episode No.3 忘れない
「はぁうえ、ちがでています。」
ひとしきり暴れ泣き叫び、扉に向かっていった母上だったが今度は扉の前で放心してしまった。こちらからは引っ掛けのない頑丈な扉を爪や手で開けようとしたり繋がれた鎖を振り回すものだから手も足も傷だらけだった。
「はぁうえ、はぁうえ…?」
心配になって近寄っていったら、パンと手を払われた。
「私は穢れたのよ、もう妖精族の里には戻れない!」
言っていることが理解出来ない、母上は天を仰ぎはらはら涙を流していた。
「はぁうえ、ごめんなさい、泣かないで。
はぁうえっはぁうえっえっえっ」
わけも分からず涙が出てしまった。
わたくしは、わたしは…母上の…。
泣く私を放置し、又母上も涙を流していた。
暫くの沈黙の後騒がしい大人たちの足音がした。母上は立ち上がり、わたしを後ろ手にあちらへいってなさいといった。
開かれた扉から父なる男が入ってくる、暴れたであろう母上を見て怒り叩いた。
「へっ陛下、お止め下さい。」
「御子がおるかもしれませぬ。」
「この様に暴れて世の御子を無くす自体となればどうなると思っておる。だが程々にせねばな、そこのもの侍医を前へ。」
侍医とよばれた人が前に出、ちらっとわたしを視てから母上を寝台へ座らせた。
わたしも傍に居たかったけれど恭しく侍女に促され隣の部屋へ移動させられた。普段はこんなに丁寧じゃないのに…。この男も侍女も国も、決して許さない。
母上の前で沢山泣いてしまった。
泣いてはダメよと前のわたしが怒っている気がし、パンと頬を叩いて気合いをいれた。
母上に甘えすぎて前の記憶を段々と忘れてしまう所だった。それが正常なのかもしれない…でもただの幼子になればこのままでは母上は救えない。
これは絶対忘れてはいけない記憶なのよ、思い出せわたくし!
前の記憶、そう前世では書いていたじゃない魔力で字を。
2歳児にペンなんて持てないけど魔力なら何処にだって書ける紙なんて要らない書けばいいのよ部屋中に!
あの男も周りの者も、侍女も魔力なんてない。あの男が連れている魔法使い達は弱いこの部屋の強い魔法陣と隠蔽で気づかないはず。
そうよ、もっともっと思い出して!
呪文、倫理、計算式、魔法陣、組み立て、色んな事。ああ、そうだったわたくしは魔力枯渇症で死んだんだった、これも課題にしなければいけない。
そうよね?グレイトグランマ
わたくしの輝く来世を願ってくれた方…。
なんで忘れていたの。
時間も忘れ3日3晩描き続けた、あらゆるわたくしについてを埋めていった。知識を歴史を魔法を忘れない。
忘れないわ。




