表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話『影の中のもう一人』


廃城を出てから、どれほどの時が経ったのか。

空は常に灰色で、太陽の輪郭さえも曖昧だった。


ミラとリードは、崩れかけた街道を歩いていた。

風は冷たく、どこからともなく人の声のような囁きが漂ってくる。


「……誰か、いる」

ミラが立ち止まる。

左目が微かに光り、視界の端に“もう一つの影”が映り込んだ。


それは、リードの後ろにぴたりと重なるように現れている。

――黒い靄のような、人の形をした“影”。


「リード、あなたの後ろに……!」

言い終わる前に、影が動いた。

その輪郭が、リード自身の姿へと変わっていく。


同じ声、同じ顔。

だが、その瞳は深紅に染まり、口元には冷たい笑みが浮かんでいた。


「ようやく出られたな、俺」


「……やはり、来たか」

リードの表情が険しくなる。

ミラが後ずさると、リードが低く告げた。


「それは、“もう一人の俺”だ。

 あの日――罪と共に封じた、俺の“影”」


影のリードは笑う。

「罪? 違う。お前が捨てたのは“生きる意志”だ。

 俺はそれを取り戻すために、ここに来た」


周囲の空気が歪み、瓦礫の中から黒い靄が吹き出す。

空が沈み、世界が影に包まれていく。


ミラの左目が再び光り、過去の映像が流れ込んだ。

そこには、人間の姿だったリードが――同じ影に取り憑かれる瞬間が映っていた。


「……あなたは、ずっと……自分と戦っていたのね」


リードは頷かず、剣を抜いた。

その刃は、影の中でもかすかに光を放っていた。


「ミラ。ここから先は、見届けるだけでいい。

 俺は“影”を、終わらせる」


影が笑う。

「終わらせる? 違うさ。お前も俺も、同じ罪から生まれた。

 赦しなんて、この世界にはない――」


雷鳴のような轟きが響き、二人のリードがぶつかり合った。

刃と刃が火花を散らし、過去と現在が交錯する。


その光景の中で、ミラの瞳が見たのは――

“影の奥に立つ、もう一人の少女の姿”。


その少女は、確かにミラと同じ顔をしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ