episode No.7 妖精術【皇太子目線】
守る存在を強く意識した俺は強く賢くなる事、いつもの日常へ面白くないと感じた生活へ戻る選択をした。
我儘を言わないようになり必要とされた事を真剣に取り組む俺をみて父上は名ばかりの皇太子を喜び褒めた。
そんな父上に嫌悪感を感じずにはいられなかった。
表面だけいい顔をした俺も人の目を盗みたびたび塔を見に行ったりした。姿は見えないし会えないまでも存在を感じる様な不思議な感覚が体を巡った。
暫くの後、俺はふわふわした何かを見る様になった。乳母も周りの者にも恐らく見えていない。
母上に尋ねてみたらそれらは精霊で誰にも言ってはいけないし知られてはいけないと、とくに父上には悟られない様に心がけなさいと警告にも似た注意を受けた。
それからも度々妹のいる場所へ隠れ訪れた、通ううちにふわふわしたものが塔の近くには多くいる事、その者らと戯れているうちに割とはっきりと色とりどりの蝶々の様な見た目のものも塔周辺で姿を目にしたり、声を聞くこともあった。
それらを愛で、妹の存在を感じる事が俺の中での幸福な時間となった。
14の歳を超えそろそろ15になるある晴れた日の事、朝から日課の鍛錬に打込み、最近新しく母上が連れてきたジェミニに指導を受けていた時のことだった。
普段は城に近寄りもしない色とりどりの蝶々の見た目をした妖精が複数で俺の方によってくる。
(た……。)
(あの子……。)
(お……い。)
口々に何かを言っているのだがはっきりとはわからない、でも妹がいる塔の辺りにしか現れない妖精がわざわざ城に来て俺に何かを伝える事自体がおかしいのだ。
妹に何かあったのかもしれない。
「すまないジェミニ、私用が出来た。」
「殿下?急にどうされたのです?」
妹の身を思うと酷く恐ろしい。俺は一目散に塔のある方へ走った。ジェミニも素早い動きで自慢の双剣を持ち変え後に続いてくる。
「殿下、此方立ち入り禁止でございます!火急の私用でこちらへ向かわれるとは何事でございますか!」
「言う必要はない、お前は残れ!」
戸惑うジェミニをほっておいて、裏庭を超えいつもなら高い木々を掻き分けて進んでいくのだが、蝶々の妖精たちがこっちこっちと言わんばかりに道案内をしてくれる。湖畔にボートその中に緑の蝶々の妖精たち、これに乗れということか?
迷ってなどいられない!勢いよくジャンプして飛び乗った。
((((ねがって。))))
((((ねがって。))))
((((きみなら…。))))
「お願いだ、力を貸して欲しい!」
俺は高らかに叫んだ。
その瞬間、ボートがぐんと浮かび上がる。
「お待ちを!」
流石は猫獣人といったところか、縦数メートルもあろうボートにひょいと乗ってきた。
「来たのかジェミニ…。」
「私は皇太子殿下の護衛です。」
高く高く飛び立った俺たちを乗せたボートは塔を囲む高い木々を超え塔の目の前の扉まで連れて行ってくれた。
何重にも鎖に縛られ固く閉ざされた扉、いつもは触ったり開けようとはしない。でも今回だけは…。
「巻き込んですまないがジェミニ、これを壊せるか?」
「なりません!ただ正直に申し上げて難しいと思います、私には魔力が全く使えませんから。」
難しい顔をしていたら、ヒュウと赤茶の蝶々の妖精が肩に留まり又ねがってときみにならだいじょうぶとはっきり言葉にした。
「頼む、この扉を壊してくれ!」
(いいよ、きみなら)
(任せて)
言葉と共にガラガラと扉が崩れ、カシャンガシャンと音をたて鎖のみが地面に転がっていた。
「皇太子殿下、何時から精霊術をお使いになられていたのですか。」
母上が連れてきたという時点で俺のことを詳しく聞いていただろうジェミニは精霊術については知らないといった様子でこちらを見る。
そんな事を聞かれても今日初めての事だから問われたとて答えられないのだ。
ジェミニに目線だけを向け、鎖を越えて塔に入る。ドアが1番上の1つで螺旋階段を登って一直線。
「皇太子殿下、本当に行かれるのですか!もう後戻りは出来ませんよ!」
「私は行く!後悔はしない!」
「何故この様な暴挙に…殿下!」
声を振り切り走り登っていく。ただ急ぎ登ってはいるが思った以上に広い、時間がかかりそうだと焦りが込み上げる。
すぅと緑の蝶々の妖精が俺を取り囲み喋りかけてくる。
(だいじょうぶ、とべる。)
(もりのこはかぜのこ。)
(ぼくたちがおしえてあげる、
てつだってあげる。)
風で登ると、俺は少しの魔法しか使えない。
ただこの妖精たちは手伝ってくれると言っている…。
「ジェミニ、捕まれ!」
「は?はい。」
ガシッと手を掴み、俺は唱えた『Fly!』
母上ですら使えない高位の風魔法。
頼む、妖精たち!




