Chapter1 「新たな敵」
第4部は物語の背景が広がり、新キャラも登場して戦闘シーンもリアルで迫力のあるものになっています。ミントの過去や心が揺れる米子など、既存キャラの魅力もアップしています。スケールアップした物語をお楽しみ下さい。感想などを頂けると嬉しく思います。投稿は【毎週 火曜日&金曜日の夜】!
Chapter1 「新たな敵」
米子は内閣情報統括室配下のニコニコ企画株式会社に復帰した。約2ヵ月の長い休暇を終えたのだ。米子の復帰祝いを皆がお気に入りの青山の焼肉店『寿々苑』で開いていた。個室のテーブルの上には高級な肉が載った皿が並んでいた。
「米子、戻ってくれてありがとう。米子が本気で組織を辞めるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたんだ。この組織は簡単には辞められない。場合によってはお前を敵に回す事になるかも知れなかった」
木崎が言った。
「組織を離れて気が付きました。普通の生活もいいですけど、やっぱここが私の居場所なんです。いろいろお世話になっていますし、仲間もいます。磨いてきた能力も活かせます。それに、みんなを敵に回す度胸はありません」
「なるほどねー、私も正直言って米子が戻ってくれてホッとしたよ。私もチームを纏めようと頑張ったし、戦闘指揮も大分勉強したよ。だけど作戦立案能力では米子に敵わないよ。IQやセンスの違いだよ。米子を敵に回すなんて冗談じゃないよ、生きた心地がしないよ。それに米子が一緒だと楽しんだよ。長い付き合いだしね。そういえば初めてこのお店に来たのも米子の復帰祝いだったね」
ミントが言った。
「そう言えばそうだな。神宮球場で夜桜と激しい撃ち合いをした後だったな」
木崎が言う。
「あの時は私も木崎さんももう少しで殺されるところだったんだよ。米子が助けてくれたんだよね。やっぱり米子は勝利の女神なんだよ」
「その話詳しく聞きたいっす。米子先輩がいないニコニコ企画なんて考えられないっすよ。米子先輩と戦うなんてありえないっす。バイク戦闘教えて下さい。私も潜入スキルを上げたんで、米子先輩みたいにもっと強くなりたいです。それに、毎日米子先輩に会えるなんて気分が上がります!」
瑠美緯が言った。
「沢村さんがいると安心です。絶対敵にしたくありません。沢村さんの強さは別格です。闇バイトの元締めを殲滅する作戦だって沢村さんのアドバイスがあったから上手くいったんです。ミントさんの戦闘指揮や暗殺の指示も凄く的確になりました。沢村さんとミントさんがいればこのチームは無敵です」
樹里亜が言った。
「ミントちゃんの戦闘指揮の能力が上がったのは嬉しいよ。作戦の幅が広がるよ。それに樹里亜ちゃんの狙撃技術や瑠美緯の潜入工作の技術もチームにとって重要だよ。きっとこのチーム、前より凄く強くなってると思うよ」
米子が嬉しそうに言った。
「この前の戦闘チーム1軍との演習も完勝だったしな。皆の成長の証だ。俺達暗殺チームを見下していた戦闘チームの幹部が頭を下げて来たんだ。これからも演習をさせてくれってな。お互いのノウハウを吸収しようって言うんだ。完敗が余程ショクだったんだろうな。それより折角の焼肉だ。焼いて食べよう」
木崎が言った。
「ここのお肉大好きです!」
樹里亜がトングで極上タン塩肉を取ると網の上に並べた。
「だよねー、食べ放題とは大違いの美味しさだよね、冗談じゃないよ」
ミントも極上タン塩を網に並べた。肉がグレーとピンクの混ざった食べごろの色に焼け始めた。みんなが箸を伸ばす。
「ここの肉、本当に美味いなあ」
木崎が言った。
「やっぱ最初はタン塩からだね。ここのタン塩は厚くて柔らかいよね~」
ミントが言った。
「口の中が喜んでますよ。厚いのにジューシーで歯応えが最高です! ネギとニンニクスライスとの相性も抜群です!」
樹里亜はタン塩を口に運び、満面の笑みだった。
「ホントっすね。食べ放題のタン塩は薄くてペラペラなんですよ。この店のタンは別次元です」
瑠美緯も笑顔だ。
「お肉もだけど、みんなで食べるから美味しいんだよ。幸せな気分になれるよ」
米子が言った。
「権藤さんの別荘で食べた松坂牛の鉄板焼きとすき焼きも最高でしたね。今度すき焼きの美味しいお店にも行きましょうよ!」
樹里亜が言った。
「私、すき焼きは苦手なんだよね。あの時もムリだったよ。なんでか分からないけど、食べられないんだよ」
「へえー、意外だね。米子はサバイバル訓練でヘビやカエルも食べたんでしょ?」
「うん。ネズミやスズメも食べたよ。犬も食べた。でもすき焼きはダメなんだよね。食べようとすると。体が震えるんだよ」
「不思議ですね。訓練で犬を食べたんすか?」
樹里亜が訊いた。
「北海道の訓練所のサバイバル訓練は厳しいんだよ。S級訓練は自衛隊のレンジャーの人達も参加するの。一番きついのは、自分が可愛がってた仔犬を食べる訓練だよ」
「えっ? 可愛がって仔犬って、そんなの無理だよ! それ訓練なの?!」
ミントが叫ぶように言った。
「何日も飲まず食わずの山中訓練の途中で、各自が可愛がって懐いてた仔犬を教官が連れてきて、殺して食べろって突然言われるんだよ。まあ、命令だから仕方ないけどね。泣きながら食べてる人や、拒否して訓練を失格になった人もいたよ」
「まだそんな訓練をやってるのか。昔は自衛隊の上級レンジャーの訓練でもやってたが、禁止になったはずだ。強靭なメンタルを作って殺戮マシンになるには効果はあるんだろうけどな。メンタル訓練は内閣情報統括室の方が自衛隊より厳しいのかもしれないな」
木崎が言った。
「そんなのおかしいよ! 私はムリだよ。『チョコ』を殺して食べるなんて出来ないよ。そんな命令出した上官を刺し殺すよ。米子は出来たの?」
「うん。犬の肉も牛の肉も同じ肉だよ。懐いてたから可哀想だとは思ったけど、所詮は動物だし、命令だからね」
「米子って怖い所があよるね。まあアサシンには向いてるのかもね」
「私もムリです。ハムスターとかインコを飼ってましたけど、ペットを食べるなんて無理です」
瑠美緯も拒否反応を示した。
「美味しかったら食べますけど、犬って美味しいんですか?」
樹里亜が言った。
「美味しくないよ。でも極限の空腹状態なら食べられるよ。エネルギー源として体が求めるんだよ」
「おい、その話は止めよう。折角のご馳走が不味くなるだろ」
木崎が顔を顰めて言った。
「どんな話をしても美味しい物は美味しいですよ。このトロカルビなんて美味しすぎです」
樹里亜が焼けたトロカルビを2切れ口に運んだ。
「樹里亜ちゃんって意外と肝が据わってるんだよね」
ミントが言った。その後はみんな焼肉を堪能して米子の復帰祝いは盛り上がった。
「そういえばパトちゃんが来てないね」
ミントが言った。
「ああ、来る予定だったんだが、CIAから連絡があって、急用が出来たらしい」
「へえ、CIAか。何だろうね?」
米子は通常勤務に戻った。平日の放課後と土曜日は事務所に顔を出すのだ。
「はーい、初めまして。私はジョージ山本です。ユーが米子さんですね? 噂は聞いてます。本当に美人ですね。ちなみに私は28歳で独身で~す」
ジョージ山本が米子に挨拶をした。米子はキョトンとしている。
「米子、新しく配属された情報担当の山ちゃんだよ。アメリカ生まれのハーフなんだってさ」
ミントがフォローした。
「失礼しました。1級工作員の沢村米子、18歳です。よろしくお願いします」
「沢村さんは彼氏とかいるんですか? 好きな男性のタイプは? 米子ちゃんって呼んでいいかな~」
ジョージ山本が訊いた。
「好きなタイプはよく分かりませんが、あなたみたいなタイプは嫌いです。今度米子って呼んだらハイキックを叩き込みますので気を付けて下さい」
「オーウ、それはジョークかな? それにしても制服が似合ってるね。アイドルみたいだ。ファンになっちゃうよ、米子ちゃ~ん、あはははは」
『パシッ』
「うげっ! 痛て!」
米子の右ローキックが山本の太腿に軽くヒットした。山本がしゃがみ込んだ。
「カワイイ顔してそりゃないよ。痛てえ~」
「次は本気のハイキックを入れますよ」
「山ちゃん、米子を怒らせたら命が無いよ」
ミントが言った。
「えーー? だってミントちゃんは米子って呼んでるじゃん」
米子がファイティングポーズになった。
「ごめんなさい、沢村さん、もう言いません」
ジョージ山本が頭を下げる。
「はははは、米子最高だぜ。ジョージ、一緒に命を懸けた戦いを経験しないと、気安く米子なんて呼べないって事だよ。ニューヨーカーはパーティーで鼻からコカインでも吸って踊ってな」
パトリックが言った。
「なんかパトちゃんと山ちゃんは相性悪いね」
「お前達、楽しんでるところ悪いが会議室に集まってくれ。ジョージ、電話番を頼んだぞ」
木崎が言った。米子達は会議室入った。会議室に入ると机の上に段ボール箱が置いてあった。
「お前達に支給品がある。ニコニコ企画では装備を統一したいと思っている。スマートフォンも今はそれぞれの私物を使っているが、業務用の物を支給する。支給品は各自にスマートフォンと、腕時計、衛星携帯電話をチームに2つだ。アウトドア用のGPS受信機も2台購入したから必要な時は貸し出す」
「へーえ、豪勢だね」
「お前達の活躍によってニコニコ企画への予算が増えたんだ」
「スマートフォンを貸与するってことは居場所も管理されるって事ですね?」
米子が言った。
「悪いがそうさせてもらう」
「普段どこにいるかバレちゃうって事ですか?」
「そうだ。樹里亜はバレたら困るような所に行ってるのか?」
「ジョニーズのコンサートとかです。恥ずかしいです」
「レズビアンコンカフェとかに行ってるのもバレちゃうってことっすよね?」
瑠美緯が言った。
「ああ、履歴もサーバーに残るからな。バレるも何も今の質問はカミングアウトだろ」
瑠美緯が手で口を押さえて下を向く。
「そんなのおかしいよ! プライベートは非公開にしたいよ! これでも華の女子高生なんだよ!」
ミントが抗議する。
「お前達を守る為だ!」
木崎が大きな声で言った。
「木崎さん、近々何かあるんですか? 大きな作戦ですか?」
米子が言った。
「米子は相変わらず勘がいいな。新しい指令だ。ある人物の護衛任務をお前達に頼みたい。9月21日、来週の土曜日だ」
「護衛任務? 需要人物ですか?」
米子が訊いた。
「外務省の工作員だ。まあ工作員といっても戦闘訓練は殆ど受けてないだろう。潜入と情報を盗み出すのが専門だ。その工作員のコードネームは『スパロー8(エイト)』だ。スパロー8は既に敵にマークされている。来週、秘密裏に中国から秋田港に入る貨物船で帰国するんだが、東京まで護送して欲しいんだ」
「敵って『夜桜』?」
ミントが訊いた。
「いや、むしろ今回夜桜は味方だ。夜桜も護衛を行う。合同で護衛任務を実施するんだ」
「夜桜と組むんですか? 合同ってかなり厳重ですね」
米子が訊いた。
「夜桜が直接護衛する。お前達はスペアだ。何かあった時にはお前達がスパロー8を護衛するんだ」
「スペアって、2重に護衛するんですか?」
「そうだ」
「敵はやっかいな相手なんですね?」
「ああ。どう出てくるか予想が出来ない。だからスペアが必要なんだ」
「そんなのカウンターで殲滅すればいいじゃないですか」
「迂闊な事はできない。国際問題に発達しかねない」
「ミスター木崎、その敵は『レッドフォックス』か?」
パトリックが訊いた。
「そうだ。前にも話した通り、中国、ロシア、北朝鮮の諜報機関の連合体だ。下手に刺激すれば最悪、霞が関に弾道ミサイルが飛んで来る可能性がある」
「この前CIAに呼ばれたのは『レッドフォックス』についてのレクチャーだった。そいつら、何か大きな事を企んでるらしい」
パトリックが言った。
「なぜ外務省の工作員が狙われてるんですか?」
「ロシアと中国から重要なデータを持ち出したからだ。詳しい事は分からんが、公表されれば中国とロシアが国際社会で完全に孤立しかねない情報らしい」
「東京への移送ルートや移送計画の詳細はあります?」
米子が訊いた。
「ルート情報については手元にある。他の情報は不明だ」
「ルート情報だけでも教えて下さい。作戦を検討したいんです」
「ルートはこれだ。車を使った移送になる。我々も車を使う。会社のハイエースかハリアーを使ってくれ」
木崎が言いながら机の上に地図を広げた。
「秋田自動車道を使って、北上経由で東北自動車道に乗り換えるパターンだな。何事もなければ8時間のドライブだ」
木崎が言った。
「このミッションには全員投入できるんですか?」
米子が訊いた。
「人選は米子に任せる。ついでに作戦も立ててくれ。復帰第1戦だ」
木崎が言った。
「わかりました。来週の土曜目までは9日ありますので3日間下さい。私達の護衛が必要となった場合の作戦を立てます」
「時間が無いので必要な物があったら今言ってくれ」
「メンバーは私、ミントちゃん、パトさん、樹里亜ちゃん、瑠美緯ちゃんの全員です。木崎さんも参加して下さい。小型のアサルトライフルを人数分用意して下さい。出来るだけ小さい方がいいです。弾は5.56mm弾でお願いします。狙撃用のライフルも1丁用意して下さい。倉庫にあるマイクロウジーも借ります。それとGPS受信機を2台借ります。早速衛星携帯電話と支給のスマートフォンを使わせてもらいます。車は木崎さんがハイエース、パトさんがハリアーを運転して下さい。二手に分かれます。今決めたのはここまでです」
「米子、服装はどうするの? 制服じゃないよね?」
ミントが言った。
「動きやすい服装がいいね。スカートはNGだよ。最悪徒歩で山に入るかもしれないから、登山用の服と靴はアウトドアショップで買って持って行くよ。今回は人目があるから戦闘服はムリだね」
「山に入る可能性もあるんですか?」
樹里亜が訊いた。
「ケースバイケースだよ。どういう状況なるか想定できなから可能な限りのパターンを考えておかないとね。敵の特徴や過去の事例が分かればいいんだけどね」
「残念だが『レッドフォックス』に関する詳しい情報は不明だ。夜桜も今回が初めての戦いだろう。ただ、前にも話した通り、戦闘能力は高い。ロシアのスペツナズや中国と北の特殊部隊出身の者がいるようだ。毒薬、毒ガス、細菌兵器なんかも使うみたいだな」
久しぶりのJKアサシン達(米子、ミント、樹里亜、瑠美緯)はいかがでしたか? よろよろしければ感想をいただけると、とても嬉しいです! 次回はいよいよ、熱く激しい戦闘シーンが待っています――お楽しみに!