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その能力は

 ダニエル王子と会った次の日、私は訓練場で魔法の制御の勉強をしていた。

 まだ自由に治癒の力を発揮できないので、これではいざという場面では使いものにならないと思う。

 

 私が一生懸命あれでもない、これでもないと試行錯誤をしているとき、魔法官が声を張り上げた。


「候補者イレネスは、王宮医務官による能力測定のため、別室へ移動させます!」


「えっ……い、いまですか?」


「当然でしょう。あれほどの癒しの奇跡、詳しく調べないわけにはいきません」


 兵士が近づいてくる。

 その横でロザリアがきつく舌打ちする音が聞こえた。


 私は思わずその不快な視線から逃れるように、兵士について移動した。

 部屋に到着するなり、椅子に座っているダニエル王子が目に入る。


「ダニエル様⁉ お体はもう大丈夫なのですか?」


「大丈夫だ、君のおかげで動けるようになったんだが、これは正直驚いている」


「で、ですが……完治というわけではないと思います」


「命を救ってもらった礼もまだだしな。それに……」


 彼は視線を私の手のひらへ向けた。


「あの光の正体をちゃんと知りたい」


 その言葉に胸の奥で何かが軽く跳ね私は答えられず、ただ頭を下げた。


「顔色が少し悪い。緊張しているのかい?」


 殿下は立ちあがり、真正面から私の目を覗き込んだ。

 

「君の力を測るだけだ。痛い思いをさせるわけではない。だから……大丈夫だ」


 その「大丈夫だ」という一言が、胸の奥に温かく落ちた。

 不思議と息がしやすくなる。


「……ありがとうございます」


 ようやく、それだけを絞り出すと、殿下は静かに微笑んだ。

 ほんの一瞬、その笑みが柔らかくほどけ、周囲の光よりも温かく感じられた。


 歩き出すとき、殿下がごく自然に、私の背に手を添えた。

 誘導するための何気ない仕草――なのに、心臓が大きく跳ねた。


(なんで……こんなに緊張してるんだろう)


 胸の奥がざわつく。

 いまの私には、このざわつきの正体がまだよくわからなかった。



 やがて、医務室の扉が開かれ白い壁と薬草の香りが漂うその建物は、王宮の中でもとりわけ静謐な場所だ。

 複数の医官が入るなり、私を取り囲んでしまう。

 その目は、まるで珍しい魔獣でも観察するかのように鋭い。


「……イレネス・アーデルフィア殿ですね?」


「は、はい……」


「すぐに魔力診断を行います。こちらへどうぞ」


 医官の声は事務的で、まったく温度がなかった。

 扉の向こうには、王宮でも最高位の魔力測定装置――そして、私の知らない検査が待っている。


 一歩踏み出すとき、不安で足が震えた。


 その瞬間、背後から殿下の声が届く。


「――イレネス」


 振り返ると、殿下は真剣な表情で私を見つめていた。


「何があっても、君は君だ。力の大小で価値が決まるわけではない。忘れないでほしい」


 胸の奥がきゅっと熱くなった。

 言葉にできない思いが溢れ、ただ静かに頷くことしかできなかった。


 扉が音を立てて開く。

 ダニエル王子の視線を背に受けながら、私は一歩踏み込んだ。

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