王都へ戻る道、揺れる心
翌朝。
まだ霧が立ち込める村を出発し、私たちは王都へ向かっていた。
馬車は軋む音を立てながら進んでいく。
揺れに合わせて座席に身体が沈み込むたび、昨夜の会話が胸に蘇る。
ふと横を見ると、馬車の反対側に座るダニエルがじっとこちらを見ていた。
「……何かついてる?」
「いや。君の顔色が昨日より少し良い気がして、安心しただけだ」
その言い方があまりにも素直で、頬が熱くなった。
「昨日のこと、まだ気にしているなら言ってほしい。ひとりで抱え込むのは良くない」
「ありがとう。でも……」
言いかけたところで馬車が揺れ、体が少し傾いた。
彼の手が自然と私の腰を支え、距離が一気に縮まる。
近い。
息が触れそうなほど。
「……っ」
胸の鼓動が跳ねる。
彼はすぐには離れず、数秒だけ私を支えたまま、静かに言った。
「守りたいんだ。君のことを」
その言葉の重みは、昨日よりさらに深く響いた。
(こんなふうに言われたら……心が揺れないわけないよ)
馬車が再び揺れると、彼はようやく手を離し、窓の外を見つめた。
「王都に戻れば、どんな噂が待っているか分からない。誰が敵で、誰が味方かも分からなくなる。だが……」
ダニエルはゆっくり、こちらに視線を戻す。
「君だけは、俺を信じてくれるか?」
「もちろん。だって……あなたは嘘をつかない人だから」
その瞬間、彼の目が柔らかく揺れた。
ほっとしたような、救われたような、そんな光が宿る。
馬車が丘を越えたとき、遠くに白い城壁が見えてきた。
王都は近い。
けれど胸の奥は、不安と期待が複雑に入り混じっていた。
ダニエルの視線が私に向けられるたび、心臓が高鳴る。
けれど同時に、ロザリア、王家の影、第一王子ラインハルト。
その全てが、じわりと背中に冷たい影を落としてくる。
(ただ戻るだけじゃ済まないんだ……きっと)
王都の塔が朝日に照らされて輝く。
その光を見つめながら、私は唇を固く結んだ。
守られるだけではいられない。
誰かの駒にも、誰かの影にもならない。
そう心に誓いながら、私はもう一度ダニエルを見た。
彼は小さく頷き、私を安心させるように微笑んだ。
その笑みに励まされながら──
王都へ戻る馬車は、ゆっくりと坂を下りていった。




