なんで俺が故郷を救わないといけないんだ?
特にこれと言った特徴のない作品ができました。
できた以上は投稿しようと思ったので投稿しました。
設定はざるです。ご容赦ください。
全6話で大体3,000字前後だと思います。
「そういうわけだから、私はザマーサレルと一緒になるわ。もう二度と会うことはないでしょう。さようなら」
そうして俺はビーキルド家から追放された。あの時の屈辱をこうやって時々思い出すことがある。
「おい、大丈夫かハンベルト。顔色が悪いぞ。S級のお前もビビることがあるんだな」
ヘラヘラと笑いながら俺を茶化してくるのは俺のパーティーの一員であるクリス。俺の名はハンベルト。今は冒険者として活動をしている。過去のことを忘れたくて必死になって活動していたらいつのまにか最高クラスのS級にまで昇り詰めていた。
S級の冒険者は俺を含めて3名。クリスはA級としてそろそろ経つが、まだ俺と肩を並べられるところまで来てない。クリスの他にもあと2名メンバーがいてそいつらとパーティーを組んでいる。パーティーの強さで言えば俺達のパーティーが世界一だと言われている。
「うるせえ。何をビビることがあるんだよ。S級の俺に怖いものなんてないわ」
今向かっている場所は俺の生まれ故郷であるビーキルド領。本当は俺がこの領地の領主となる予定だった。それがあんな形で裏切られ、追放されることになるなんて思ってもみなかった。
クリスが指摘したように俺に何か異変を感じ取ったのは、この領地にまさか再び足を踏み入れることになるとは思ってもなく、同時になぜ追放された俺がわざわざ領地のピンチを救わなきゃならないんだって思いがあるからだろう。
ビーキルド領に竜人が現れたという知らせが入ったのは3日前のことだった。この世界には人外の存在が多数いる。魔人や獣人などそれはもう数えればキリがない。人間にはない特殊な能力を持っていて、突然変異となってこの世界に出現する。そういう人外を倒す役目を担っているのが俺達のような冒険者だ。
そんな人外の中でも一番厄介なのが竜人。
竜人は竜という文字がついていることからも分かるように最高峰の強さをもつ竜の力を備えた最強の人外だ。過去に一度戦ったことがあるが、その戦いで地に膝をつけずに立てたのは俺だけだった。俺からすればなんともない相手だったんだが、俺以外の奴らからすれば「あれは天災だ」と口を揃えていたことからかなりやばい存在ということなんだろう。
「しかしあれは何年前だっけ?ハンベルト以外全員死亡か半殺し状態になったのは。あれがまた現れたってだけでも僕は怖くて仕方ないよ」
クリスの隣で過去の竜人戦を思い出して震えているのはモリソン。A級になったばかりだがその実力は折り紙付きだ。
「あれは4年前だ。あの時から俺達も成長してるんだ。ハンベルトに頼ってばかりじゃ情けないからな!」
モリソンとは違い、拳と拳を叩きつけ、気合いが入っているのはスレイル。こいつはクリスよりかは劣るがA級としては十分に活躍している。
4年前の竜人との戦いでクリス、モリソン、スレイルは半殺し状態にされた。俺が最初に行くって言ったのに言うことを聞かずに竜人に挑んだのが悪かった。3人に続いて他のパーティーの奴らも次々にやられていくことになり、結局俺が最後に一撃で仕留めたんだ。
「俺がいれば問題ないけど、また俺より先に挑むつもりなのか?」
「当たり前だ!この4年でどれくらい成長できたか確かめるためにもいい機会だ!」
「そうだな。今回竜人を倒してハンベルトと同じS級として認められたいってのはあるな」
「僕は正直乗り気じゃないよ。でもスレイルとクリスが出るってなったら僕がいないと死んじゃうからね。行くしかないよ」
俺は剣士、クリスは弓士、モリソンは術士、スレイルは拳士という役割で、術士であるモリソンは攻撃、回復、支援の全ての術が使える天才だ。こいつがいないとクリスとスレイルは十分に力を発揮できない。まあだからA級止まりなんだけどな。
「どうせ止めても行くだろうから先に行ってもいいけど、とりあえず死ぬのだけは勘弁してくれよ。それでモリソン、今ビーキルド領はどういう状況なんだ?」
モリソンが瞑想を始めて千里眼の術を発動させる。
「あー、これは相当やばいね。大きな街が2つ、小さな町が4つ、それと7つの村がすでに滅びている」
おいおい、それはもうほぼ全滅じゃねえか。
「あとは一番大きい街が残ってるだけだね。竜人は今そこに向かっているみたい」
一番大きい街、それはビーキルド領主の住むホロビーの街だ。あそこには俺の弟で現領主のザマーサレル・ビーキルドがいる。そして俺を裏切った女、ヴィヴィアン・ビーキルドもいる。
正直このまま竜人に滅ぼされた方がいいんじゃないかって思ってる。ホロビーの街以外壊滅状態だし、どう考えたってこれから立て直すのは大変だ。それに俺を追放したのはその2人だ。
ざまぁみろってわけではないが、神様の罰が当たったんだって感じだ。いや、ざまぁみろだな。そのままどうぞ滅んでくれって思いしかない。
「それで俺達はその街に竜人よりも先に着くことができそうなのか?」
クリスがモリソンに尋ねる。モリソンは千里眼の術を解除し、先見の術を発動させる。この先見の術は少し先の未来を見ることができるモリソン級の天才にしか使えない術だ。モリソンからするとかなりの力を消耗してしまうが、これのおかげで俺達は何度もピンチに陥った人達を救い出すことができた。
「うん、今のまま進めば竜人よりも40分くらい前には街に着くことができそうだよ。他のパーティーも十分間に合う感じだね」
ちっ、間に合わないって未来だったらそれこそ滅ぼされてからだから気分よく竜人を倒せるっていうのに。まあでも罪のない人達が殺されるのはよくないからな。それに街の人達は俺のことを慕ってくれていた。そうだ!あいつらはどうなってもいいが街の人達は守らないといけない!
「とりあえずモリソンは力の回復に専念してくれ。クリス、御者に少しでも早く着くようにスピードを上げるよう頼んでくれ」
こうして俺は10数年ぶりとなる最悪な形での帰郷となった。
※
ビーキルド領に入ると田畑は荒れ果て、森は燃え、通り過ぎる町や村の家などの建物は原型を留めているものはひとつもなかった。
「やっぱ竜人は天災だな。さすがにこれは酷すぎる」
スレイルが目の前の惨状に手を合わせて祈りを捧げている。こいつは結構信心深く、弱者に心から寄り添う奴だから俺とは違って本当にいい奴なんだ。
それに比べて俺は本当に醜い存在だ。今も過去に捨てたはずだった復讐心がメラメラと俺の中で燃えている。復讐なんてしたところで何もいいことはない。だからそんなことを忘れるために必死になって冒険者として活動したというのに。
こうやって故郷に戻り、ホロビーの街に近づくにつれ、あの時のあの屈辱が徐々に思い出されていく。そして竜人との戦いに乗じてあいつらを殺してやろうかとさえ思い始めている。
「おいハンベルト!一体どうしたんだ!?いつものお前じゃないぞ。なんで涙を流しながら街の一番大きい屋敷を睨んでるんだ?」
気が付けば俺達を乗せた馬車はホロビーの街の入口まで来ていた。そして俺は実家の屋敷を睨みながら涙を流していた。涙を流しているなんて気が付かないくらいに俺の感情は爆発寸前だった。
しかし同時に俺はあることに気が付いた。いや、気づいてしまった。この憎しみの裏側にあるものを。もう、無理に抑え込まなくていいんじゃないか?もう一人の俺が俺にそう囁いたような気がした。
そうだな、俺の心の奥底に封じ込めた扉を開けてしまおう。ヴィヴィアンへの恋心という扉を。
お読みいただきありがとうございました。
次話はハンベルト視点の回想となります。