1月29日 キンカン
冬の日の午後、古びた喫茶店の窓辺に、キンカンの、甘みと苦みが混じったような、さわやかな香りが漂っていた。陽だまりの中で、茜色のセーターを着た栞は、寒さで震える手で温かい紅茶を啜る。向かいに座る虎太郎は、何も言わずに、もくもくと、キンカンのジャムを塗ったトーストを食べていた。
二人は、高校時代の同級生だった。卒業後、二人とも大学は、実家から遠いところを選んだので、なかなか時間が合わず、疎遠になっていたが、就職先は二人とも地元を選んでいた。そのことを互いに知らず、買い物に来ていたタイミングで、たまたま再会したのだ。
栞は、虎太郎への淡い恋心をずっと胸に秘めていた。高校を卒業するまでの間に、告白していれば、今でも定期的に会うことができていたのではないか、もしかしたら恋人になれていたのではないかと、後悔の念が胸を締め付ける。
虎太郎は、再開した栞の、高校卒業後との変化に気づいていた。少し大人びて、色っぽくなった彼女に、遠い世界の人になってしまったような戸惑いと、高校時代を思い出すような懐かしい感情が混ざり合う。彼は、栞の目元を見つめ、静かに言った。「栞はキンカン、好きだったよね?」
栞は、思わず目を大きく見開いた。覚えていると思っていなかったのだ。キンカンのジャムが塗られたトーストを差し出す虎太郎の手が、温かかった。高校時代、二人でよく食べたキンカンのジャムのトースト。その時に、いつも行っていたように、虎太郎はトーストを差し出していたのだ。トーストも、互いに分け合うことも、栞にとって、虎太郎との大切な思い出だった。
「うん。大好きだった。」と、かすれた声で答える栞。言葉にならない感情が、胸に込み上げてくる。虎太郎は、優しく、丁寧に栞の手を取った。彼の温もりは、冬の冷たい空気を忘れさせるほど、心地よかった。
「あの頃、僕らが高校生だった時、言えなかったことがあるんだ。」と、虎太郎は静かに話し始めた。それは、栞が聞いたことがない、告白だった。キンカンの甘酸っぱい香りが、二人の距離を縮めていく。静かに落ちる陽の光の中で、二人の未来は、キンカンのように、ゆっくりと、しかし確実に熟していくのだった。
1月29日
誕生花:キンカン
花言葉:思い出
感謝
科・属:ミカン科・キンカン属
和名・別名:金柑




