S級の実力 そして未来へ
一応ここでお話は終了です。
Sideヴィヴィアン
「ハンベルトーーーー!」
私は叫び声をあげるが掻き消されるくらいの轟音が目の前で鳴り響く。あんなの喰らったら生きてるわけない……。せっかく、せっかくハンベルトに会えると思ったのに……。最後の姿が彼の後ろ姿なんて……。
火球の爆風がものすごく、立っていられるのもやっとという状態。周りに人がいるから吹き飛ばされたりすることはなかったけど、周りの人も吹き飛ばされないように必死だ。
やがて爆風が強風に変わり、普通の風くらいに落ち着き始めると、目の前の土煙もだんだんと晴れていった。目の前の景色がはっきりと見えるようになるとそこには全くの無傷のハンベルトが立っていた。
「え?うそ!?ハンベルトが生きてる!」
「すごい!ハンベルト様は全くの無傷だぞ!なんてお人だ!」
周りの人々も驚きを隠せないでいる。隣のナターシャは開いた口が塞がらないくらいに唖然としている。
竜人もハンベルトが無傷だったことに驚いているみたい。恐怖を感じたのか少しずつだけど後ずさりしている。
そうこうしているとハンベルトが腰に差していた剣を鞘から抜き出した。一瞬だった。竜人が真っ二つに斬り伏せられた。何が起こったのか分からないくらいの速さだったんだと思う。勝負は一瞬で終わった。
「うぉぉぉぉぉ!勝ったぁぁ!ハンベルト様ばんざーい!」
「助かったぁぁぁ!もう死ぬかと思ってたぁ!よがっだようぅ!」
歓声を上げる人もいれば泣き崩れる人もいる。皆命が助かったことに歓喜している。私はもう感情を抑えることができずハンベルトの元へと走って行った。
「ハンベルト!」
私の声に反応したハンベルトが振り返った。私は彼の胸に思い切り飛び込んだ。
※
いやぁ、竜人が馬鹿でよかった。基本人外は俺より頭が悪いから相手の力を測ることができない。火球が街に放たれていたらどうしようもなかったけど、俺に当てる選択肢を用意してくれて助かった。
俺からすればあんな火球なんとでもない。ちょっと熱いなぁぐらいだ。それにしてもやっぱり一撃で終わっちまったな。本当に俺以外の奴らはもうちょっと頑張ってくれよ。まあいいや、早く倒れてる奴らを介抱してやらないとな。
「ハンベルト!」
懐かしい声がした。声がする方へ振り返るとヴィヴィアンがいた。すぐさまヴィヴィアンは俺の胸に飛び込んできた。一体どういうことだ?
「ハンベルト!私の愛しいハンベルト!もう、もう二度と会えないと思ってた!あんなひどいことを私はしてしまった!ごめんなさい!もう絶対にあなたを離さない!」
ヴィヴィアン的には思いきり抱き締めているんだろうけど、あまりにも力がなさすぎてぱっとヴィヴィアンを引き離した。
「ヴィヴィアン、何かよく分かんねえけど先にこの倒れてる奴らをなんとかしてもらっていいか?今の間に手当すれば死にはしない。街の人にも手伝ってもらって運んでくれないか?」
「あ、うん。ごめんなさい。取り乱しちゃった。すぐに手配するわね」
こうしてビーキルド領の竜人討伐は幕を下ろした。クリス達が回復するまでホロビーの街で滞在することになった俺は英雄として街の連中に担がれて毎晩どんちゃん騒ぎに付き合わされる羽目になった。
またヴィヴィアンの侍女のナターシャに呼び出され、俺が追放されたことに関する真実を聞かされた。まさか俺が暗殺される寸前だったとは気が付かなかった。ヴィヴィアンに守られていたんだと分かり、俺の中にあった蟠りがすっと消えていった。
でも俺はヴィヴィアンとは会う気にはなれなかった。もうあいつはザマーサレルの妻だ。さすがに領主の妻に手を出すわけにいかない。それに今俺は冒険者だ。決して交わることのない道を進んでしまったんだ。あいつを恨むことなく生きていけるようになっただけで十分だ。
そういうわけでヴィヴィアンには抱きつかれてからは一度も会っていない。クリス達の治療が完了次第、俺はこの街を離れて冒険者業を再開する。
※
約1ヵ月といったところだろうか、クリス達もようやく回復してついにホロビーの街を発つこととなった。街の連中は元々俺を慕っていたのもあってものすごく残念がっていた。
「よし、それじゃあグローリアに戻るぞ!」
グローリアというのは俺達が拠点としている街の名で、そこそこ名の知れた場所だ。だから冒険者が多く住んでいて活気に溢れている。
「おいハンベルト、実は俺達のパーティーに入りたいって奴らがいるんだがそいつらも一緒に連れて行っていいか?」
クリスが突然変なことを言い始めた。パーティーに入りたい奴がいる?どういうことだ?
「実はな、この街で治療している間に俺達が世界一の強さを誇るパーティーってことと、お前がS級の最強の冒険者っていうのが広まってしまってよ。それでどうしてもパーティーに入れてほしいって懇願されたんだよ」
「僕達は4人で十分だからって断ったんだけど毎日毎日入れてくれって頼みに来るから根負けしちゃって。根性はあると思うから鍛えれば強くなると思うよ」
そうだったな。ビーキルド領は噂話はあっという間に広まるところだったな。3人がパーティーに入れてもいいって言うくらいだからまあいいだろう。
「分かった。じゃあそいつらも連れてグローリアへ戻るぞ!」
「よっしゃあ!OKだってよ!」
スレイルがそう言うと俺の目の前に現れたのはヴィヴィアンとナターシャだった。
「これからよろしくお願いします!ハンベルト!」
「おいおい、冗談はよしてくれ。お前に冒険者は務まらねえよ。それにお前は領主の妻なんだから一緒に行けるわけないだろ」
「大丈夫です!もうあの人とは離縁しましたから。あの人には本命の彼女がいるので私がいなくてもやっていけます。あとナターシャは私の親友だから彼女も私についてくるってことで2人共々よろしくお願いします!」
2人揃ってお辞儀をする。
「俺達もこの街でお前の過去のことを色々聞いたんだ。仲間だってのに黙っていやがって。黙ってた罰として彼女達を受け入れろ。それにお前とヴィヴィアンは相思相愛だろ?」
くそ、3人揃ってニヤニヤしやがって……。ちょっと腹立たしくはあるけど、嬉しさの方が上回っていた。
「分かったよ!じゃあこれからはこの6人パーティーでやっていくぞ!」
俺のこれからの冒険者業はきっといいことが待っている。そんな予感がした。
お読みいただきありがとうございました。
次話が最終話、ザマーサレルの最期です。