船の上で
それから数日後。
ロードの持つ携帯電話に、着信があった。
マ「…あ、ユイネっちからだよ!」
ロ「そうですね。」
液晶画面に〝ユイネ〟と表示され、ロードとマオは顔を見合わせる。
そして、ロードは携帯電話の通話を繋いだ。
ユ『もしもし!お兄様、おはようございます♡』
電話の向こうから、ユイネの甘えん坊で元気な声が聞こえてきた。
ロ「おはようございます。ユイネ、どうしたんですか?」
相変わらずの落ち着いた口調で、ロードは返す。
ユ『あのですね!私、ついに新しい属性魔法を習得したんですよ!』
そう報告したユイネは、とても嬉しそうな様子だ。
ロ「そうなんですか。頑張りましたね。」
マ「おぉぉ!ユイネっち、すごいじゃん!」
ロードとマオは、笑みを見せてユイネを褒める。
ユ『えへへ!ありがとうございます♡』
2人に褒められ、ユイネは電話の向こうでご満悦な表情を浮かべているようだった。
ユ『それで、近いうちに、お兄様に新しく習得した魔法を見ていただきたいんですけど…!』
少し遠慮がちに、ユイネはロードにそうお願いをする。
ロ「…すみません。ちょうど今、仕事で遠い場所へ向かっているので、帰って来たら見せてもらいますね。」
ユ『そうなんですか…。お仕事忙しいんですね…。いつ頃戻りますか…?』
申し訳なさそうなロードの言葉を聞き、ユイネは少し寂しそうに尋ねる。
マ「んー、いつ頃かはわかんないけど、多分しばらく戻れないと思うよ!」
ユ『え?そんな遠くへ行ってしまうの?』
マオが答えると、ユイネは心配そうな声を漏らす。
『本日は、〝ジュエルタ〟発、カバリア島行きオーシャン号にご乗船いただき、誠にありがとうございます。素敵な船の旅をお楽しみください。』
そのとき、ロードとマオが乗っている船から、そんなアナウンスが流れた。
ユ『…え?カバリア島?お兄様…今どちらに…?』
そのアナウンスが聞こえ、ユイネは動揺した様子で尋ねる。
ロ「今、カバリア島行きの船に乗っています。」
ユ『えっ!?』
ロードの返答に、ユイネは声を上げた。
ロ「カバリア島にいる間は、電波の関係で連絡が一切取れないですが、心配しないでください。帰って来たらまた連絡します。お父さんとお母さんにも、ユイネから伝えておいてもらえると助かります。」
ユ『そ、そんな大事なこと、なんで事前に言ってくれないんですか!?しばらくお兄様に会えないなんて…!連絡も取れないなんて…!!』
ロードの説明を聞き、ユイネは悲しそうにそう嘆く。
マ「大丈夫だよ、ユイネっち!そのうち帰るから!」
ユ『…もう!マオは黙っててよっ!』
マ「…怒ってる…。笑」
ユイネに怒鳴られ、マオはロードと苦笑いを浮かべる。
ロ「そういうことなので、よろしくお願いしますね。」
ユ『お、お兄様!?ちょっと待っ―』
ユイネがそう言いかけたとき、電波が届かなくなり、通話は切れた。
ロ「…ここから本当にもうジュエルタへの連絡は出来ないようですね。」
そう呟いたロードは、携帯電話をしまう。
マ「あら、切れちゃったか…。それにしても、すごいタイミングの電話だったね!」
ロ「そうですね。まぁ、ついでにカバリア島に行くということを伝えられたのでよかったです。」
マオとロードは笑い合う。
マ「ていうか、連絡取れない程遠くに行くなら、普通は家族くらいにはもっと前もって伝えそうだけどね?」
不思議そうに、マオはロードの顔を覗き込む。
ロ「いいんですよ。両親は、元々放任主義ですからね。」
マ「えー?じゃあ、せめてユイネっちには直接会って伝えた方がよかったんじゃない?ロードにしばらく会えなくなるの寂しがってたじゃん!」
ロ「…ユイネの場合は、逆に過干渉すぎて、カバリア島に行くことに色々言ってきそうだったので、言いたくないんです。」
マオの問い掛けに、ロードは小さく息をついてそう返す。
マ「過干渉なのはしょうがないよー!だって、ユイネっちは、ロードお兄様のことが大好きだからね♪︎」
ロ「…。そろそろ兄離れをしてほしいものです。」
ニヤニヤするマオの言葉を聞き、ロードは苦笑いをした。
ロ「さて、気持ちを切り替えましょう。到着するまでの間、カバリア島の今までのデータの最終チェックをしますよ。」
マ「りょうかーい。笑」
さり気なく話を逸らしたロードを見て笑みを浮かべ、マオは返事をした。
そうこうしてるうちに、ロードとマオの乗るオーシャン号は、あっという間にカバリア島に到着した。