表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
366日の愛の花束  作者: 辛已奈美(かのうみなみ)
1月
30/60

1月29日 キンカン

冬の日の午後、古びた喫茶店の窓辺に、キンカンの、甘みと苦みが混じったような、さわやかな香りが漂っていた。陽だまりの中で、茜色のセーターを着た栞は、寒さで震える手で温かい紅茶を啜る。向かいに座る虎太郎は、何も言わずに、もくもくと、キンカンのジャムを塗ったトーストを食べていた。


二人は、高校時代の同級生だった。卒業後、二人とも大学は、実家から遠いところを選んだので、なかなか時間が合わず、疎遠になっていたが、就職先は二人とも地元を選んでいた。そのことを互いに知らず、買い物に来ていたタイミングで、たまたま再会したのだ。


栞は、虎太郎への淡い恋心をずっと胸に秘めていた。高校を卒業するまでの間に、告白していれば、今でも定期的に会うことができていたのではないか、もしかしたら恋人になれていたのではないかと、後悔の念が胸を締め付ける。


虎太郎は、再開した栞の、高校卒業後との変化に気づいていた。少し大人びて、色っぽくなった彼女に、遠い世界の人になってしまったような戸惑いと、高校時代を思い出すような懐かしい感情が混ざり合う。彼は、栞の目元を見つめ、静かに言った。「栞はキンカン、好きだったよね?」


栞は、思わず目を大きく見開いた。覚えていると思っていなかったのだ。キンカンのジャムが塗られたトーストを差し出す虎太郎の手が、温かかった。高校時代、二人でよく食べたキンカンのジャムのトースト。その時に、いつも行っていたように、虎太郎はトーストを差し出していたのだ。トーストも、互いに分け合うことも、栞にとって、虎太郎との大切な思い出だった。


「うん。大好きだった。」と、かすれた声で答える栞。言葉にならない感情が、胸に込み上げてくる。虎太郎は、優しく、丁寧に栞の手を取った。彼の温もりは、冬の冷たい空気を忘れさせるほど、心地よかった。


「あの頃、僕らが高校生だった時、言えなかったことがあるんだ。」と、虎太郎は静かに話し始めた。それは、栞が聞いたことがない、告白だった。キンカンの甘酸っぱい香りが、二人の距離を縮めていく。静かに落ちる陽の光の中で、二人の未来は、キンカンのように、ゆっくりと、しかし確実に熟していくのだった。











1月29日

誕生花:キンカン

花言葉:思い出

    感謝

科・属:ミカン科・キンカン属

和名・別名:金柑






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ