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第8話 『影の記録 ―もう一人のミラ―』



剣と剣がぶつかり合う音が、崩れかけた街の中に響いた。

灰色の空の下、リードと“影”のリードが、まるで鏡写しのように動く。


火花のように散る記憶の欠片。

その一つひとつが、ミラの左目に映り込んでいた。


――そして、その奥で“何か”が蠢く。


「やめて……お願い……!」

ミラが叫んだ瞬間、視界が白く弾けた。


まぶたの裏で、無数の声が重なる。

『あなたは、誰?』『私は、ミラ……』『違う、私は“もう一人”の――』


光の中に浮かんだのは、もう一人の自分。

髪の色も瞳の色も同じ。けれど、その笑みは冷たかった。


「……あなたは、私の中にいたの?」

『違うわ。あなたが、私の中から“出てきた”のよ。』


その声と同時に、ミラの左目が強く輝く。

光が奔流となり、リードと“影”の間に割って入った。


「やめろ、ミラ! その目はまだ――!」

リードの叫びは、光に飲まれて掻き消えた。


次の瞬間、世界が反転する。


空は黒に染まり、街は光の粒となって崩れ落ちていく。

そこは、現実ではない。

ミラの“記憶”と“影”が交わる、境界の中だった。


リードの姿が、遠くにぼやける。

代わりに、もう一人のミラが近づいてくる。

その手には、古びた鏡のような“記録装置”が握られていた。


『これは、あなたが失った記録。

 リードが罪を背負った日、あなたも――見ていたのよ。』


「……私が?」

『ええ。あなたは“観察者”だった。

 でも、あの日の出来事を思い出せば、二度と戻れない。』


ミラは唇を噛んだ。

遠くで、リードの声がかすかに届く。


「ミラ……戻ってこい……!」


光が震え、影が歪む。

もう一人のミラが手を伸ばす。

『選んで。記録を開くか、忘れるか。

 どちらにしても、“あなた”はひとつには戻れない。』


涙が頬を伝った。

そして、ミラは――その手を、取った。


世界が砕ける音が響いた。



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