ディムアの過去
その日の夜、仲間たちが寝静まる中、ディムアは窓越しに座り、夜空を眺めていた。
ロ「…ディムア?どうしたんですか?」
ロードが静かに声を掛ける。
デ「…!ごめん…起こしてしまったか…。」
ロ「いえ。眠れないので、起きました。」
デ「眠れないのか…。私と一緒だな。」
ロ「…少し、話していても良いですか?」
デ「…うん。」
ディムアが小さく頷くと、ロードは彼女の隣に座る。
ロ「…実を言うと、今日の君の様子に異変があったことが気になって眠れないんです。」
デ「えっ…?」
ロ「何か思い詰めているような気がします。悩みがあれば、僕でよければ聞きますよ。」
デ「…。」
ロードに小さく笑い掛けられ、ディムアはうつむいた。
デ「…こんなこと言ったら、軽蔑されるかもしれないと思って、怖くて、ずっと言えなかったことがあるんだ…。」
不安と恐怖に押し潰されそうな表情で、ディムアは言う。
ロ「大丈夫ですよ。どんなことがあっても、僕は君を軽蔑するようなことはないです。安心して、話してみてください。」
デ「…うん。」
ロードのその優しい言葉で、ディムアは話す覚悟を決めた。
デ「私…人を殺しかけたことがあるんだ…。」
ロ「…。」
思いもよらないディムアの言葉に、ロードは彼女を見つめる。
ロ「…大変な辛い過去を持っているようですね。でも、どんなことがあっても、僕は君の味方ですよ。ゆっくりでいいので、話してもらえると嬉しいです。」
デ「…うん。ありがと…。」
ディムアは頷き、静かに話し始めた。 デ「5年くらい前…。私は人間に襲われたんだが、お母さんが私を庇って、攻撃を受けて…死んでしまった…。」
ディムアの頬を、涙が伝う。
デ「辛くて…悲しくて…。感情がコントロール出来なくなって…。気付いたときには、私はその人間に何度も攻撃をしていた…。そこで我に返って…怖くて仕方なくて…逃げたんだ…。」
ロ「…。そんなことがあったんですね。君はそのことをずっと悩んで1人で抱え込んでいて、とても辛かったですね。」
声を殺して泣くディムアの震えている肩を抱き寄せ、ロードは優しくさする。
デ「…所詮私はメア族…。ちょっとしたことがあれば人に危害を与えてしまう…。やっぱり私なんか消えてしまえばいいんだって、心の片隅でずっと思ってた…。」
ロ「いえ、お母さんが目の前で殺されたことは、ちょっとしたことではないです。そんな状況になれば、人間、メア族関係なく、誰だって相手が憎くて攻撃しようとしますよ。なので、自分を責めないでください。」
デ「…ありがとう…。」
ロードはしばらくディムアの背中をさすり続け、彼女の涙はようやく止まり、少し落ち着いてきた様子だった。
ロ「…もしかして、お母さんを殺し、君が殺しそうになったその相手が、イグナスですか?」
デ「…うん…。」
ロードの問い掛けに、ディムアは静かに頷いた。
今日イグナスに会った瞬間からディムアの様子がおかしくなったということは、そういうことなのだろう。
彼女の今の話を聞き、ロードはそう思った。
ロ「…思い出したくもない相手に再会してしまった訳ですね…。」
デ「そうだな…。あのときのことを嫌でも思い出してしまった…。」
つい数時間前まで普通に話していた彼の闇の部分を知ってしまい、ロードは複雑な思いだった。
ロ「ディムア。君は今、イグナスに対して、どんな感情を抱いていますか?」
デ「…。」
ロードのその質問に答えるのに、ディムアは少し時間がかかった。
デ「…殺意が全くない、って言ったら嘘になる。でも、あの足が不自由な姿を見てしまったら、私はなんてことをしてしまったんだろうって思う…。足が動かなくなったのは、きっと私のせいだからな…。すごく憎いはずなのに、そんなことを思って…もう私はどうしたらいいのかわからない…。」
とても辛そうな表情で、ディムアは言葉を絞り出した。
ロ「…お母さんを殺した相手に対しても、そのような感情を持てるんです。やはり、君は強くて優しいですね。」
彼女のその様子を、ロードは胸の締め付けられる思いで見つめる。
デ「…強くて優しい…か…。お前がよく私に言ってくれるが…お母さんも、強くて優しい人だった…。」
ロ「…お母さんも、君のような、優しい心を持つメア族だったんですか。」
デ「…いや…。私のお母さんはメア族ではない。…人間だ。」
ロ「…っ!? 」
首を小さく振ったディムアの言葉に、ロードは衝撃を受けた。
デ「そういえば言ってなかったな…。私のお父さんはメア族、お母さんは人間。どっちももうこの世にいないが…。」
そう言ったディムアは、酷く悲しそうだった。
ロ「…そうですか。君は混血児だったんですね。どうりで、純血なメア族と違って心優しい訳です。」
デ「…私は、この中途半端な自分が好きになれないけどな。」
納得したように、ロードは小さく笑って頷くが、ディムアは不満そうな表情を浮かべる。
ロ「僕からすれば、君は特別な存在だと思いますよ。」
デ「…っ。」
優しい笑顔のロードの言葉に、ディムアは頬を赤らめ、視線を逸らした。
ロ「…でも、お母さんが人間だったとなると、また話が違ってきますね…。」
デ「そうだな…。人間のお母さんが殺されるくらいなら、メア族の私が殺された方がよかったんだ。」
ロ「…いえ、そういうことではないです。」
落ち込んで呟いたディムアの言葉を、ロードは真剣な表情で即座に否定する。
ロ「イグナスは、メア族を殺したつもりでいて、実際には人間を殺したということをわかっていないかもしれません。」
デ「…確かに、そうかもしれないな…。」
ロ「もし、そうだとしたら、彼に事実を知らせないといけませんね。『君が5年前に殺したのは、メア族ではなく人間です。』と。」
デ「…そうだな…。それで、せめて、人間であるお母さんを殺してしまったということを悔やんでほしい。」
ロ「そうです。そうすることで、君の心の傷が少しは癒えると良いのですが…。」
デ「…私もイグナスの心身に大きな傷を負わせてしまったから、謝ろうと思う。謝って済む問題じゃないことはわかってるけど…謝りたい。」
ロ「良いことですね。君一人だと心細いと思うので、明日、一緒に彼に話をしに行きましょう。」
デ「…うん、よろしく。なんだか、心がすごく軽くなったみたいだ。」
ディムアの穏やかな笑みを見て、ロードも安心して微笑む。
ロ「それは良かったです。不安なことがあったら、何でも話してくださいね。僕は、いつでも君の味方ですよ。」
デ「…うん。ありがとう。」
2人は見つめ合った。 そして、しばらく一緒に夜空を眺めた後、眠りに就いた。




