別れの浄化魔法
コーラルビーチの街の宿にて。
明日、ロードとマオは、カバリア島を出発する。
仲間たちが眠る深夜、2人は、宿の窓から海を眺めていた。
マ「…とうとう、カバリア島ともお別れだね…。」
ロ「…そうですね…。」
2人は、カバリア島での旅を、静かに振り返る。
マ「いろいろなことがあったけど、ロードはカバリア島の旅は、改めてどうだった?」
ロ「本当に、いろいろありましたね。僕は、カバリア島での旅はとても楽しかったですよ。マオが一緒にいてくれたおかげです。」
マオの問い掛けに、ロードは微笑みを見せて答える。
マ「えへへ…。オレも、ロードと一緒に、こんなに壮大な旅が出来て楽しかったよ!ロード、大好き!」
マオはロードの肩に乗り、彼に頬擦りをした。
ロ「…ありがとうございます。僕も大好きですよ、マオ。」
マ「やったぁ♪」
優しく微笑むロードの返答を聞き、マオは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。
ロ「…でも、大きな心残りが出来てしまいました。」
マ「…うん。ディムアのことだよね…。」
笑顔から一変、2人は落ち込んだ表情を見せる。
ロ「はい。今回の旅で、彼女を救えなかったことが本当に悔やまれます。」
マ「でも、また必ずカバリア島に戻って来れるときが来るから…。それまでに、ディムアを助ける方法を見つけて来よう!」
ロ「そうですね…。」
マオが明るく声を掛けるが、ロードは悲しそうに視線を落としている。
マ「…そのときは、またディムアと、ルクとフレイシーと再会出来るから…。」
ロ「…はい。」
マオが心配そうに顔を覗き込むと、ロードは今にも泣きそうな表情をしていた。
マ「…わかってるよ。ロード、ディムアと離れ離れになるのがツラいんだよね…。」
ロ「…いえ、そんなことないですよ。」
マオのその問い掛けには、ロードは小さく笑みを見せて答える。
マ「そう?…でも、この先ツラくなっちゃったときは、オレで良ければいつでも話聞くからね!」
ロ「はい。ありがとうございます。」
ロードの微笑みを見て、マオは安心した様子だった。
ロ「では、そろそろ寝ましょうか。」
マ「そうだね!おやすみ!」
ロ「おやすみなさい。」
同じ布団に入った2人は、そう交わして目を閉じた。
ロードとマオが、カバリア島を去るときが、とうとう来てしまった。
停泊する船の前で、2人は、仲間たちに別れを告げる。
ロ「…では、行きます。ルク、フレイシー。短い間でしたが、ありがとうございました。」
穏やかな笑顔で、ロードは2人に声を掛ける。
ル「…本当に、帰っちゃうんだな…。」
切なそうに、ルクは呟く。
ロ「はい。出来れば、ずっとここにいたかったのですが…。」
マ「うん⋯。上からの命令だからね。帰って、データをまとめて、もっとカバリア島のこと研究しなきゃ。」
ロードとマオは、続けて寂しそうな様子でそう話す。
フ「…ロードとマオ、本当にありがとう!2人に出会えたこと、絶対に忘れないわ。」
フレイシーも微笑んで見せるが、その瞳は潤んでいた。
ロ「僕もフレイシーとルクのことは一生忘れません。一緒にカバリア島を旅した、かけがえのない仲間ですから。」
ロードも微笑み、そう返した。
ル「きっと、また会えるよな?」
ロ「はい、また再研究のときが来たら戻ってくると思います。そのときは、また会いましょう。」
フ「うん!絶対に会いに来てね!」
ル「いつでも待ってるからな。」
マ「再会出来るときが楽しみだね!」
4人は、切ない笑顔を見合わせる。
ロ「…魔法の書の返却を、お願いしてしまってすみません。」
ル「あぁ、そんなの全然気にすんなって!」
申し訳ないようにロードが言うと、ルクは首を横に振る。
フ「私とルクが、責任を持って祭壇に返してくるから、安心してね!」
そう言ったフレイシーは、魔法の書を手に持っている。
ロ「はい。ありがとうございます。」
マ「2人とも、よろしくね!」
ル「おう、任せろ!」
ロードとマオの言葉に、ルクは胸を張って答えた。
4人は、再び笑顔を見せ合っていた。
ロ「…少し離れますね。」
ロードは言い、3人の元を離れる。
そして、彼らから少し離れた場所にいる、海沿いで座り込んでうつむくディムアに歩み寄り、彼女の隣に静かに腰掛けた。
デ「…。」
ロードと視線を合わせたディムアは、酷く寂しそうな表情をしていた。
ロ「…ディムア、今まで本当にありがとうございました。」
デ「…こっちこそ…色々世話になった。ありがとう…。」
ロードが声を掛けると、今にも泣きそうな声で、ディムアは静かに返す。
ロ「…。君に出会えて本当に幸せでした。これからも、辛いことや苦しいことがあるかもしれませんが…強く生きてくださいね。」
デ「…っ。」
ロードの優しい言葉を聞き、ディムアは大粒の涙を流す。
デ「…いつかは離れなければならないときが来るってわかっていた…。覚悟は出来ていたはずなのに…。なんでこんなに辛いんだろうな…?」
ロ「…僕も、君と離れ離れになるのはとても寂しいです。でも…いつかきっと再会出来ますよ。」
声を抑えて泣き、震えるディムアの身体を、ロードは優しく抱きしめる。
デ「…うん…。会えなくなっても…私は…。これからもずっと、ロードのことが…大好きだ…。」
ずっと抑えていた感情が溢れ出したディムアは、自らの気持ちをロードに伝えた。
ロ「…ありがとうございます…。僕もディムアのことが、大好きです。」
デ「…っ!!?」
ディムアは思わずロードと視線を合わせる。
彼はとても優しく微笑んでいた。
デ「ほ…本当に…?」
ロ「はい…本当ですよ。」
ディムアの言葉に、ロードはしっかり頷いた。
デ「…私と同じ気持ちだったなんて…。すごく、嬉しい…。」
涙を流しながら、ディムアは微笑んだ。
ロ「…そうですね。こんなに幸せな気持ちにさせてくれた君に、僕からプレゼントがあります。」
デ「えっ…プレゼント…?」
その言葉に、ディムアは目を見開く。
ロ「目を閉じてください。」
デ「…うん。」
戸惑いながらも、ロードに言われたまま、ディムアは目を閉じる。
ロ「…〝ピュリフィケーション〟。」
ディムアの肩に手を触れたロードは、小さくそう唱えた。
その瞬間、ディムアの身体の中が熱を持ったように熱くなった。
デ「―っ!!!」
驚いたディムアは、目を開き、ロードを見つめる。
そのときには、もう身体の熱は冷めていた。
デ「…な、何だったんだ…今の…?」
何が起きたのかさっぱりわからず、ディムアはロードに尋ねる。
そのとき、仲間たちと力を合わせて懸命に入手した、紫色、緑色、水色、黄色、赤色の水晶たちが、ロードの手の中で輝きを放っているのを目の当たりにした。
ロ「…これで…お別れです。」
デ「…っ!!」
にこやかなロードの発言に、ディムアはとてつもなく嫌な予感がよぎり、頭の中が真っ白になった。
マ「…ね、ねぇ、ロード!今のなんだったの!?」
ル「今、ロードとディムア、すごい光ってたけど…。」
2人の元へ、マオ、ルク、フレイシーが慌てて駆け付けた。
フ「も、もしかして…浄化魔法を…!?」
フレイシーも、ロードが手に持っている水晶たちを見て、何が起きたかを察したようだった。
ロ「…そうです。ディムアに唱えました。」
フレイシーの問い掛けに、ロードは静かに頷いた。
マ「…ちょっと待って…浄化魔法を唱えたら…掛けた本人は死んじゃうんじゃ…!?」
青ざめたマオは、恐る恐るそう口にする。
デ「…ロードが…死ぬ…?」
ロ「…はい。僕は死にます。」
震える声でディムアに尋ねられ、ロードは静かに答える。
ル「う、嘘だろ…!?ロードが死ぬなんて…!!」
フ「…っ。」
絶句するルクに、フレイシーは恐怖で思わず抱きつき、顔を隠した。
デ「…どうしてっ…!?ロードが死んでしまうくらいなら、私は…メア族のままでよかったのに!!私のせいで…!!!」
ディムアはロードに抱きつき、泣きじゃくる。
マ「いやだ…!!ロード…俺を置いて逝かないでっ…!!!」
マオもロードの身体にしがみついてわんわん泣いた。
ロ「…いいんです。今まで何度も考えてましたが、行き着く答えは毎回同じでした。ディムアを完全に救う為なら、自分の命くらい犠牲になっても構わない。それが、僕の答えですよ。」
デ「…でも…!ロードがいない世界なんて…私は生きる意味がない…!生きていけないんだ…!!」
愛する人を失ってしまうという、突然悲しみの淵に立たされ、ディムアの涙は止まらなかった。
ロ「…あ、すみません。主語が抜けていました。正しくは『魔術師としての僕は死ぬ』でした。」
「…??」
ロードのその言葉に、全員の思考が混乱する。
デ「…魔術師としてのロードが死ぬ…?」
ロ「そうです。みんなに言い忘れていましたが…。『浄化魔法を特定の方法で唱えると、代償として、唱えた者は、自らの持つ全ての魔力を失ってしまう。すなわち、魔術師としての死を意味する。』そう魔法の書に記載されていました。」
その説明を聞き、仲間たちは唖然とした。
マ「…えっ!?魔力を失う…っ!?で、でも、そんなこと、魔法の書には書いてなかったよ…!?」
まだ涙が完全に止まっていないマオは、声を上げ、ロードを凝視する。
ロ「…実は、今日の深夜に、その隠された言葉を見つけたんです。」
深夜に起こったことを、ロードは仲間たちに話し始めた。
―それは、深夜にマオと布団に入った、少し後のことだった。
マ「…すぅ…すぅ…。」
ロ「…。」
マオの寝息が聞こえ始めた頃、ロードは起き上がり、 そっと布団から出た。
スタンドライトの明かりを点け、テーブルの上に置いてある、魔法の書を手に取り、ページを開く。
開いたのは、『浄化魔法を唱えた者は死ぬ』と記載されているページだった。
こんなリスクさえなければ、今すぐにでも浄化魔法をディムアに唱えて、彼女の持つ闇の魔力を消失させられるのに。
本当は、自分の命を犠牲にしても救いたいくらい、彼女は大切な存在だ。
しかし、自分がいなくなってしまったら、彼女やマオ、仲間たちにも、永遠に会えなくなってしまう。
そんな悲しさに耐えられる勇気など、持ち合わせているはずもない。
このリスクのせいで、浄化魔法が唱えられない。
ディムアを救いたくても救えない。
ロードの心の中は、悔しさと悲しさでいっぱいだった。
デ「…ロード…。」
ロ「…っ!」
そのとき、ディムアの小さな声が聞こえ、ロードは眠っている彼女にそっと歩み寄る。
デ「…行かないで…。ロード…。」
悲しそうな表情で、そう寝言を言いながら、ディムアは涙を零していた。
ロ(…僕は必ず君を救います。だから…安心してくださいね。)
心の中でロードはディムアに声を掛け、彼女の頭を優しく撫でる。
その瞬間、タイミングを見計らったように、スタンドライトの明かりが消えた。
ロ(…?)
そして、部屋が真っ暗になったとき、開かれている魔法の書のページの一部が光り、文字が浮かび上がっていることに、ロードは気が付いた。
驚いたロードは、魔法の書の前に座り、元々記載されている文章と、その光っている文字を、繋げて読み上げた。
ロ「『この方法で浄化魔法を唱えた者は…魔術師としての死を迎える』…!!?」
その瞬間、浄化魔法について、ロードは衝撃の事実を知った。
ある決められた方法で浄化魔法を唱えた者は、命を落とすことが回避でき、自らの持つ魔力を全て失うだけに留めることが出来る、ということが書かれていた。
ロ(…これなら…ディムアに唱えられます…!!)
そう考えたロードは、その方法の浄化魔法を習得する為の最後の仕上げを終わらせるべく、明かりを点け直し、魔法の書を夢中で読んでいた。
マ「文字が浮かび上がるなんて…!今まで気が付かなかった…。」
ロ「そうですね。僕も、あのとき隠れた文字を見つけられたことは、奇跡だと思いました。」
話を聞き終え、とても驚いた様子のマオに、ロードはそう返した。
マ「じゃあ、ロードが死んじゃうわけじゃないんだね…!?」
ロ「はい。魔力を失った為に魔術師じゃなくなっただけで、僕はこれからも生きていけますよ。」
微笑みを見せ、ロードは答えた。
フ「…ロードは生きられるのね!?よかった…本当によかったわ…!!」
今度は嬉し泣きをして、フレイシーは喜んだ。
ル「あぁ、よかった…。ロード、びっくりさせるなよな…!」
ルクも安心し、泣き笑いをしている。
マ「…もぉー!みんなに勘違いさせるような言い方するなよぉ!!」
デ「…よかった…ロード…!うっ…うぅっ…。」
マオとディムアも安心し、余計に涙を流した。
ロ「…なんだかとんでもない語弊がありましたね。みんなを驚かせてしまい、本当にすみません。」
苦笑いをして、ロードは頭を下げた。
フ「ううん、いいの。…それでも、ロードの魔力は全部失われてしまったのね…。」
ロ「そうですね。でも、ディムアを救うことが出来たので、魔力が消失したくらい、なんてことないですよ。」
ル「…すごい。愛の力ってやつか。」
ルクはニヤけて言う。
デ「…。ロードが、私の持つ闇の魔力を無くしてくれたんだな…。」
ロ「はい。もう誰からも命を狙われることはないので、安心してくださいね。」
やっと泣き止んだディムアに、ロードは優しく微笑み掛ける。
デ「…本当にありがとう…。でも、ロードの魔力も無くなってしまって…私のせいだ…。」
ロ「いいんですよ。君を救うことが出来たので、僕は満足です。」
デ「…えっと…。何か恩返しがしたいんだ…。何かないか…?」
戸惑いながら、ディムアは尋ねる。
ロ「…では、これからも僕とずっと一緒にいてもらっていいですか?」
デ「…!!」
ロードの真剣な言葉に、ディムアは思わず彼を見つめる。
ロ「大好きな君がずっと隣にいてくれるだけで、僕は幸せなんです。」
デ「…もちろんだ!私だって、ロードのことが…大好きなんだからな…!」
2人は笑顔を見せ合い、抱き合った。
ル「おぉぉ!ついにロードとディムアがカップルに!」
フ「おめでとう!末永くお幸せにね!」
マ「お、おめでとぉぉ!!」
ルク、フレイシー、マオは、2人を祝福した。
ロ「ディムア、これからもよろしくお願いします。」
デ「うん…。よろしく、ロード。」
幸せな気持ちで、2人はそう交わした。




