第5話『灰に眠る記憶』
廃城の扉は、まるで時の墓標のように軋んだ。
その向こうには、冷たい空気と、焦げた鉄の匂いが漂っていた。
ミラは息を詰める。
崩れた天井から射す光が、黒く焼け焦げた床を照らしていた。
どこを見ても、かつてここで何かが――
いや、“誰かが”――焼き尽くされた跡があった。
「……ここは……?」
「俺の……終わりの場所だ」
リードの声が低く響く。
彼の足取りは重く、まるでこの場所が彼の魂そのものを縛っているかのようだった。
玉座の前で立ち止まる。
そこには黒焦げの鎧がひとつ、静かに座っていた。
鎧の胸には刻印がある――円形の紋章。
それは、ミラが以前、記憶の中で見た少年の胸の印と同じだった。
「……あなた、だったのね」
「見たのか……」
リードが微かに笑う。
だが、その笑みは痛みに満ちていた。
「この城を守るために……俺は兵器を使った。
だが、それは制御を失い、街も、仲間も、すべてを焼き尽くした。
命令に背き、守りたいものを守れず……俺は人ではいられなくなった」
その瞬間、ミラの左目が強く光る。
視界が白く反転し、過去の映像が流れ込む――。
若き日のリード。
誇り高い将軍の姿。
燃え盛る炎の中、泣き叫ぶ人々を前に立ち尽くす彼。
そして、自らの剣を胸に突き立て、罪を償おうとした瞬間――
闇が彼を包み、異形の姿へと変えていった。
ミラは息を呑む。
その悲しみが、痛みが、彼女の中にまで流れ込んでくる。
「リード……あなたは、まだその罪を背負っているのね」
「俺は赦されるべきではない。
この姿こそが、俺への罰だ」
ミラは首を振った。
「でも、あなたは私を助けた。
命を繋いでくれた。
それは、罪ではなく――希望です」
その言葉に、リードの瞳が微かに揺れる。
廃城の中、風が吹き抜けた。
玉座の上の鎧が静かに崩れ、灰となって舞い上がる。
そして、どこからともなく声が響いた。
「……リード。まだ終わりではない……」
怨念の囁きが、風のように城を包み込む。
リードが剣を構え、ミラがその腕を掴む。
「大丈夫。
この記憶は、もうあなた一人のものじゃない」
ミラの左目が再び輝き、光が怨念を包む。
やがて、囁きは静まり、灰は穏やかに光へと還った。
長い沈黙のあと、リードが小さく呟く。
「……ありがとう、ミラ」
「行きましょう。外の風が、待っています」
二人は崩れゆく廃城を後にした。
夜空には一筋の星が流れる。
その光を見上げながら、リードは静かに思う。
――罪は消えない。
けれど、誰かの光が、それを照らしてくれる。
そして、彼の中で何かが少しだけ変わり始めていた。




