第4話『廃城の囁き』
灰色の空の下、廃墟となった街を二人は慎重に歩いていた。
焼け焦げた建物の残骸が折れ曲がり、風に揺れる瓦礫の音が耳に刺さる。
ミラは左目に力を込め、目の端に映る異形の残像を追った。
「……ここ、昔は人がいたんですよね……?」
「ああ……今はもう、記憶だけが残っている」
リードの声は低く、影のように重い。
鋭い耳が小さな物音にも反応して、常に警戒している。
ふと、ミラの視界が赤く揺れた。
廃墟の奥に、炎と叫び声が映る。
少年時代のリード。
彼は必死に剣を握り、燃え落ちる街から人々を逃がそうとしていた。
(……リード……あなたが……)
左目に映る記憶の断片に、ミラは息を詰めた。
その痛みや恐怖が、胸の奥にじんわりと伝わってくる。
突然、瓦礫の影から何かが飛び出した。
小さな影、だが獰猛で鋭い牙と爪を持つ生物――未知の脅威だ。
リードは瞬時に身構え、低い唸り声を上げる。
「離れろ、ミラ!」
その場の緊張の中、ミラの左目が光り、脅威の動きや弱点を視覚的に映し出す。
リードはその情報を瞬時に読み取り、素早く生物を制圧した。
戦いは短く、しかしその恐怖は二人の胸に重く残った。
「……まだ、ここには何かいる」
「わかっている……だが、避けて通れぬ道だ」
リードは廃城を見上げる。
かつて人間だった頃の罪の核心、兵器を暴走させ多くの命を奪った場所――
その真実に近づくには、この廃城を越えねばならない。
灰色の風が二人の髪を揺らす。
過去の罪、未来の希望、そして目の前の脅威――
そのすべてが交錯する中、二人は互いの存在を確かめながら、一歩ずつ廃城へと歩を進めた。




