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Chapter5 「都道405 外濠通りを封鎖せよ」

Chapter5 「都道405 外濠通りを封鎖せよ」


「海と山が近くて綺麗な景色だね。今度観光でゆっくり来たいよ」

ミントが車窓から外を見ながら言った。

「三陸独特のリアス式海岸で観光スポットが多い所だ。カツオやサンマや近海マグロの水揚げが盛んな漁港でもある。東日本大震災では津波で大きな被害が出たんだ」

木崎が運転しながら説明した。

「フカヒレも有名ですよね。今回の任務と敵の襲撃が無かったら来る事は無かったかもしれません」

米子が言った。ハイエースは気仙沼港を抜けて『コの字岸壁』に近づいた。文字通り正方形をした岸壁だった。広い敷地内の真ん中に白と青のツートンカラーのヘリコプターが駐機しているのが小さく見える。周りに赤色灯を回転させたパトカーも3台停まっている。

「あれっ、陸自のヘリコプターなのに色が緑っぽくないね」

ミントが言った。

「あれは陸上自衛隊所有の『要人輸送ヘリコプターのユーロコプターEC-225LP 』だ。内閣総理大臣や国賓などの要人を運ぶヘリコプターだ。木更津の第1ヘリコプター団の特別輸送ヘリコプター隊に装備されている」

「へー、俺が総理大臣や国賓扱いって訳か。こりゃ面白いなあ」

安本は愉快そうに声を上げた。

「敵を欺く為もあるんでしょう。内閣情報統括室の総括室長は一部においては防衛大臣より強い権限を持っています」

木崎が言った。

「内閣情報統括室は大したもんですね。存在は知ってましたがあまり関わった事は無かったです。端的に言って何の為の組織ですか?」

安本が言った。

「国益を第1とした組織です。その為ならなんでもやります」

「この娘達も職員なんですか?」

「契約職員みたいな感じです。我々実動部隊は外局というか関連会社みたいな扱いです」

「いやー、それにしては優秀だった。まさかこんな若い女の子に守ってもらうなんて夢にも思ってなかったですよ。いいエピソードになったな」

「あの、私達の存在は極秘です。絶対に口外しないで下さい。ナイフを持って安本さんの寝室に忍び込むような事はしたくありませんから」

米子が言った。

「おいっ、勘弁してくれよ、怖いな。確か暗殺が本業なんだよな」

「まあ誰も信じないと思うけどね」

ミントが言った。

「俺は未だに信じられないよ。俺達が戦ってた相手が女子高生だったなんてな。JKアサシンの噂は聞いていたが半分冗談だと思ってた。それにもっと無機質というか、ロボットみたいな存在をイメージしていたが普通の可愛い女の子だった。木崎さん、公安と内閣情報統括室は手を組むべきだ! 公安は調査能力はあるが戦闘能力は今一つだ。あいつら『赤い狐』に勝つためには省庁の縄張り争いやメンツを気にしてる場合じゃない。死んだ仲間の為にも負ける訳にはいかないんだ!」

藤谷が勢いよく言った。

「そうですよ! 私だってこの国の為に命を落とした仲間に報いたい。警察も内閣情報統括室も協力して下さい! 世界は確実に危機に向かってる。この国もだ。だけど、外務省の上層部は実に呑気なもんだ。今回の件で良く分かった。日本国内で何十人単位の武装集団が暴れる事が可能になっている。私も上に危機を訴えますよ!」

安本も熱く語った。

「わかりました。私も今回の敵の襲撃に驚きました。まるで戦争です。私も可能な限り上層部に訴えます。新しい力も古い力も今は協力して危機に対処するべきだと」

木崎が言った。


 ハイエースに乗る全員が車を降りてヘリコプターに近づいた。ヘリのローターが回り出した。パトリック、樹里亜、瑠美緯もハリアーから降りて来た。操縦席から戦闘服を着て、白いヘルメットを被った男が2人降りて来た。

「操縦士の坂部3尉です」

「副操縦士の石渡1曹です」

2人が敬礼する。

「内閣情報統括室の木崎です。4名の移送をお願いします」

木崎も敬礼した。

「了解しました。市ヶ谷の防衛省庁舎まで90分で行きます。市ヶ谷から永田町の内閣府までは自衛隊の車両で護送します。空自のレーダーは最警戒レベルで対応しています。哨戒ヘリも複数飛ばしていますので空路の警戒は万全です」

坂部3尉が言った。

「よろしくお願いします」

木崎が言う。

「乗って下さい。すぐに出発します」

坂部3尉が促す。

「米子、市ヶ谷にKLX250を届けさせている。よかったら使え」

木崎が言った。

「わかりました」

安本、藤谷、米子、ミントの4人は開いたスライドドアからヘリに乗り込むとソファーのようなシートの前後に2人ずつ座った。

ヘリコプターエンジンが唸りだし、ローターの音が大きくなる。

『上昇します。ベルトを締めて下さい』

スピーカーから声が響く。ユーロコプターEC-225LPが浮き上がった。グングンと高度がが上がる。堤防では木崎、パトリック、樹里亜、瑠美緯の4人が上を向いて両手を大きく振っている。その姿がどんどん小がさくなる。その光景に米子は少し物悲しい気分になったが仲間がいることを有難いと思った。

「米子、なんか映画みたいだね」

ミントが言った。

「うん、でも筋書きは私達が作るんだよ」

米子が言う。

ユーロコプターEC-225LPのローター音が大きくなるとヘリは東に向かって動き出した。眼下の三陸海岸の青い海と緑の山が流れていく。


 『もうすぐ都心上空です。不審な民間小型ヘリ2機を陸自の戦闘ヘリが接近して追い払いました。飛行は順調です』

スピーカーから音声が流れる。

「敵はヘリまで出してるのか」

安本が言う。

「浦安の遊覧ヘリをジャックしたんでしょう。あの辺りには遊覧ヘリの会社が何社かあります」

藤谷が言った。

「なんかスパイ映画みたいだよ」

ミントが興奮している。高度800m、眼下には巨大な東京の街並みが広がっていた。


 「これよりヘリポートに着陸します」

坂部3尉の声が機内に響く。

ユーロコプターEC-225LPは市ヶ谷の19階建ての防衛省庁舎屋上のヘリポートに着陸した。米子達はヘリポートから階段で庁舎内に入ると待ち受けていた隊員の案内でエレベーターに乗り、1階まで降りた。

「今回の護送班の班長の村川1曹です。護送車に乗って下さい。内閣府までお連れします。バイクも準備してあります」

戦闘服を着た川村1曹が言った。


庁舎の入り口横には通称ブッシュマスターと呼ばれるオリーブドラブ色の『輸送防護車・MRAP』と米子愛用の艶消しの黒色に塗られたKawasakiKLX250が停まっていた。MRAPとはMine Resistant Ambush rotected:耐地雷伏撃防護車両の略で、地雷攻撃に耐えられる強固な車両である。重量は15トン、最大時速100Km、乗員は10名。ボディは7.62mm弾にも耐えられる防弾仕様。アメリカ軍やイギリス軍等各国の軍隊でも使用されている装甲車両だ。

「大きくてゴツいね。一度乗ってみたかったんだよ」

ミントが言った。

「私はバイクで後ろを走るよ。リュックは宜しくね。念のためインカムONにしといて」

米子は自分のリュックをミントに渡すとHK416Cカスタムカービンの入ったキーボードケースを肩に掛けた。

「米子、お腹空いたね。終わったらご飯食べようよ」

ミントが言った。

「そうだね、ラーメンとライスだね」

「私はラーメンと半チャーハンにするよ」


 米子はバイクに跨った。黒いフルフェイスのヘルメットに赤いチェックのシャツにアイボリーのトレッキングパンツに鶯色のスニーカー。肩にはキーボードケース。

輸送防護車と米子の乗ったバイクは時速20kmでゆっくりと都道405号線外濠通りを走った。先導に白バイ2台が走っている。405号線と交差する幹線道路は輸送防護車を通すために交通規制がかかり、通行止めになっている。ミント達は輸送防護車の後部に乗っていた。迷彩服3型を着て帽子を被った護衛の自衛隊員も2人乗っている。警察の交通規制が行われ、各交叉点にはパトカーや警察車両が停まっていた。対向車も並走車も無かった。前方に首都高都心環状線の高架が見えて来た。輸送防護車は溜池の交差点を直進した。

《マーズよりビーナスへ、様子がおかしい! 内閣府に行くなら溜池で左折のはず! 直進したよ! 状況を確認して》

米子の声がインカムに響いた。

《ビーナス了解》

「藤谷さん、米子からの連絡だよ。この車、溜池を左折しないで直進したって」

「何? おかしいな。おい、何処に向かってるんだ!」

藤谷が大きな声で言った。運転席からは返事が無い。藤谷がスマートフォンを取り出して公安本部に電話を掛ける。

「レッド1(ワン)の藤谷だ、護送車の様子がおかしい、確認してくれ。 何、到着済だって? そいつらは偽物だ! 現在都道405を南下中、護衛対象もいる。停めさせろ! 確認なんか後にしろ、急げ!」

藤谷が怒鳴っている。

「どうしたの?」

「どうした?」

ミントと安本が訊く。

「俺達の偽物が内閣府に到着したらしい。この車は罠だ!」

藤谷が叫ぶ。

輸送防護車が急加速して蛇行すると先導する白バイに後ろからぶつかった。2台の白バイは左右に飛ばされ転倒した。受け身を取った白バイ隊員が路面を転がった。

ミントが慌ててキーボードケースのジッパーを開くとHK416Cを取り出した。

《ビーナスからマーズへ、罠だよ! 車を停めさせて!》

《マーズ了解》

「動くな、大人しくしろ!」

護衛の自衛隊員2人がミントと藤谷に自衛隊の制式拳銃である『9mm拳銃』を向けた。ミントは大人しくHK416Cを床に置いた。


 米子はミントからの通信と、白バイが追突されるのを見て異変を感じた。バイクのハンドルから両手を離すと、キーボードケースを持ち、HK416Cを取り出してスリングを首に掛け、再びハンドルを握った。米子がバイクで右から輸送防護車を追い抜こうとすると  輸送防護車が勢いよく幅寄せをしてきた。

『ダン ダン ダン ダン』

米子はブレーキをかけた後、HK416を両手で構え、チャージングレバーを引くとセミオートで輸送防護車の後部タイヤに発砲した。5.56mm弾はタイヤに命中したがコンバットタイヤにダメージを与える事はできなかった。米子は虎ノ門交差点でバイクを路肩に停めてポケットからスマートフォンを取り出すと電話を掛けた。

『内閣情報統括室室長室です』

女性が出た。

『ニコニコ企画の沢村米子です。スパロー8護送任務中に緊急事態発生、管理官に繋いで下さい』

『わかりました、繋ぎます』

『管理官の東山だ。護送任務中の沢村米子か?』

『そうです。緊急事態です。護送対象を気仙沼から防衛省までヘリで護送後、自衛隊の車両で内閣府に向かっていましたが車両が護送ルートを無視して豊洲方面に向かってます。対象車両には護送対象のスパロー8こと外務省の安本輝明、公安警察官の藤谷和樹、当組織の工作員の高梨ミントが乗車、他に自衛隊員4名が乗車するも自衛隊員は敵勢力と思われます。対象車両は自衛隊の輸送防護車、通称ブッシュマスター。対象車両は時速60Kmで都道405を豊洲方面に向かって走行中。私はバイクで追跡中です、対象車両を止めて下さい』

『状況は分かった。今、公安からも連絡があった。管内の警官を総動員して向かわせる。進路上にバリケードを構築する。沢村君、時間稼ぎをしろ! 頼んだぞ!』


 米子は西新橋1丁目交差点で対向車線に入り、405号線を時速80kmで逆走した。交通規制のため、対向車はいない。中央に縁石と防護柵があるので幅寄せされる事もない。米子は時速60Kmで走行する輸送防護車を横目に見ながら追い越した。405号線は新橋駅の横のガードを潜ると、左に曲がり有楽町方面に伸びる。直進すると316号線になる。米子のバイクは新橋駅のガードを潜ると新橋駅銀座口前交差点に入る。交差点の歩道は歩行者が大勢出ていたが道路は交通規制で通行止めだった。有楽町方面から交差する道路の先頭に薄いクリーム色に黄緑色とオレンジ色のラインの入った都営バスが停車している。輸送防護車が通過して規制が解除されるのを待っているのだ。行先表示の液晶は『新橋』となっている。スカイツリーから木場駅経由で新橋に繋がる『業10』という系統だ。米子は左折して都営バスの横にバイクを停める。黒いフルフェイスのヘルメットを脱いでハンドルに掛けるとバスに駆け寄り乗車口のドアを強く叩いた。交差点には交通課の警官が配置され交通規制をかけていた。バスのドアが内側に開く。米子はステップに飛び乗った。交通規制の影響で乗客はいなかった。

「エンジンを始動して降りて下さい! バスを借ります。私は政府の工作員です、緊急事態です!」

米子が運転手に向かって大きな声で言った。

「何言ってるんだ、通行規制中だぞ。工作員? 頭おかしいんじゃないのか? なんだそれ?」

バスの運転手は目を丸くして驚き、米子の持つHK416Cを見ていた。

『ダン ダン ダン』

米子はバスの天井に向けてHK416Cを発砲した。車内に凄まじい銃声が響き、天井に穴が空いた。

「うおっ!」

運転手が飛び上がるようにして驚いた。

「早くして!」

「本物なのか? やめろ! 撃たないでくれ」

バスの運転手はエンジン始動ペダルを踏んでエンジンをかけると両手で頭を押さえ、姿勢を低くしてバスを降りて行った。米子はバス運転席に座り、バーを引いてパーキングブレーキを解除するとブレーキを踏みながらギアをニュートラルからドライブに入れた。交差点で交通規制を行っていた警官達が銃声に気付き、バスの運転席を見ている。JRのガードの下を潜りながら輸送防護車がゆっくりと交差点に進入して来た。米子はアクセルを強く踏み込んだ。

《マーズよりビーナスへ、衝撃に備えよ! 何かに掴まって!》

『グオーーーーーーン』      『ガガーーーーーーーーン!!!!』

都営バスが急加速して輸送防護車の運転席の左横に突っ込んだ。凄まじい衝撃でバスの前面の大きなフロントガラスが砕けた。米子は衝突寸前にバスの運転席から車内の通路に転がり、乗客用の椅子の脚に掴まった。輸送防護車は30度右を向いて停車した。バスの前面は潰れたように大きく凹んでいるがエンジンは止まっていない。米子は半壊した運転席に這い上がるとハンドルを握ってアクセルを踏み続けた。バスが輸送防護車に接触したまま押すように前に出る。バスのエンジンが唸り、金属の擦れる音とは剥がれる音が響く。輸送防護車がさらに右側に向いてその正面がバスの側面に斜めから刺さったような形に食い込んだ。輸送防護車の助手席の村川1曹と運転手は衝突時の衝撃で意識を失っている。交差点の歩行者が衝突を見て騒いでいる。輸送防護車が停まった交差点角の『ガーガーカレー』の客と店員が驚いて外に走り出て来た。米子にバスを奪われた運転手も唖然として歩道に立ち尽くしている。


 《マーズよりビーナスへ、衝撃に備えよ! 何かに掴まって!》

「えっ?」

《ビーナスよりマー

ミントがインカムで状況を確認しよと思った瞬間、輸送防護車の後部乗車区画を衝突の激しい衝撃が襲った。

「キャア!」

「うおっ!」

「ウガ!」

自衛隊員とミント達は激しく体を揺さぶられて吹っ飛ぶ。自衛隊員2人の銃口がミント達を逸れて1人がドアに頭を強打した。

『パン! パン!』 『パン! パン!』

ミントが素早く腰のマルチフィットホルスターからP‐226を、藤谷がスーツの内側のショルダーホルスターからグロック17を抜いて発砲した。狭い密閉空間での発射音は凄まじく、ミント達は耳がキーンとなり、自衛隊員は頭部に弾丸を受けて崩れ落ちた。

「藤谷さん、やるじゃん!」

ミントが言った。

「まあな、外にでるぞ!」

藤谷が言いながらドアを開けて邪魔な自衛隊員の死体を外に蹴り落とした。ミント達は外に出てアスファルトの上に立った。新橋駅銀座口前交差点の真ん中で右を向いた輸送防護車の前部が都営バスの側面に食い込んでいた。

「何なんだこれ? どうなってるんだ!?」

安本が驚きの声を上げる。都営バスの壊れた運転席の窓から赤いチェックのシャツを着てアイボリーのトレッキングパンツを履いた米子がアスファルトの上に飛び降りた。

「米子だよ! 米子がバスをぶつけたんだよ!」

ミントが叫ぶように言った。

「君の相棒はスーパーマンだな」

藤谷が言った。

「違うよ。スーパーJKアサシンだよ」

パトカーが10台以上、サイレンを鳴らしながら新橋駅前交差点に集まって来た。野次馬がもの凄い数になっていた。機動隊員を乗せたバスも3台停車して完全武装の機動隊が勢いよく降りて来た。東山管理官の手配が間に合ったようだ。



米子の咄嗟の機転、都営バスでの突撃、いかがでしたか? 次回より米子に魔の手が伸び始めます。


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