救出と和解
スワンプの森の中では、体も心もボロボロのルクが、今にも倒れそうにふらふらと歩いていた。
ル「…今日で1週間…。木になってるりんごでなんとか食い繋いできたけど…夜は寒いわ、モンスターも襲ってくるわでロクに眠れてない…。出口もない…。誰もいない…。ベリッサと連絡取れないし…。あいつも俺と同じで彷徨ってるんかな…。」
ルクは独り言を呟く。 こんなことになるのなら、ベリッサと離れず一緒に行動すればよかったと、後悔していた。
そのとき、前から数人の人影が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
ル「…っ!?」
幻覚かと思い、ルクはその人影を凝視する。
それは、紛れもなく人だった。
ル「や、やった…!人だ…!た、助けて…!!」
ルクは喜び、助けを求め、人影の方に向かってふらふらと走った。
しかし、その人影の正体は、会ってはいけないかもしれない人物たちだった。
ル「っ!!」
ロードと視線が合い、ルクの身体は硬直した。
ロ「…誰かと思えば、君でしたか。こんな所でまた会うなんて、奇遇ですね。」
ル「…そ、そうだな…あはは…。」
笑顔のロードに声を掛けられ、ルクは苦笑いを浮かべる。
マ「うわぁ、お前かぁ…。あれ、相方がいないじゃん?」
ル「あー、心配しなくても、すぐに来るから!俺たちにかかれば、お前らなんかすぐやっつけてやるからな!」
弱みを見せたくないルクは、つい嘘をつき、強がりを言った。
フ「あの人は誰…?」
デ「メア族の私を捕まえようと、私たちに付きまとっている変な人だ。」
フ「そうなの!?怖いね…。」
ロードの後ろで、フレイシーとディムアはひそひそと話す。
ロ「相方がいないのなら、僕たちからすれば絶好のチャンスですね。今のうちに、君を倒してしまいましょう。」
笑顔のまま、ロードはルクに向かって杖を構えた。
ル「うぇっ…!?ちょっ…まっ…!!」
ルクは逃げようとするが、体力を消耗しきっていて、足がもう動かなかった。
尻もちをついて、後ろに立つ木にもたれかかった。
ル(お、終わった…俺の人生…。)
不敵な笑みを見せて詠唱をするロードの目の前で、ルクは死を覚悟した。
ロ「…。」
ふと、ロードは詠唱を止めた。
マ「ん?ロード、どうしたの?」
その様子を不思議に思ったマオが、ロードの顔を覗き込む。
目の前に座り込み、目を強く瞑り恐怖に怯えているルクの姿を、ロードは見つめていた。
ロ「…君は、確か名前はルクといいましたね?」
ル「…え…?そ、そうだけど…?」
恐る恐る、ルクは目を開け、ロードと視線を合わせる。 ロードは杖をしまい、ルクの目の前にしゃがみ込んだ。
ロ「…よく見たら、ずいぶんボロボロですね。仲間とはぐれて、長い時間この森に迷い込んでしまっていましたか?」
ル「…。あぁ、その通りだよ…。」
ロードの問い掛けに、ルクは視線を逸らして、悔しそうに頷く。
ロ「そうでしたか。大変でしたね。それでは、僕たちと一緒に、森の出口を目指しませんか?」
ル「…えっ!?」
想像もしていなかったロードの言葉を聞き、ルクは声を上げる。
マ「え、だ、大丈夫?ディムアが襲われない?」
デ「…。」
マオがロードに尋ねると、ディムアも不安そうな表情を浮かべる。
ロ「…確かに、ここで君を助けてしまうと、ディムアに危害を与えようとするかもしれませんね。助けるのは止めましょう。」
ロードは立ち上がり、ルクから離れようとする。
ル「…ま、待って!も、もうしないから…君たちに、もう絶対攻撃しないから…お願いします…助けて…!!」
見放されそうになり、ルクは必死に懇願した。
ロ「…約束ですよ?」
ル「はい…!約束します!」
ロードに念押しされ、ルクは大きく頷いた。
ロードは微笑みを見せ、再びルクの前にしゃがみ込み、リカバリーを彼に掛け始めた。
マ「もー、ロードってば、相変わらずお人好しだなぁ!」
その様子を見ながら、マオは苦笑いする。
ロ「1人でこんな場所で傷付いている状況です。いくら敵でも、放っておくことは出来ないですよ。」
フ「素敵…!ロード、とっても優しいね!」
デ「…うん、そうだな。」
フレイシーとディムアは、笑顔を見合わせる。
ル「…。」
リカバリーを受けながら、ロードの優しさに触れたルクの心は温かくなっていた。
ル「…もう大丈夫。ありがとう…。」
傷が回復したルクは、立ち上がって照れ臭そうに言った。
ロ「いえいえ。ところで、ルクは何の目的でこの森に入ってきたんですか?」
ル「それは…。この森に、メア族が入っていったのを見たって教えてもらったから…。」
ロ「もしかして、スワンプの街にいた少年からの情報ですか?」
ル「え?うん、そうだよ。」
ロードが少し楽しそうに尋ねると、ルクは戸惑いながら頷く。
フ「私たちと一緒ね!私たちも、男の子に魔法の書がこの森にあるって教えてもらって来たのよ!」
ル「…魔法の書?」
ルクは首を傾げる。
ロ「魔法の書については、追々話していきます。それで、メア族は見つけられましたか?」
ル「…いや、メア族どころか、この1週間、この森で人と会わないんだ。」
ロ「そして道に迷ってしまい、あろうことか、仲間ともはぐれてしまったという訳ですね。」
ル「ま、まぁ…うん。」
デ「1週間森で迷子か…。散々な目に遭ってるな。」
マ「うんうん。同情するね。」
フ「大変だったね、ルクくん…。」
彼らの同情の声を聞き、哀れな気持ちになったが、助けてもらったことの感謝の気持ちの方が、今のルクの中で大きかった。
ロ「君の仲間も同じように迷っているかもしれないですね。」
ル「うん。何故か連絡つかないし…。無事でいるといいけど…。」
ルクはうつむき、不安そうな表情を浮かべた。
マ「1週間でしょ?もう森から出られたんじゃないかな?」
考える仕草をして、マオは言う。
ロ「連絡がつかないのは、森の中で電波が不安定な為ということも考えられます。」
ル「たしかに、それはあるかもな。」
ロードの考察に、ルクは納得したように頷く。
ロ「では、まずは一旦森を出ることにしましょう。」
マ「え!魔法の書を探すのは?」
少し驚いた様子で、マオはロードに問い掛ける。
ロ「ルクの仲間の安否確認の方を優先しましょう。心配なので。」
デ「…まぁ、仕方ないな。」
フ「そうよね!魔法の書は、その後でも探せるもの!」
マ「えー…。もう、わかったよ!」
ディムアとフレイシーに続き、マオは渋々頷いた。
ル「ごめん…。敵なのに、俺の仲間のことまで配慮してもらって…。」
ロ「いいんですよ。では、引き返しましょう。」
申し訳なさそうに言うルクに微笑みかけ、ロードは元来た道の方向に向き直った。
ル「…?」
ロードの次に取った行動を、ルクは思わず見つめる。
彼らが通ってきた道の地面に落ちている何かを、拾いながら歩いていた。
ル「えっと…何拾ってるの?」
ロ「僕たちが通ってきた道に、一定間隔で落としてきた大きめのビーズです。」
ル「び、ビーズ…?」
確かに、ロードや仲間たちは、少し遠くからでも見えやすい大きさと色のビーズを拾っていた。
フ「森は迷いやすいから、通る道にこれを落としておけば、帰るとき目印になって、ちゃんと帰れるでしょ?」
ル「…っ!?」
フレイシーのその説明で、その行動の意図がわかり、ルクは衝撃を受けた。
こんな簡単な方法を、自分も森に入った最初からしていれば、1週間も迷うことなく、すぐ森から出られたのではないか。
何も考えずに森に足を踏み入れた自分を、ルクは今すぐ殴りたかった。
マ「ちなみにこれはロードの発案なんだけど、こんなことしなくても、オレに頼れば絶対道に迷わないんだけどね?」
ロ「マオに頼るのも良いですが、こんな原始的な方法を取るのもたまには面白いと思ったんですよ。」
少し拗ねるマオに、ロードは少し意地悪な笑顔で言った。
こうして、ルクを含めた5人は森から出た。
ロ「森を出ましたが、電波はどうでしょう?」
ル「えーと…。電話してみる。」
ロードに尋ねられ、ルクは早速携帯電話を取り出し、ベリッサに電話をかけた。
しばらくすると呼び出し音が鳴り、ベリッサの携帯電話との通話が繋がった。
べ『もしもしー☆』
いつもの調子のベリッサの声が、携帯電話越しに聞こえてきた。
ル「…っ!ベリッサ!無事なんだな!?」
べ『えー?無事だけどー?どうしたのー?☆』
ル「そ、そっか!無事でよかった!森はもう抜けられたのか!?」
べ『森ー?そんなの、もう1週間前に出てたけどー☆』
ル「…へ?…俺と分かれたすぐ後に出られたってこと??」
べ『そだよー☆ルクはー?今連絡きたってことは、たった今森から出てきたってことー?☆』
ル「あ…うん。たった今、出てきたよ…。」
1週間森で迷っていたことを、ルクは恥ずかしながらも正直に話した。
べ『そっかー☆もしかして、誰かに助けてもらったのー?☆』
ル「よ、よくわかったな。ほら、俺たちが何回か戦った、ロードと、メア族のディムアって覚えてるだろ?ちょうど彼らが通りかかって俺を助けてくれて…。」
ルクがそこまで話した瞬間、ベリッサの口調が突然変わった。
べ『…は?あんた、いい加減にしてよね?』
ル「えっ?何が…?」
べ『何が?じゃない!!森から出るのに1週間かかった?どんだけ頭悪いの!?それだけじゃなく、私たちの敵に助けてもらってやっと脱出出来ただと!?あんたにはプライドの欠片もないのかよ!!」
ル「…!?!?」
ベリッサのあまりの変わりよう、そして激怒ぶりに、ルクもロードたちもかなり困惑している。
べ『あんた弱っちぃし、頭も悪いっていつも思ってたから、この機会にあんたが森から1人で出られるか試したんだわ!そしたらこのザマよ!こんなクズみたいな奴が私の相方なんて、もうウンザリなんだよ!!今日限りであんたとは縁を切るから!!』
そこで、通話は一方的に切られてしまった。
ル「…い、一体、何が起こったんだろう…?」
呆然と立ち尽くし、ルクは涙目で呟く。
ロ「…。僕たちは、彼女の本性を知ってしまったようです…。」
デ「いつも楽しそうな喋り方をしてる人が、本当はあんな怖い人だったのか…!?」
ロードも驚きを隠せず、唖然とするディムアと視線を合わせる。
マ「こ、怖かった…。」
フ「うん…。途中から違う人に電話変わったのかと思ったわ…。」
マオとフレイシーも、怖がっている。
ル「…はは…。そっか…。ベリッサの言う通りだ…。俺は弱いし、頭悪いから、あいつの足引っ張ってばっかりだった…。人格変わるほど、俺といるのがストレスだったんだな…。」
ルクは呟き、切なそうに笑った。
ロ「…いえ、僕は君が弱いとも頭が悪いとも思ったことはないですよ。」
ル「えっ…?」
目の前に静かに立ったロードを、ルクは見つめる。
ロ「それ程君のことを知っているわけではないですが、以前戦ったとき、君のあの射撃の威力と命中率の高さは、並大抵の強さのガンナーには真似出来ないことだと感じました。それに、君の出すベリッサへの的確な指示のおかげで、君たちとの戦闘は僕にとって苦しくもありましたが、有意義な時間になっていたんですよ。」
ル「…ロード…。」
ロ「ルクは優秀です。それなのに彼女にあれ程のストレスが溜まっていたということは、根本的に相性が合わなかった、ということでしょうか。」
困ったような笑顔を、ロードは見せた。 ルクは涙を堪え、ロードから視線を逸らした。
ル「…ありがと。こんな俺を励ましてくれるなんて。ロードは優しいな。」
ロ「そんなことはないですよ。」
2人は小さく笑い合う。
ル「その…今までごめん。何回も攻撃仕掛けて、酷いことしてたよな。メア族を狙うなんてこと、もうしないから。」
ロ「わかってくれたのなら、そのことはもういいです。」
デ「まぁ…許す。」
頭を下げ、深く反省した様子のルクを見て、ロードとディムアは穏やかな表情で頷いた。
ル「よかった…。せめてものお詫びに、これから魔法の書っていうものを探しについていって良いかな?…みんながよければ、だけど。」
ロ「はい、もちろんですよ。」
フ「助かるわ。よろしくね!」
デ「…何だか複雑だが、一緒に探してくれるのなら文句は言えないな。」
マ「仕方ないなー。ロードに感謝だね!」
なんだかんだ言いつつも、仲間たちは、全員ルクを歓迎している様子だった。
ロ「ルク、これからよろしくお願いします。」
ル「こっちこそ、よろしく…!」
ルクは仲間たちと笑顔を見せ合った。




