ディムアとの出会い
カバリア島の静かな港に、ロードとマオは足を着いた。
ロ「ついに来ましたね。」
マ「とうとう着いちゃったね…。一体、どんな恐怖が待っているんだか…。」
ワクワクした様子のロードの隣で、マオは早くも怯えている。
ロ「一緒にいれば大丈夫ですよ。離れないでください。」
マ「う、うん。離れないよ。」
ロードが笑いかけると、マオは頷き、ロードの肩にピッタリとくっつく。
人気のない道を歩いていると、どこからか衝撃音が聞こえた。
マ「ひゃぁっ!!」
その音に敏感に反応したマオは、ロードの背中に隠れる。
ロ「…何でしょう?あっちの方から聞こえますね。」
マ「う、うん…。」
2人は顔を見合わせ、薄暗い洞窟の方へ歩いていく。
そこには、魔法攻撃を乱射する男がいた。
その標的となっているのは、横たわる少女だった。
男「…よし!死んだか!?」
男は少女に近付き、息絶えたか確認する。
?「…う…ぅ…。」
少女は消えそうな小さな声を発した。
男「ふん、まだわずかに生きてるか。あと一発で楽にしてやる!!」
男は詠唱をし、頭上に出現した〝マジックアロー〟を、少女に向けて飛ばした。
しかし、そのマジックアローは、ロードが唱えた〝ライトニング〟で消滅した。
男「あ!?何すんだテメェ!?」
ロ「それはこちらのセリフです。何故こんな酷いことをしているんですか?」
男とロードは睨み合う。
男「わかんねぇのか!?この女、〝メア族〟だぜ!?」
横たわる少女を指し、男は声を上げる。
ロ「メア族…?」
初めて聞く単語に、ロードは呟き、少女を見つめる。
男「メア族なんてゴミ種族、この世から消さねぇとだよな!!」
そう言い放った男は、再び詠唱を始めようとした。
しかし、それはロードの唱えた〝ウィンドエッジ〟により止められた。
男「…痛ってぇえ!!だから、邪魔すんじゃねぇよ!!」
ロ「どんな理由があっても、人を殺すなんて良くないですよ。」
男「だあぁ!!邪魔すんなら、テメェから片付けてやるよぉ!!」
男は怒鳴り声を上げ、ロードに複数の〝マジックリング〟を投げ付ける。
その全てのリングを、ロードは〝スナップウィンド〟で弾き飛ばす。
男「…っ!?なんだ、コイツ…!!俺の魔法を軽々と…!?」
その光景に男は動揺し、一瞬身体を硬直させる。
マ「あちゃー。ロードを敵に回すなんて、キミ終わったね!ドンマイ!」
男「な、なにぃ…!?」
気の毒そうな笑みを見せるマオを、男は凝視する。
ロ「…言ってもわからないようなので、少し痛い目に遭ってもらいますね。」
そう言ったロードは、ニヤッと笑みを浮かべる。
そして、一瞬で〝フレイムトルネード〟を唱えると、男の全身を炎が覆い被さった。
男「熱ぃぁぁあっ!!?」
男は地面をのたうち回ると、その炎はすぐ消えた。
男「…くそぉっ…!な…なにしやがるっ…!!」
地面に倒れたまま、男は涙目でロードを睨み付ける。
ロ「まだ攻撃を受けたいですか?」
笑顔を見せたまま、ロードは言い、杖を振り降ろそうとした。
男「ひぃぃっ!!」
悲鳴を上げながら、男は走り去っていった。
マ「…ロード、大丈夫だった?」
ロ「はい、問題ないです。」
マオに尋ねられ、ロードは小さく笑って頷く。
そして、傷を負って倒れた少女の前にしゃがみ込む。
ロ「…。まだかろうじて息をしていますね。」
安心してそう呟いたロードは、少女に〝リカバリー〟を掛け始めた。
マ「…この子、ロードが助けてくれなかったら、あの男に殺されてたね。」
ロ「そうですね。間に合ってよかったです。」
マ「でも、あいつ、この子はメア族だって、オレのデータにもないことを言ってたね。」
ロ「マオも気になりましたか。僕もです。もしかしたら、この島にしか住んでいない種族なのかもしれないですね。調べる必要がありそうです。」
マ「そうだね…。」
そう話しているうちに、リカバリーで傷が回復した少女は、目を覚ました。
?「…んン…?」
マ「あ、気が付いた!」
?「っ!!」
少女は目を見開き、マオに手のひらを突き出し、黒いもやをまとわせた。
マ「わっ!?」
黒いもやを浴びたマオは、その場に倒れた。
ロ「マオ…!」
咄嗟にマオを庇うように立ち、ロードは少女を見つめる。
?「…っ。」
慌てながらもよろよろと地面を這い、ロードとマオから距離を取った少女は、2人を睨み付ける。
しかし、その表情は酷く怯えていた。
ロ「…大丈夫ですよ。僕たちは君に何もしないです。」
少女を落ち着かせるように、ロードは穏やかに声を掛ける。
?「…嘘だ…!そうやって油断させておいて、殺す気なんだろう…!?近付くなっ…!!」
少女は声を上げ、〝シャドーランス〟を唱えた。
闇色に染まった矢は、ロードに向かって放たれる。
ロ「っ!」
持っている杖を盾に、ロードは防御し、ダメージを軽減する。
すると、ロードの〝サンダーカウンター〟が発動し、少女の身体に小さな稲妻が走った。
?「あぁっ…!!」
その衝撃で身体が痺れて一時動けなくなった少女は、膝を着いた。
ロ「…本当に殺すつもりはないので安心して欲しいですが、それでも僕たちから逃げたいのならどうぞ。…最も、体力を消耗しきっているその身体では、上手く逃げられないと思いますよ。」
?「…くっ…!」
小さな笑みを見せるロードの言葉に、少女はやむなく抵抗を止めた。
マ「もう!いきなり何するんだよ!びっくりしたなぁ!?」
起き上がったマオは、少女を威嚇する。
ロ「まぁまぁ。攻撃されても仕方のない状況でした。怒らないでください。」
マ「…むぅ…。」
ロードに頭を撫でられ、マオは頬を膨らまして怒りを抑える。
ロ「僕はロード、こちらは助手のマオといいます。よろしくお願いします。」
自分と不機嫌なマオを示し、ロードは言う。
?「…。何故私を殺さない…?」
恐る恐る、少女は尋ねる。
ロ「殺す理由がわからないから、ですね。」
考える間も置かず、ロードは答える。
?「…だって…私は…。」
そう言いかけ、少女はうつむき、黙り込む。
マ「…キミはメア族という種族なんだってね。キミを殺そうとしていた男が言っていたよ?」
?「…。」
少し冷たい態度でマオが言うが、少女はあまり反応を示さない。
ロ「僕たちはまだこの島に来て間もないので、そのメア族というものを知らないんです。」
?「…そうなのか。」
ロードのその言葉に、少女の表情はわずかに穏やかになる。
マ「ねぇ、ロードはキミが殺されそうになったのを助けてくれたんだからさ、メア族のこと、詳しく教えてくれない?」
今度は期待を込めた明るい声色で、マオは少女に声を掛ける。
?「そんなこと、教える訳ないだろ…。」
マ「えぇ…。」
少女に横目で見られて即答され、マオは絶句した。
ロ「メア族のことはこれから調べていきます。君の名前を教えてもらえませんか?」
?「…。〝ディムア〟。」
ロ「ありがとうございます。ディムア、よろしくお願いします。」
デ「…。」
ロードが笑い掛けると、ディムアは目を逸らした。
『グゥーッ』
その直後、ディムアのお腹が大きめな音を立てて鳴った。
デ「っ!」
ディムアは赤面し、お腹を押さえる。
ロ「…これ、よかったらどうぞ。」
ロードは、荷物の布袋からパンを取り出し、ディムアに差し出した。
デ「…あ、あぁ…。」
戸惑いながらも、ディムアはパンを受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。
デ「…!」
余程空腹だったのか、余程パンが美味しかったのか、勢いよく食べ進め、あっという間に平らげた。
デ「…うっ!ごほっ…!!」
最後の一口で、パンを喉に詰まらせた。
ロ「大丈夫ですか?水をどうぞ。」
今度は、水の入ったペットボトルをロードは差し出す。
その水をすぐに受け取ると、ディムアは勢いよく飲んだ。
デ「…はぁっ…。ふぅ…。」
ロ・マ「…。」
ディムアのその一連の様子を、ロードとマオはじっと見つめていた。
デ「あ…ありがと…。」
ロ「どういたしまして。」
気まずそうに言ったディムアに、ロードは小さく笑ってそう返した。
ロ「…先程男に襲われていた件もありますし、しばらく僕たちと一緒にいませんか?」
デ・マ「えっ…?」
ロードの提案に、ディムアとマオは同時に声を漏らす。
ロ「あの男の様子だと、また狙ってくるかもしれません。そのときは、僕が守りますよ。」
デ「…。随分お人好しなんだな。私が何者かもわからないのに。」
戸惑いながら、ディムアは呟く。
ロ「わからないこそ行動を共にして、メア族のことを知りたいんです。」
ロードはディムアを真っ直ぐ見つめる。
デ「…後悔しても知らないからな。」
ディムアは静かに息をついた。
ロ「はい、大丈夫です。…では、今日はもう休む場所を探しに行きましょう。」
そう言ってロードは立ち上がり、ディムアとマオに視線を送る。
マ「あ、あぁ、うん。」
デ「…。」
3人は、来た道とは反対の方向に歩き出した。
その夜。
ロード、マオ、ディムアは、海に面する〝コーラルビーチ〟の街の小さい宿屋で、部屋を一室取った。
部屋で夕食をとった後、ロードはディムアに声を掛けた。
ロ「一緒にいることを提案しておいて今更ですが、家に帰らなくて大丈夫ですか?」
マ「今それ聞くの?」
ロードの質問に、マオは静かにつっこむ。
デ「…家に帰ったら襲われそうな気がするから、帰りたくない。」
ロ「でも、家の人が心配しているのではないですか?」
デ「家族はいない。父親も母親も、殺された。」
寂しそうな表情で、ディムアは答える。
ロ「…そうですか。」
ロードは静かに頷く。
彼にとって、ある程度予想していた返答だったが、彼女のその表情を見て、心が痛む思いだった。
デ「…私なんかのことを聞いて、何の得になるんだ?」
話を逸らそうと、ディムアは逆質問をする。
ロ「実は、僕たちはこの島に生息する生き物を研究する為に、遠く離れた場所から来ました。それなので、初めて出会ったメア族という種族の君のことを、いろいろ知りたいと思っています。」
デ「…よりによって面倒な人間に絡まれてしまったというのが、正直な感想だ。」
うつむき気味に、ディムアは呟く。
マ「さっきも言ったけど、キミはロードが助けてくれなかったら死んでたんだからね?」
ディムアの態度が気に入らなかったのか、マオは強めの口調で言う。
デ「わかっている。…それは感謝している。」
少し照れたような表情で、ディムアは答えた。
ロ「君は、カバリア島の様々なエリアや生息するモンスターのことなどは詳しいですか?」
デ「いや…全然知らない。」
ロ「では、一緒にカバリア島を回って行きましょう。島のことを知るいい機会です。」
マ「なんか先生みたい。お願いします!ロード先生!」
ロードとマオは笑顔を見せ合う。
デ「…。」
その様子を、ディムアは小さく息をついて見つめた。
ディムアが入浴中のとき、ロードとマオは話をしていた。
マ「…ねぇ、ロード。本当に大丈夫なの?」
ロ「何に対してですか?」
マ「ディムアだよ。一緒にいて大丈夫?なんか雰囲気が怖いし…。そのうちオレたち殺されない?」
ロ「殺そうと思っている相手には殺気が生まれるものです。彼女からは、そのようなものは一切感じられないので、大丈夫だと思いますよ。」
マ「…ディムアが殺さなくても、あの子の命を狙って襲いに来る奴に、オレたちも巻き込まれてしまうかも?」
ロ「それは有り得るかもしれません。そのときは、マオもディムアも僕が守るので、心配しないでください。」
ロードは笑顔でマオの頭を撫でる。
マ「…。」
マオは顔を赤らめる。
ロードとディムアが眠っている間に、マオは研究所に今日のデータを送っていた。
マ『カバリア島来島初日。到着して間もなく、少女が男に殺されかけているという場面に遭遇。ロードは男を魔法攻撃で制裁し、少女を助ける。少女の名前はディムア。どうやら、彼女はメア族という種族のよう。我々はメア族というものを知らないが、彼女を襲っていた男や彼女の発言から、メア族は生きていることがあまり歓迎されていない存在の可能性がある。ロードはメア族について知る為に、これから彼女と共に行動するようだ。…危なそうだから、オレはやめた方がいいと思うけど。ロードが大丈夫と言うから、その言葉を信じようと思う。』
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窓の外の海をしばらく眺めた後、寝ているロードの隣にピッタリとくっつき、眠りに就いた。