか確かめるため、近寄ってみた。
どうやら鞄のようだ。だがいたるところが破れており、もはや鞄とは言えない状態だ。
この鞄に入っていたと思われる物が周りに散らかっている。
水を入れると思われる袋と果物三個、そして大きめの布と縄があった。
おそらくこれは僕のものだろう。
僕はこれをもってここまで来たのだろうか?
これらを見てもなにも思い出せない。
とりあえず、周りをもう少し観察しよう。
僕は立ち上がり、意識を配りながら歩き回ってみた。
時には草をかき分け、何か落ちていないか探してみたり、木の周りや枝に何か引っかかっていないかなど確認した。
そうしていると僕の者ではない足跡が見つかった。
僕が自分のものではないと分かったのは足跡がいびつな形をしていたからだ。
人間の者ではない。自分のものと比べてみてもとても大きい。
おそらく二足歩行の生物だ。歩幅が人間と似ている。
この森には自分以外の生物がいるのだ。
そのことを認識しただけでも大きな収穫だ。
さらに、僕が倒れていた洞も確認してみたが、ここには何もなかった。
そうして歩き回ったことで相当体力を使い、疲れてしまった。
「はぁ・・・」
ついため息が漏れてしまう。
気分が重い。
何もわからないことがこんなにも怖いなんて知らなかった。
少し気分が悪くなって、木の幹にもたれかかるようにして座り込んでいるといままで意識していなかったからか、急激な空腹感を感じた。
目の前には果物がある。だが、これが安全かは今の僕にはわからない。
だが、僕が持ってきたのならば、食べられるものである可能性が高い。
こうしている間にもどんどん空腹感は増してくる。
僕は覚悟を決めて賭けに出た。
かじったとたんにじゅわっと果汁が口の中いっぱいに広がる。
どうやら水分が多い果物のようだ。
味はとてもおいしい。
口に含んでも何もなかった。
口内がしびれたりすることはない。
僕はどうやら賭けに勝ったようだ。
そのまま夢中になって果物を一個食べつくす。
これ一つで水分も取れるなら、とても貴重だ。
残り二つは取っておこう。
さて、これからどうしようか。
一度、今の状況を整理しよう。
僕 :?
服装 :ぼろぼろの上下の服、靴は問題なし。
持ち物 :果物二つ、水を入れる袋(中身はない)、大きめの布(おそらくテントの屋根のように使っていた
と思われる)、縄、ぼろぼろの鞄
場所 :森の中(生物がいる)
体の状態:大きなけがはない。
疑問 :なぜこの森にいるのか
なぜ記憶がないのか
こんな感じだろうか。
改めて考えてみると持ち物の少なさに引っかかる。
この森に遊びに来たのかと思うほどだ。
それか、もともと長い間いる予定ではないとか・・・
考えられることはいくつもあるが今考えても仕方がない。
とりあえずこの森を抜ければ何かわかるはずだ。
それこそ人に会いさえすれば自分は誰で、ここはどこなのか分かるかもしれない。
ならば僕のやることは二つだ。
1.この森を抜けること
2.人に会うこと
最優先は森を抜けることにしよう。
だいたいの方向性は決まった。
なにもわからないがそれでも行動しなければ死んでしまう。
今は昼間で太陽が出ているが、いつ夜になるか分からない。
夜までに水と、火を用意する必要がある。
それと寝床の確保だ。
今がどの季節か分からないため夜の冷え込みがどれほどになるか分からない。
水と火に取り掛かった方がいいだろう。
僕は少しの決意と大きな恐怖心を抱えて動き始めた。
火か、水か。
どちらから始めるか。
僕は水を選んだ。
なぜなら水の方が火よりも優先度が高いからだ。
果物のおかげでなんとか水分は確保したがそれも残り2つしかない。
このままではいずれ飲み水がなくなってしまう。
さらに飲み水以外にも水は使える。
水があるのとないのとでは天と地の差だ。
火は最悪なんとかなるし、そもそも道具を使わないと僕では難しい。
僕は水を探すために耳を澄ました。
一番手っ取り早いのは川を見つけることだ。
川があれば水には困らない。
だが川の音は聞こえない。風が木々を揺らす音、鳥の鳴き声しか聞こえない。
どうやらこの近くに川はないようだ。
ならば次は水たまりだ。
川ではなくとも水たまりがあれば水は確保できる。
僕は早速、破れた鞄の切れ端を丸めて紐状にした。
これで木に結ぶ目印は完成だ。
鞄で作った紐は五つだ。
なくならないように考えて使おう。
他の荷物は洞の中に隠し、一つ目の紐を自分の目の前にある木に結んだ。
これで森を進んでもここに戻ってくることができる。
僕は時々、後ろを振り返りながら、自分が紐を巻き付けた木が見えなくなったら新しく目印をつくるということを繰り返しながら最初の場所からまっすぐ進んだ。
そうして歩いているうちに足元でベチャっという音がした。
視線を足元に向けるとそこはぬかるんだ地面だった。
これは運がいいかもしれない。
地面がぬかるんでいるということは最近雨が降ったということだ。
これならば水たまりがある可能性が高い。
希望が見えたことで少し心に余裕ができた。
もう少し慎重に見ていこう。
それからすべての目印をつけるまで森を進み続けたが水たまりは見つけられなかった。
ずっと歩き続けていたからか、それとも水がないという事実からか、体が急に重くなったようだ。
絶望感が僕を包み込む。
太陽は徐々に沈みかけており、タイムリミットが近いことを告げている。
このままではいずれ目印が見えなくなって迷子になるだろう。
僕は仄暗い森へと引き返した。
目印を回収しながら歩いていくと元の場所に戻ることができた。
既に日は沈み、あたりは黒一色だ。
こうなってしまっては何もできない。
火を起こそうにもこの暗闇では足元もおぼつかない。
僕が思っているよりも森は深く、そして暗かった。
僕は紐を片手に持ちながら洞に向かう。
洞の中には僕が出発する前に入れた持ち物が入っていた。
良かった。なくなってはいなかった。
洞に隠しておいたことで鳥に見つからなかったようだ。
僕はそのまま、洞の中に倒れこむようにして座り込んだ。
何もない。
水を確保することもできず、火もない。
これでは明日も生きていられるか分からない。
もし明日も探して何もなかったら・・・
僕はどうなるんだろう?
漠然とした恐怖が僕にまとわりついてくる。
疲れた体、空腹感と喉の渇き、それに光のない森。
外を見てみれば深い闇が広がる森がある。
見つめていると不意に涙があふれてきた。
僕は何をやっているんだ。
このまま僕は自分が誰かもわからず、何をしに来たのかわからないまま、森の中で死ぬのか?
絶望が僕の体を染め上げる。
僕は感情が爆発したかのように泣き続けた。
僕以外に誰もいない。
頼れる仲間も、知識も、道具もなく。
こんなことなら目覚めないほうが良かった。
それから僕は疲れ果てて、洞の中で泥のように眠った。
希望の見えない明日を思いながら。
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