第3話『荒廃の道』
焚き火の残り火が消え、洞窟の中は静寂に包まれた。
ミラは左目に力を込め、リードを見上げる。
「……行きましょう」
「ああ」
二人は洞窟の出口へ向かう。
冷たい朝の風が頬を撫で、崩れた大地の匂いを運んでくる。
外に出ると、焼けた森と灰に覆われた空が広がっていた。
風に舞う灰の中、リードの鋭い耳が微かに動く。
その姿は獣のようで、しかしどこか守護者の影を感じさせた。
ミラは深く息を吸い込み、左目が淡く光る。
「……外の世界は、こんなにも広いんですね」
「これが、俺たちのこれからだ」
二人は互いの存在を確かめ合いながら、焼けた大地を踏みしめて歩き始めた。
過去の記憶と罪はまだ重く胸にある。
だが、今はただ、前へ進むしかない――。
灰色の空が広がる荒れ地を、二人は静かに歩いていた。
森は焼け焦げ、風に舞う灰が顔に触れる。
ミラは左目を微かに光らせ、視界の端に映る残像を確かめるように周囲を見渡す。
「……こんな場所だったんですね……」
「……ああ。でも、生き残った者にはまだ道がある」
リードの声は低く、獣のような響きが混じっていた。
彼の鋭い耳が風に反応して微かに動く。
歩くうち、視界に赤く燃える廃墟の断片が映った。
ミラの左目が反応し、過去の記憶の一部が視界に流れ込む。
――少年時代のリード。
――燃え落ちる街。
――必死に剣を握り、誰かを守ろうとする姿。
(……リード……あなたが……)
ミラの胸に、彼の過去の痛みが微かに伝わる。
しかしそれは、恐怖ではなく、守られるべき命を感じさせる力だった。
「……あれは、人間だった頃のあなたですか?」
リードは答えず、ただ前を向いて歩き続ける。
「記憶は重い。だが、過去を背負わねば、前には進めない」
ミラはそっと手を差し伸べる。
「私が、少しでも支えます」
リードの片目が微かに光った。
その光の中に、ほんの一瞬だけ、人間として生きていた頃の温もりが映る。
灰の荒野に二人の影が長く伸びる。
過去の罪も、滅びの記憶も、まだ重く胸に残る――
だが、二人は確かに前を向き、一歩一歩、荒廃した世界を進み始めた。




