episode No.2 記憶と絶望と
「わたくしには、いまのわたくしじゃないまえのわたくしのおぼえがあります。そのときはたいないまなでまほうをつかってました。たいきまなをおそらからもらって、どうつかえばいいかいまわかりました。たいないまなとたいきまなではまりょくのおおさがぜんぜんちがいますね!」
母上はわたくしをみて唖然としてしまった。
「はぁうえ…?」
「リーナ、それも母上との秘密よ?」
いつになく真剣な母上の顔をみて頭をコクコクと頷く。怖がらずに聞いてねと前おきをし、母上がわたくしを抱き上げこう言った。
稀に輪廻転生で産まれてくる子がいる事、その子は神の意志で何かを成し遂げて欲しいそう願われて産まれてくる場合と、大賢者とよばれる者が何かの意図をもって記憶を植え付けたまま飛ばしてしまう場合の2択で過去に強い魔法使いの覚えがあれば絞れるといった。わたくしは、わたくしは。
「あかちゃんのときは、まえのわたくしのことぜんぶおぼえていたのよ。でもすこしずつわからないの。おもいだしたりわすれてしまったりもうわからないの 。」
グッと涙ぐむとそう、と安心させるように頭をゆっくりなで微笑んでくれる母上にわたくしはぎゅうぎゅうとしがみついた。
コンコンコン
「側室様、皇女殿下、お食事のお時間です。あけてもよろしいでしょうか?」
「入りなさい。」
扉が開くといつもと同じ朝、似たような食事に同じ侍女がカートの傍らに立っていた。わたくしはこの侍女が怖くて怖くなってしまってつい母上の後ろに隠れてしまう。
ここで過ごした2年の間、父なる男がこの部屋へ母に何度も何度も尋ねてきていたのだ。その度わたくしはこの侍女に隣の部屋のクローゼットへ押し込まれていた。最初こそ抵抗し泣きわめき恨みをつのらせていたが、この侍女も父親なる男と同様に摩訶不思議な力を使うのだ。伴うのは痛み悲しみ苦しみ止めて欲しいと頼んでも、それが楽しくて仕方ないと言わんばかりに笑いながら痛めつけてきた。
小さな時はあんなに父なる男や侍女から母上を守ると誓ったはずなのに2年、たった2年でわたくしは助けたいはずの母上に縋るほどこんなに非力で弱い存在になってしまっていた。
侍女は一礼をしわたくし達を尻目に食器の音を立てずに丁寧に朝食の用意を始める。
焼きたてのパンとかぼちゃのスープ、薄く焼いたお肉とたまごにお野菜、果物をサッサっと並べていく。
「ううっうぇ…。」
「はぁうえっ!」
ガシャンという金属音と共に母上が膝をつく。もしやこの侍女が不思議な力を使い母上を苦しめたのだろうか。
「…貴方何を持ってきたの?」
「朝食ですが。」
普段から敬称をつける割には膝をつく目上の者にも、手を差し伸べたり心配する様子もない。
母上は口元に手を当てながら何かを察した様に目をグルグルとさせていた。
「はぁうえ、はぁうえ、どうしましたか。」
「え、あ、大丈夫、大丈夫よリーナ。大丈夫、大丈夫、大丈夫…。」
まるで何かを言い聞かせるように母上は震えながら下を向いていた。何かを察した侍女はにっこり微笑み母上に跪いて、
「おめでとうございます、側室様。」
と告げた。
その時の侍女の顔を見る母上の顔は絶望を孕んでいた。
「陛下にお伝えしてきます。」
「待ってっ待ちなさい!」
そそくさと扉から立ち去る侍女の後を母上は必死に追い呼び止めていた。
「お願いっ待って!お願い!お願い!
開けてっ!お願いっ!」
泣き叫ぶ母上と縛る鉄の足枷からガシャンガシャンと大きな音がなるのをわたくしはただひたすらに見守る事しか出来なかった。




