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大出世

「あー!やっぱ訓練後の温泉最高~!」


 カイが去ってからはいつも通りミヨが教室内に入り、仮想空間での模擬戦闘訓練を行った。

 ジャミングを完全に再現してある仮想空間内で、ハルたちを始めとする学年内グループ対抗戦が発生したのだが。


「ムメイ、もう少し手加減出来なかったの?」

 そう言いながら苦笑しているミヤビが全てを物語っている。

 戦闘訓練が終わった後には寮に完備されている温泉で身体を清め、ハルたちは昼間の戦闘訓練の反省会をしていた。


「手加減した奴からクラッシュしてく。訓練とはいえ、殲滅は早い方が良い」

「だってさ、テン!」


 先に温泉から上がっていたムメイとミヤビは、ソファでくつろぎながら戦闘訓練の映像確認をしていた。

 映像には、ジャミングが発生した瞬間に的確な挙動で殲滅をし続けるムメイの独壇場が映されている。ミヨが大量に発生させたジャミングは、瞬く間に消えていく鮮やかな手腕。


「じゃあしょうがないな」

「全然しょうがなくないけど一理ある!」


 ムメイの言いたいことはテンやミヤビ、ハルが一番分かっていた。冷徹だと誤解されがちなムメイの行動を尊重した結果、毎回スピード勝負になってしまうのだが、そもそもムメイはサイバージとしての適性はここの誰よりも高い。


「まあ、ムメイのスピードについていけるのなんてテンくらいなんだからさあ。他の子の練習時間取っちゃダメでしょ」

「他が遅すぎる」

「わあ。やる気十分なのも困りものだあ」


 お手上げ、と言わんばかりに両手を上げて白旗を振ったミヤビ。ムメイの扱いは長けている分、ミヤビがお手上げならば他の誰が言っても聞かないのは明白だ。

 タオルで髪の水気を取りながらソファに座ったテンは、笑いながら映像を見返していく。


「ここ、ミヨが勢いよくジャミング放ったのさすがに笑った」

「この後のテン凄かったよね」

「咄嗟にミヤビがサポートしてくれたおかげだよ。サンキュ」

「いえいえ~」


 ムメイがジャミングをある程度一掃した後、ミヨによっておびただしい量のジャミングが放り出されたのだ。

 シミュレーションとはいえ、数日は夢に出てきそうなおぞましさにハルたち一般生徒は完全に足がすくんでしまっていたのだが。


「あ、そう!ここここ!」


 勢いよくハルは立ち上がり、映像を食い入るように見つめる。ミヨによってジャミングが大量放出された刹那、ムメイの動きが一瞬止まる。

 しかしすぐに状況を把握したムメイがジャミングの元へと足を進めたが、次の瞬間には大きな舌打ちをして後方に飛びのいた。


「ていうか、ムメちゃんよく気づいたね」

「別に。巻き込まれるのはごめんってだけ」


 映像を再生するディスプレイから目を離し、ムメイの方を向けばあからさまに嫌悪感をにじませたムメイと目があった。

 続く映像には、大量のジャミングの周りに浮かび上がる幾何学的な電子文字。赤紫がかった柔らかな光は、まるで夜明け前の薄明りのような美しさ。

 その力が誰のものであるかは、明白だった。


「きたっ!きたきたきたーっ!」


 興奮気味に画面を見るハルと、照れくさそうに頬を掻くテン。無表情で見つめるムメイに、感心したように目を見開くミヤビ。

 ジャギジャギと空間ごと切り裂くような電子音が響き、銀色の閃光が宙に舞った。

 それがテンの長い髪であることに気づいたのはずっと後の話なのだが、とにかく閃光は美しい軌道を描き大量のジャミングのもとへと突っ込んでいく。

 そしてテンの持つ電子刀、ブレイブエフェクトの形状がジャミングへ触れる瞬時にカスタマイズされる。ただの刀から大きな鎌となったブレイブエフェクトは、広範囲に広がるジャミングを一撃で一掃した。


「うわっ!うわ~!すごい!わっ!」


 データを纏ったような美しい光はテンのブレイブエフェクトにしか現れない。通常ならブレイブエフェクトを形状ごとカスタマイズすることは不可能なのだが、それを可能としているのは何を隠そうテンの持つアカツキコードだ。


「さすがアカツキコード。ブレイブエフェクトの扱いに関してはレイメイコードにも勝るね」

「やめて。誰が聞いてるのかも分からないのに」


 軽口を叩くようなミヤビの発言に本気で口を塞ぐテンは、映像を見返しながら渋い顔をしていた。

 サイバージがジャミングと戦う上で必須である戦闘用デバイス、ブレイブエフェクトは遥か昔にアカツキコードが開発した。

 以降もアカツキコードはサイバージに必要な戦闘ツールやプログラムの開発を担ってきた背景がある。

 電子倭国における手足がレイメイコードであるのなら、アカツキコードは頭脳とも呼べるだろう。力のレイメイ、知性のアカツキという言葉は、ここからきている。


「うーん、でもやっぱり」


 ミヤビの声が響き、三人は揃ってミヤビの青い目を見る。状況を俯瞰して読み取るミヤビの考えは、いつだって的確だ。


「個人プレー感が否めないなあ」

「……」


 途端に静まったハルたちは、映像に映る派手な戦闘を流し見た。

 鮮やかにジャミングを倒していくムメイ、一撃で仕留めるテン、二人の動きを見ながらサポートをするミヤビ。

 問題は何一つとしてないのだが、強いていうのなら「個々の力が強すぎる」のが問題だろうか。

 誰にも隙を与えない三人の圧倒的なサイバージとしての強さは、他を食い潰さんばかりの勢いである。

 カイの言葉を借りるならば、個人としての能力は高いが、それまで。


「実際、ジャミングが大量放出されてからハルは動きが鈍くなってる」

「あ、うん……」

「……」


 反論のしようもない事実に縮こまるハルへ、ムメイの静かな視線が刺さった。

 そして、何かを考えたのであろうムメイの口から、コンマ数秒で予想外の言葉がはじき出される。


「じゃあ、次の任務でハルに指揮をさせたらいい」

「え」

「ハルには自信がなさすぎる。サイバージにとってそれは致命的だ」


 淡々と口にしたムメイの言葉に、ハルは固まった。ムメイの横にいた横にいたミヤビも、まさかの提案に目を丸くする。

「ああ!いいじゃんそれ!」

「えっ!?」

 ただ一人、テンだけはムメイの考えに賛同しハルの方へと振り返った。

「ってことでハル、シンクロイドジャミング討伐任務のリーダーは任せた!」

「わ、私が!?」

 満場一致で決まりかけそうなとき、視界の端で笑うミヤビに助けを求めるが、爽やかな笑みに救難信号は一蹴された。

 万年最下位、ハル。ここにきて大出世である。

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