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Chapter17 「山荘襲撃 1/2」

Chapter17 「山荘襲撃 1/2」


 米子とカンナは信濃町の施設にいた。カンナが身を置く北朝鮮系の組織の日本支部だ。

「沢村米子です」

米子が頭を下げた。

「同志如月から話は聞いている。『赤い連隊』の襲撃は決まったようだな」

「お願いがあります。今回の作戦では自分の所属する組織のバックアップを受けられません。あなた達に武器の調達をお願いしたいのです」

米子が言った。

「君は我々が『赤い狐』の配下の組織だと知っているな。そして君は『赤い狐』のメンバーを大勢殺害した。まあ、赤い狐は厳密には我々とは別の組織だから私は構わないがな。我々の組織の方が歴史は古いのだ」

「あれはミッションの一環としての戦いでした。日本側にも死者が出ています」

「いいだろう。希望の武器を言いたまえ」

「アサルトライフルとC4爆薬20Kgと電気雷管に神経ガスです。できれば噴霧装置と防毒マスクもお願いします。弾丸は7.62mm未満の5~6mmクラス。神経ガスは致死性が高くて空気と比重が同じか重い物でお願いします。拳銃とサイレンサーも用意していただけないでしょうか。今持ってる拳銃は内閣情報統括室から支給されたものなので使うことはできません。できればSIG-P229の357SIG弾仕様をお願いします」

「ほう。神経ガスに噴霧装置か。君は作戦立案能力が高いと聞いている。IQが200なんだろ?」

「作戦立案能力が高いかはわかりませんが、IQは160です。200は調子がいい時です」

「いいだろう。用意しよう。それと同志如月、頼まれていた銃を入手した」

吉村は引き出しから銃を取り出して机の上に置いた。銃は銀色に輝いていた。

「これがベレッタ92なのか? 銀色だぞ」

カンナが驚いたように言った。

「ああ、本部から届いたのだ。色までは私にもわからない。確かにベレッタ92だ。弾倉3つと実弾200発も届いている」

吉村が言った。

「『ベレッタ92FS  INOX』ですね。フレームもスライドもバレルもステンレスだから錆や腐食に強いです」

米子が言った。

「美しいな。まるで芸術品だ。気に入ったぞ! これはいい!」

カンナが惚れ惚れした表情で銃を手に取った。


 米子とカンナは2週間後に信濃町の施設に再び足を運んだ。武器が調達できたとの事だった。

部屋の中央にあるテーブルの上にはアサルトライフルが2丁と弾倉10個、SIG

―P229と羊羹のようなC4爆薬の塊が20個、防毒マスクが置かれていた。床にはプロパンガス20Kgボンベが置かれていた。

「要求されたものは全部揃えた」

吉村が言った。

「早かったですね」

「詳しい事は言えないが、日本国内にも武器の備蓄はある。ガスについてはロシアから空輸で入手した」

「銃と神経ガスの説明をお願いします」

米子が言った。

「銃はAK74MNだ。コピー品では無く、ロシア製で工作制度は高い。弾丸は5.45mm×39mm弾だ。ストックは畳むことができる。弾倉は30発だ」

「おお、AK74なら撃ちやすいな。AK47は弾丸の口径が7.62mmだから反動が大きくて、銃身が暴れる。連射だと初弾しか当たらないのだ。AK74系なら口径が5.45mmだから反動が少ない。命中率もいい。訓練で撃った事があるからわかるのだ」

「AK系は丈夫で、泥の中に埋めたのを掘りだしてもそのまま撃てるって聞いたよ。私も訓練所でAK47もAK74も撃ったことあるけど、AK74の方がマズルコントロールが楽だった覚えがあるよ」

「米子達の組織は東側の武器も訓練するのか?」

「うん、大抵の武器は訓練するよ。ニュース映像や映画の影響かもしれないけど、AKってイメージ悪いよね。ゲリラやテロリストが使ってるイメージだよ。製造が簡単で、丈夫でメンテナンス性が良くて、使い易いから人気なんだろうけど、コピー品も多いから世界中で一番使われてるアサルトライフルだよね」

「そうだ。特にAK47はコピー製品が紛争地帯でバラ撒かれている。安いからゲリラや反政府勢力でも買える。武器商人にとっても調達しやすく捌きやすいからドル箱商品だ。アジアや中東の紛争、アフリカの内戦なんかではこの銃が大量にバラ撒かれている。アフリカでは反政府勢力配下の村の少年や子供にまで配備されている。どれだけの数が存在するのか誰にも把握できない状況だ」

吉村が説明した。米子はテーブルの上のSIG-P229を手に取り、弾倉を抜き出すとスライドを引いた。チェンバーに弾丸が入ってない事を確認すると銃口を床に向けて引き金を引いてドライファイアした。

「ガスの説明をお願いします」

「いいだろう。このガスは『青酸ガス』でシアン化水素の改良型だ。神経ガスのサリンやVXガスは皮膚に付いたら終わりだ。取り扱いが難しく、防護服が必要になるので青酸ガスにしたのだ。本来は空気より軽いが、ハイドロフルオロカーボン(炭素+水素+フッ素の化合物質)を混合して空気よりやや重くなるように改良してある。サリンなどと違って皮膚に付着しても問題ない。だが吸い込んだら終わりだ。体中の細胞の酸素利用を阻害して窒息死する。マスクの装着は必須だ。効果は数十秒で現れ、ほぼ即死だ。中和剤の『亜硝酸アミル』のアンプルを用意したからガスの使用前にアンプルを割って嗅ぐようにしてくれ」

「わかりました。問題ありません」

米子が言った。

「米子、どんな作戦なんだ?」

「耐圧ホースを使って山荘の中にこっそり撒くんだよ。上手く行けばそれで終わりだよ。山荘の見取り図は手に入れた。おそらく敵は1階の広いリビングに集まってるだろうから、勝手口から潜入してホースをセットするよ」

「おお、凄い作戦だな。てっきり突入してアサルトライフルで撃ち殺すとのだと思っていたぞ」

カンナが言った。

「敵は散弾銃を装備してるから、室内で銃撃戦になったらこっちのリスクが高くなるよ。戦わずして勝つのが良策だよ」

「米子、お前は本当に女子高生なのか? 射撃、格闘術、作戦、全てが完璧だぞ」

カンナが不思議そうに言った。

「JKアサシンだよ。非合法の存在だけど、どこにも負けないよ」

「さすがに公安配下の組織や赤い狐の工作員を大勢倒しただけの事はあるな。IQ200で戦闘能力は桁違い。阿南さんが君を欲しがるのも頷ける」

吉村が感慨深そうに言った。

「阿南? 誰ですか?」

米子が訊いた。初めて耳にする名前だった。

「赤い狐の日本における最高責任者だ」

「神崎さんの上の人間ですか?」

「そうだ。そのうち君も会う事になるだろう」

「楽しみです」

米子が意味深に言った。


 AM3:00。山荘は谷底から100m登った山の斜面にあった。谷底は平坦な広場になっている。バーベキューなど行う場所のようで、石を円形に並べた跡や焼け残った薪が転がっている。米子達は谷底から300mほど登った場所で山荘を観察していた。米子達は東京でレンタカーのレンジローバーを借りて長野県小海町に移動した。レンジローバーは山荘から4km離れた河原に停めた。河原で紺色の戦闘服に着替え、装備を身に着けて徒歩で3時間かけて夜の山道を歩いて来たのだ。米子は登山用のキャリー背負子を背負い、その上に20Kgサイズのプロパンガスボンベを載せている。中身は青酸ガスだ。首から掛けたAK74MN、弾帯に着けた弾丸の入った5つの弾倉、SIG-P229と水筒、C4爆薬の入った肩掛けカバンの全部の重量を合わせると50kg以上になる。カンナの背負ったリュックの中には遭難のリスクを考えて2人分の飲料水と食料を3日分、コンロとカセットボンベ、アルミの食器セットが入っていた。

「見取り図の通り2階建てだね。1階も2階も明かりが点いてるよ。集会を開くっていう情報は正しかったね、集まってるよ。でもこんな夜中のまで起きてるのは困ったね。寝てるところをガスで殲滅するつもりだったんだよね」

米子が双眼鏡を覗きながら言った。

「空振りにならなくて良かったな。明かりはついてるけど全員は起きてないだろう」

カンナが言った。

「うん。接近してガスで一気にカタを付けよう。それとコードネームは私がマーズ、カンナはネプチューンだよ。マーズは火星、ネプチューンは海王星だよ。インカムと作戦現場ではコードネームで呼び合うよ。私の組織ではそうしてるんだよ」

「わかった、海王星か、どんな所かインターネットで調べてみよう」

「海王星は地球の4倍の大きさのガス惑星だよ」

「ますます興味深いな。作戦通りに私は山荘の下から接近するぞ」

カンナが言った。

「うん。私は上から接近して勝手口から侵入してガスを撒くよ。侵入予定は4時。もし敵に気付かれて撃ち合いになったら下から援護して。インカムはオンにしといてね」

「わかった、気を付けろよ」

「大丈夫。JKアサシンと北の工作員のタッグが負ける訳がないよ」

「そうだな。終わったらファミレスに行こう。ハンバーグが食べたくなった」

カンナが言った。

「いいよ。奢ってあげるよ」

「ドリンクバーも付けてくれ」

カンナが斜面を下り始めた。米子もしばらく山荘を観察すると山荘に向けてゆっくり下り始めた。


 山荘までの距離は100m。敵に動きは無い。米子は獣道を下る事にした。暗視ゴーグルを掛ける。

《こちらマーズ、敵に動き無し》

《こちらネプチューン、山荘の下50mの位置の窪地に待機》

《マーズ了解》

米子は獣道にタバコの吸殻を発見した。吸殻は同じ場所に5本落ちていた。暗視ゴーグルを外して吸殻を手に取るとまだ新しかった。米子は姿勢を低くして地面を舐めるように観察した。

『それ』はあった。獣道の右端から50cmほど入った草むらに高さ30Cmほどの黒い棒が立っていた。反対側の草むらに注意深く進入するとそこにも同じサイズの棒が立っていた。棒と棒の間の空間に注意をしながら接近した。棒はレーザーセンサーだった。2本の棒の間に照射されているレーザーを遮ると反応して電波を送信する仕組みだ。送信された電波は専用の受信機で受信され、敵の侵入を知らせる。キーライトで照らしながらよく見るとレーザーセンサーは真新しいものだった。タバコの吸い殻はレーザーセンサーの設置作業を行った人間のものだと思った。米子は棒の後ろを回り込んで草むらを下った。山荘まで30m。山荘の窓から漏れる明かりが届きそうな距離だった。

『ズドン  ズドン』 『ダダダダダダダダーーー』 『ダダダダダダダダーーー』  

銃声が山に木霊した。米子は咄嗟に伏せた。山荘の2階の窓に人影が現れ、銃を発砲した。米子は銃声が散弾銃とアサルトライフルのものだと判断した。

《こちらマーズ、敵が東側の2階の窓から銃撃! 銃は散弾銃とアサルトライフルと思われる。ネプチューンは待機して存在を秘匿せよ》

《米子、大丈夫か! 今そっちに行くぞ!》

《こちらマーズ、その場で待機して、こっちは大丈夫、それとコードネームを使って》

《ネプチューン了解、大丈夫なのか?》

《こちらマーズ、とにかく待機せよ》

米子は匍匐前進で迂回する。プロパンガスボンベが背中を圧迫して痛みを感じた。敵は銃撃を続けているが、こちらの位置を見失ったようだ。

山荘まで10m。米子は起き上がってダッシュした。勝手口の木のドアを足の裏全体で力強く蹴る。ドアが内側に開いた。勝手口から入って廊下を進むと階段を見つけた。見取り図通りだった。階段を駆け上がりながら首から掛けたAK74MNのボルトを引くとグリップを握って体の前に構える。2階には銃撃して来た敵がいるはずだった。米子は忍び足で2階の廊下を進む。

「おい、いなくなったぞ」

「中に入ったんじゃないですか?」

「下を見てこい、下のヤツらにも戦うように言ってこい!」

「行って来ます、でもみんな酔っ払ってますよ、12時過ぎたから安心して飲んでます」

「緊張感のないヤツらだ」

2階の部屋から男達の声が聞こえて来た。米子はアサルトライフルから手を離すと腰の汎用ホルスターからサイレンサーの付いたSIG―P229を外した。ホルスターは樹脂製で横から銃をはめ込むタイプなのでサイレンサーを付けた状態の銃でも収めることができる。銃身はサイレンサー装着用のバレルに付け替えていた。米子はSIG―P229のスライド引いて弾を薬室に装填して声のした部屋のドアに狙いをつけた。


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