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トライソフィア救出作戦1

「そうだ、今回はハルがリーダーだったよね」

「え、それ本気だったの?」

「忘れるわけないじゃん。ハルは私の次にリーダーに適任なんだからさ」

「そ、そうなのかな?」


 ふふん、と鼻を鳴らしたテンはブレイブエフェクトの最終確認をしながらハルの方へと視線を向けた。

 結局、カイと予定が合わずに四人で任務へと行くことになったのだが、道中の空気は意外と明るい。


「ま、リーダーの自覚はこれから育てていけばいいよ。私もサポートするしさ!」

「ムメイも何か言ってあげれば?君が提案したんだしさ」


 ミヤビに促されても、ムメイは肩を竦めるだけだった。


「そもそも、リーダーなんて誰がやったって一緒でしょ」

「おーい、それ言っちゃダメでしょ」


 テンが苦笑しながらフォローする中、ハルは口を開けて笑った。


「ムメイにそう言われないよう、私頑張る!」


 その決意を表すように、ハルの顔には僅かながらに力強さが宿る。


「どうせならテンからリーダーの極意、教えてもらったら?」

「確かに!教えて!」

「うーん、そう言われるとなんだろうなあ」


 悩むように考え込んだテンへ期待の視線を向ければ、「そうだ」と一言呟いたテンがハルへと向き直った。


「迷わないこと、かな」

「迷わない?」

「うん。理由は特に思いつかないんだけど」


 そう言ってはにかんだテンは、桜ホログラムを瞳に映しながら微かに微笑んだ。


「迷わないこと、かあ……」


 一言を噛み締めるように呟けば、テンは照れくさそうに頬をかいた。


「きっと、シンクロイドで経験を積めば分かるんじゃないかな」

「シンクロイドで?」

「うん。なんかそんな感じする!」


 にっこりと笑ったテンに笑い返せば、桜ホログラムの合間から風が吹き出た。その風が頬を撫でた瞬間に、ふとハルの脳裏に神の岩での光景が蘇る。


「……シンクロイドといえば、結局あそこにいた人は誰だか分からなかったね」

「ハル、もう体調は大丈夫?あの時かなりしんどそうだったし……」

「平気平気!」


 心配そうなミヤビに笑いかけ、ハルは自分を奮い立たせるように拳を握った。

 今でも神の岩で見た光景を思い出すと少しだけ怖いが、それでも目を背けることは出来ない。これを知った以上、何かを変えなければならないのだ。

 四人はエフェクトボードを走らせ、一斉に寮の敷地を出た。

 学校の敷地内から離れてしまえば、目の前には一気にネオン輝くデジタルトーキョーの姿が広がる。

 データセンターも兼ねている神社や寺院、観光名所にもなっているデジタルタワー、高層ビルには大きな広告ホログラムが数多く投影され、様々な商品のプロモーション画像をスライドさせていく。

 桜ホログラムの立ち並ぶ道路をエフェクトボードで走れば、二日ほどでシンクロイドに到着するだろう。


「移動手段がエフェクトボードだけとか効率悪すぎ……旧時代かよ」

「仕方ないよ、瞬間移動ゲートは高いし、エフェクトボードもサイバージ仕様で十分早いでしょ?」


 ムメイの不満にミヤビが軽く受け流し、テンは上空を行くトライソフィアを見上げた。


「でも、あれ使えたら楽だよなあ」

「私も乗りたい!」


 ハルが笑う中、四人の視線は自然と空中列車へと向けられる。


「ねえねえ、じゃあトライソフィアを使う任務がないか聞いてみる?デジタルトーキョーの外に出てみるとか!」

「あ、いいねそれ!私デジタルキョートの街並みとか気になってるんだよなあ!」

「うーん、俺はオキナワとか?たまには自然に触れたいかも」


 ハルの提案に乗ったテンとミヤビは、行きたい都市の名前を次々と上げていく。南国、雪国、食べ物の美味しい地域からデジタル文明の栄えた都市まで。

 かなり出尽くしたあたりで、ハルたちの会話は自然と途切れた。

 やはり、心のどこかではシンクロイドの一件が気になっているのかもしれない。

 ハヤテコードのジャミング化、ジャミングが人為的に仕組まれている可能性、神の岩で覗き見た謎の人影。どれもが謎であり、これからシンクロイドへ行くハルたちの思考の足かせとなる。

 エフェクトボードを走らせながらシンクロイドへと向かうハルの頭の中は、どこか上の空だった。


「……みんな、止まって」


 唐突に、テンの硬い声が響いた。

 慌ててエフェクトボードを止めたハルは、その後すぐに違和感を覚える。

 ジリジリと耳元で鳴るノイズ音。ネットワークが不自然な挙動を起こし始めた。

 すぐにサイバーチップを起動したハルたちは、視界に表示されるパラメータの異常を元に、違和感の発生源であるデータの淀みを探る。

 それでもなかなか発生源を探し当てられない状況に首を傾げたが、ふと真上を見上げたミヤビが静かに口を開いた。


「上だ」

「え?」


 一同が上を見上げると、トライソフィアから黒い霧が漏れ始める。次の瞬間、列車内に救援信号が走った。


「トライソフィアで異常数値検出。サイバージの救援信号確認」


 続くミヤビの言葉に小さく頷いたテンは、ブレイブエフェクトを発現させてアカツキコードを起動した。鞘の内側から電子の光が漏れ始める。


「総員救援準備。すぐ行くよ」

「了解」

「だ、大丈夫なのかな、私たちだけで……!」


 迷いのないテンの指示へ即座に対応したムメイに引き続き、ハルもブレイブエフェクトを発現させるが、その様子はどこか弱々しい。


「迷ってる暇ないよ、リーダー!」


 そんなハルを鼓舞するようにテンが言い放てば、グッと力が湧き上がるような気がした。

 リーダーの極意とは、迷わないこと。

 その言葉が、今のハルを奮い立たせる。


「……分かっ、た!行こう!」


 今は自分が皆を引っ張る立場なのだと気を引き締める。


「まずトライソフィアに乗り込むか。ミヤビ、最寄り駅の飛躍装置はどこにある?」

「ここからエフェクトボードで五分もかからないね。俺が先導する」

「了解!ミヤビに続いて!」

「うん!」


 テンの指示に従い、ミヤビの後に続きエフェクトボードのスピード制限ギリギリまで飛ばせば、周りの景色は瞬く間に流れ去っていく。

 四つの人影はまるで風のように道路を駆け抜け、トライソフィアの停車駅へと急いだ。

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