いたずらモンスターの調査
翌朝。
マ「…ン~、ムニャムニャ…。」
ロ「…。」
まだ薄暗い明け方、熟睡するマオに顔を蹴られ、ロードは目を覚ました。
起き上がり、常用のメガネを掛けて辺りを見回すと、ディムアが窓の外の海を眺めていた。
ロ「おはようございます。早い起床ですね。」
ディムアの隣に座り、声を掛ける。
デ「…ほとんど眠れなかった。」
ロードに一瞬視線を向けた後、すぐ下を向き、小さく呟く。
ロ「仕方ないですよ。昨日までと環境が全く違うでしょうから。」
デ「…やっぱり、私にはこういう場所は合わないんだ。帰る。」
ロ「帰っても、常に危険が付きまとって、余計眠れない日々になると思いますよ。」
デ「…。」
ロードの言葉に、ディムアは何も返せない。
ロ「きっとすぐ慣れますよ。頑張りましょう。」
デ「…はぁ。」
ディムアはため息をつく。
マオも起き、朝食を済ませ、三人は宿を出た。
ロ「早速出発しようと思うのですが、その前に、ディムアに聞きたいことがあります。」
デ「…ん?」
ロードに声をかけられ、ディムアはきょとんとする。
ロ「闇の魔力は、メア族しか持たないものだと僕は予想しているのですが、どうですか?」
デ「…まぁ、メア族は必ず持っているようだが、メア族だけなのかはわからない。」
曖昧な回答を、ディムアはする。
マ「確かに、闇魔法なんて使ってる人、今まで見たことないよ。メア族特有の魔力なのかな?」
少し考え、マオは言う。
ロ「そうですね。そのように考えると、ディムアは極力闇魔法を使わない方が安全だと思います。」
マ「闇魔法を使わなければ、メア族だと知られないから?」
ロ「そういうことです。」
ロードは頷く。
デ「…闇魔法を使うなって…。」
二人の会話を聞き、ディムアは困惑する。
ロ「基本のマジックアローは唱えられますか?」
デ「それくらいなら出来ると思うが…。」
戸惑いながら、ディムアは頷く。
ロ「フィールドに出たら、無属性魔法だけでモンスターと戦ってみてください。」
デ「…わかった。」
3人は、コーラルビーチのインフォメーションに来た。
カバリア島の地図や、各地域のパンフレットが置いてある。
ロ「…マオ、ここにある資料を全てインプットしてもらえますか?」
マ「うん、了解!」
ロードの指示に、マオは張り切って頷き、資料を片っ端から読み込み始める。
デ「…?なんか機械音が聞こえるが…。」
ディムアは、マオを不思議そうに見つめる。
ロ「マオは小動物型のAIなんです。どんな膨大な量のデータも保存可能なんですよ。」
デ「そ、そうなのか…。」
ロードの説明を聞き、ディムアは目が点になる。
ロ「地図やパンフレットを持たなくても、マオに読み込んでもらえば、知りたい情報をすぐに教えてくれますよ。とても優秀なんです。」
デ「ふーん…。」
マオのことは、ディムアには興味がないようだった。
マ「…よし!インプット完了したよ。」
ロ「ありがとうございます。この島の都心部はどこですか?」
マ「…都心部は〝メガロポリス〟という場所みたいだよ。」
3人は地図を見る。
ロ「メガロポリスですか。ここからそれ程離れていないですね。まずはそこを目指しましょう。」
マ「オッケー!」
マオは元気よく頷いた。
「あの、すみません!財布の落し物とか届いてませんか!?」
慌てたような女性の声が聞こえ、3人は視線を向ける。
係「お財布ですか…。いつ頃落とされました?」
インフォメーションの係員は、女性に尋ねる。
「えぇっと、朝出かけてきたときは確かに持ってたから…落としてからまだ1時間も経っていないと思うんですけど…。」
係「今日はお財布は届いてないですね…。申し訳ございません。」
係員は、頭を下げた。
「…そうですか…。」
女性は落胆し、インフォメーションをトボトボと離れる。
係「…また例のモンスターが盗っていったのかしら?」
係「そうかもしれないわね…。もう、止めてもらいたいわ…。」
2人の係員は、そうひそひそと話す。
ロ「…少々よろしいですか?」
係「あ、いらっしゃいませー!どうされましたか?」
その2人に歩み寄り、ロードは声を掛ける。
ロ「その『例のモンスター』のこと、詳しく教えていただけないでしょうか?」
係「あ…えぇと…。」
係員の2人は、戸惑った様子で視線を合わせる。
マ「ロード、お姉さんたち困ってるよ。」
マオはロードに耳打ちをする。
ロ「…突然失礼しました。日常的に泥棒のような悪さをしているモンスターがいるのなら、僕たちが懲らしめに行こうと思いまして。」
ロードは言い、小さく笑う。
係「それはとても助かりますが、危険かもしれませんよ…?」
ロ「大丈夫です。自己責任で行くので、心配しないでください。」
遠慮がちに言う係員に、ロードは即答する。
係「…ありがとうございます。例のモンスターとは、コーラルビーチのフィールドに生息する〝ぬすっとモンキー〟というモンスターです。」
マ「ぬすっとモンキー?もう名前からして嫌な感じだね!」
係員が口にしたモンスターの名前を聞き、マオは苦笑いを浮かべる。
係「はい。名前の通り、盗っ人のお猿さんなんですけど、最近フィールドから街に侵入してきて、街にいる人のいろいろな物を盗んでしまうんです。」
ロ「なるほど…それは悪質ですね。わかりました。行ってきてみます。」
係員の話を聞き終えると、ロードはそう返す。
係「あ、気を付けてくださいね!」
ロ「はい、大丈夫です。」
係員に見送られ、ロードはディムアとマオとともにインフォメーションを後にした。
街を出た3人は、コーラルビーチのフィールドへ出た。
マ「カバリア島で初めてフィールドに出たよー!」
ロ「そうですね。この島にはどんなモンスターがいるのか、楽しみです。」
デ「…。」
わくわくしている様子のロードとマオの隣で、ディムアは落ち着かない様子で、フィールドを見渡している。
マ「ちなみに、オレはモンスターのデータの情報もインプットしてあるから、初めてのモンスターと遭遇したときは名前、耐性、弱点を説明するからよく聞いてね!」
ロ「助かります。よろしくお願いしますね。」
得意気に話すマオに、ロードは微笑みを見せて返す。
マ「…ほら!あそこにモンスターがいるよ!」
近くにモンスターを見つけ、マオは指をさした。
ロ「モンスターですね。…では、早速ディムアに戦ってもらいましょう。」
デ「…え?」
唐突にロードに声を掛けられ、ディムアは戸惑っている。
ロ「先程説明した通り、闇属性の魔法は使わず、無属性魔法だけで戦ってくださいね。」
デ「…わかった…。」
小さく息をついたディムアは、砂浜を散歩しているモンスターを凝視し、杖を構える。
マ「あ、この猫みたいな耳の生えたモンスターは〝トロビー〟だよ。耐性も弱点もないよ!見た目は可愛いけど、油断すると怪我しちゃうかも?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべ、マオは目の前のモンスターの説明をした。
ロ「見た目に騙されないように、ということですね。」
マ「そうそう!」
デ「…。」
ロードとマオのやり取りを聞きながら、ディムアは詠唱を終え、マジックアローを唱えた。
ディムアが突き出した杖から、魔力で生成された光る矢が出現し、トロビーに飛んでいき、突き刺した。
ト「ビィッ!?」
トロビーは鳴き声を上げ、怒った様子でディムアに急接近してきた。
デ「っ!」
トロビーの反撃に、ディムアは一瞬動揺したが、飛び掛かってくる直前にもう一度放ったマジックアローが直撃すると、トロビーは倒れた。
ト「ビィー…。」
力尽きたトロビーは、やがて消滅した。
ロ「いいですね。マジックアロー、上手に使えていましたよ。」
デ「あ、あぁ…よかった…。」
ロードに褒められ、ディムアは視線を逸らして頷く。
マ「でも、マジックアローだけでしょ?無属性の範囲魔法って使えないの?」
デ「…無属性の範囲魔法は、使ったことがない…。」
マオの質問に、ディムアは気まずそうに答える。
マ「えー!1つくらい範囲魔法使えないと、この先一緒に旅するのは厳しくない?」
ロ「そんなことはないですよ。今はマジックアローが使えるだけで充分です。」
不満そうな表情を見せるマオを、ロードはそう声を掛けて宥める。
マ「だって、これから待ち受けているモンスターたちは、きっとどんどん強くなってくよ?それなのに、マジックアローしか使えないディムアと一緒に戦ってたら、共倒れしちゃうんじゃない?」
ロ「その心配はありません。ディムアに魔法を教えて、彼女自身が強くなればいいんです。」
マ「魔法を教えるって、誰が…?」
ロ「もちろん、僕が教えます。」
マ・デ「…えっ?」
ロードの返答に、マオとディムアは同時に声を上げる。
ロ「基礎が出来ていれば、範囲魔法もすぐ習得出来ますよ。闇属性以外の属性魔法も習得出来るかもしれないですね。」
マ「い、いやぁ…。昨日出会ったばっかりの正体不明の種族に、そこまでしなくてもいいんじゃないかな…。」
冗談を言っている様子のないロードに、マオは苦笑い を見せてやんわりと否定する。
ロ「メア族に魔法を教えると、無属性の範囲魔法や闇属性以外の属性魔法を習得出来るのか…という、これはれっきとした研究の一環ですよ。」
マ「…むぅ…。研究って言われると、否定出来ないよ…。」
ロードの言葉を聞き、マオは言い返せなくなり、大人しくなる。
ロ「そういうことです。なので、ディムアには後程魔法を教えていきますね。」
デ「…あ、あぁ…、うん…。」
笑顔のロードにそう声を掛けられ、ディムアは戸惑いながら頷いた。