ロードとマオが出会ったとき
マオとショコラが、カバリア遺跡のフィールドを進んで少し経った。
シ「…ねぇ、マオ。」
マ「なに?」
ショコラに声を掛けられ、マオは彼女と視線を合わせる。
シ「マオもあたしみたいに、誰かに飼われてるの?」
マ「え?ショコラは飼われてるの?」
ショコラの質問に、マオは首を傾げる。
シ「うん。お姉ちゃんに飼ってもらってるよ。」
マ「…あ、なるほど!お姉ちゃんって、ショコラの飼い主のことを言ってたんだね。」
納得したように、マオは自分の手のひらをポンと叩く。
シ「そうだよー!お姉ちゃんは、あたしのご主人様なんだ♪」
そう言ったショコラは、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
マ「そっかー。えーと、オレの場合は…飼われてるとはいわない気がするんだよなー。」
シ「え?どういうこと?」
考える仕草をするマオの言葉に、ショコラは興味のある様子で聞き返す。
マ「関係性で言うと、ロードが研究員、オレは助手なんだ。」
シ「研究員!?助手!?なんか、マオって頭良さそう…!」
マ「そういう風に見える?えへへ!」
ショコラにキラキラの瞳で見つめられ、マオは照れ笑いを浮かべる。
シ「今日は、そのロードさんとは一緒じゃないの?」
マ「あー…うん。今は離れて行動してるんだ。」
ショコラに尋ねられ、マオは寂しそうにうつむいてそう答える。
シ「…もしかして、怒られちゃったの?それとも喧嘩しちゃった?」
マ「…うん。なんでわかるの?」
シ「そんな寂しい顔してたらわかるよ。」
マ「…。」
ショコラの言葉に、自分はそんなに寂しそうな表情をしているのか、と内心少し慌てた。
シ「どんなことがあったのか、話してみて?こんなあたしだけど、何かアドバイス出来るかもしれない!」
マ「うん…。」
ショコラにそう声を掛けられ、マオはロードとのことを話し始める。
マ「ショコラは、メア族って知ってる?」
シ「メア族?ううん、聞いたことない。」
マオが尋ねると、ショコラは首を横に振る。
マ「ロードとオレは、研究の為にこの島に来たんだ。この島に到着してすぐ、ディムアというメア族の女の子と出会って、今日まで数日一緒に行動してきたんだ。今まではオレたちもメア族のことを何も知らなかったんだけど、メア族は平気で人に襲い掛かる凶暴な種族だって、今日知ったんだ。」
シ「うんうん。」
マ「メア族が凶暴な種族だという事実を知って、オレは今後ディムアと一緒に行動することはやめた方がいいってロードに言ったんだよ。でも、『ディムアはメア族でも凶暴な子じゃない。ディムアを傷付ける発言はするな。』って言われちゃってさ…。」
シ「…そっか、そんなことがあったんだね。」
マオがしんみりと話し終えると、ショコラは考え込むような仕草をする。
シ「ディムアさんって、ロードさんやマオに今まで危害を与えたことがあったの?」
マ「ううん、それはなかったよ。でも、まだこれからどうなるかわからないけど…。」
ショコラの問い掛けに、マオは首を横に振って答える。
シ「あたしはメア族のことを知らないから、説得力はないかもしれないけど…。ディムアさんは、凶暴だと言われているメア族の中でも珍しい、優しいメア族の人なんじゃない?」
マ「…確かに、それはロードも言ってたけど…。」
シ「ロードさんが言ったのなら、きっとその通りなんだよ。…実際に危害を与えてないのに、メア族だからって、ディムアさんのことを危険だ、凶暴だとか決め付けちゃったら、ディムアさんも傷付くし、ロードさんが怒るのもわかる気がするな。」
マ「…。そういうことだったのか…。」
ショコラの言葉を聞き、自分の軽率な発言で、どれだけディムアを傷付け、ロードを怒らせてしまったのかということを、マオは初めて思い知らされた。
シ「…ねぇ、もしかして、ロードさんとディムアさんは、仲良しなんじゃない?」
マ「…そうだね。仲良いみたいだよ。」
ショコラの問い掛けに、マオは頷く。
シ「マオは、ロードさんのこと好きでしょ?」
マ「…え、うん。大好きだし、尊敬してるよ?」
マオは少し照れた表情をする。
シ「それなら、マオはディムアさんにヤキモチ妬いてるのかも?」
マ「うぇっ!?や、ヤキモチ!?」
少し困ったように笑ったショコラの言葉に、マオは思わず声を上げてしまう。
シ「うん。マオが自覚してなくても、知らない間にヤキモチ妬いちゃってて、それでディムアさんに強く言っちゃったってこともあるんじゃない?」
マ「…そっか…ヤキモチか…。それなら、これが三角関係ってヤツ…??」
ロード、ディムアとの関係性について、マオは考え込む。
シ「でも、マオにはロードさんともディムアさんとも仲良しでいて欲しいな。今の話を聞いただけでも、ロードさんにとって、マオもディムアさんも失いたくない存在だと思うから。」
マ「…。」
その言葉を聞き、思わずマオは瞳を潤ませてしまう。
シ「…あ、ごめんね!ロードさんとディムアさんのこと何も知らないのに、想像だけでいろいろ言っちゃったね…。」
マオの表情を見て心配になり、ショコラは申し訳なさそうに頭を下げる。
マ「…ううん。ショコラの言葉、すごく勉強になったよ。オレ、2人に会ったらちゃんと謝る。それで、これからもずっと一緒に行動しようって言うよ。」
シ「本当に?えへへ…。マオがそう思うようになってくれてよかった!」
マオが小さく笑って言うと、ショコラも嬉しそうな笑顔を浮かべた。
マ「…ありがとう、ショコラ。」
シ「どういたしまして!」
2人は笑顔を見せ合った。
今から1年程前―。
ロードは、研究所に研究員見習いとして入所した。
ロ「本日からお世話になります、ロードです。よろしくお願いします。」
上司にあいさつをしたロードは、丁寧にお辞儀をする。
サ「ロードくん、よろしくね!この子は今日からあなたの助手になる、AIのマオよ。仲良くしてね。」
上司のサブリナは、マオをロードの目の前に差し出す。
マ「…。」
マオはムスッとした表情をしていて、ロードと視線を合わせようとしない。
ロ「…マオくんと呼べばいいでしょうか。今日からよろしくお願いしますね。」
マ「…今日から新人のお世話係か…。やってらんないよ。」
ロードを横目で見て、そんな生意気な口を利いた。
ロ「…すみません。新人ですが、頑張りますね。」
マ「…ふんっ。」
ロードが笑い掛けるが、マオは不機嫌そうにそっぽを向いた。
サ「…。」
初対面の2人の様子を、サブリナは心配そうに見つめていた。
ロードの初勤務が終わったその日。
ロードが帰ろうとしたとき、サブリナに声を掛けられた。
サ「ロードくん、ちょっといいかな?」
ロ「…はい、何でしょう?」
サ「あのね…。今日マオと初めて行動してみて、どうだった?」
ロ「ええと…話し掛けてもそんなにしゃべってくれませんでしたね。ずっと沈んだ表情をしていて…ほとんど別行動でした…。」
遠慮がちにサブリナに尋ねられ、ロードはうつむきながらそう答えた。
サ「…やっぱり…。」
上司は落胆したようにそう漏らす。
ロ「仕方ないですよね。僕が新人だから、マオはきっと嫌がっているんです。」
ロードは少し寂しそうに笑いながら言う。
サ「…違うの。ごめんなさい。マオと会わせる前に、あなたに話すべきだったわね。」
ロ「え…?」
深刻そうな表情で言うサブリナに、ロードは視線を合わせる。
サ「実は…あなたの前にマオが助手に付いた研究員がいたんだけど…。マオは初起動したのは3年程前だけど、その頃からずっと彼の助手で、2人は家族や兄弟みたいに仲が良かったのよね…。それなのに、彼が最近あいさつもなしに突然辞めてしまって…。それから、マオはずっとあんな感じなのよ…。」
ロ「…そうだったんですね…。」
哀しい表情のサブリナの話を聞き、ロードは今日の寂しい表情をしていたマオのことを思い出す。
サ「まだ彼を失ってしまったショックが大きいみたいだけど、一緒に行動しているうちに、あなたに心を開いて、元気になって欲しいと思っているの。あなたに任せるようなことをしてごめんなさい…。マオと、仲良く出来そうかな…?」
ロ「大丈夫ですよ。僕も、マオと仲良くなりたいです。」
申し訳なさそうに言うサブリナに、ロードは微笑んで頷いて見せる。
サ「本当に?ありがとう、ロードくん!」
サブリナも嬉しそうに笑顔を見せた。
次の日からも、ロードはマオと一緒に行動する日々が続いた。
ある日、フィールドを歩いているとき。
ロ「…ほら、マオ。見てください。ここに洞窟がありますよ。」
マ「…。初めて気が付いた…。」
ロードの見つけた洞窟に、マオは興味を示す。
2人は洞窟の中を進んでいく。
中には、モンスターが数多く潜んでいた。
マ「っ!?このモンスター、オレのデータにない!」
ロ「新発見ですね。僕が攻撃するので、マオはその間にデータ収集してください。」
マ「…うん!」
ロードが得意とする、風と雷の範囲魔法で、モンスターを次々と倒していく。
マ「…強い…!」
その高威力の魔法攻撃に、マオは思わず見惚れる。
辺りのモンスターを一掃した直後だった。
主らしき大きいモンスターが、2人の前に現れた。
ロ「…どうやらボス登場のようですね。」
ロードは言い、笑みを見せる。
マ「ボス…!?勝てるの!?」
ロ「はい、必ず勝ちます!」
マオの言葉に、ロードはしっかり頷く。
そして、ボスモンスターとの激しい攻防が繰り広げられる。
マ「わぁっ!!」
マオはモンスターの攻撃に当たってしまった。
地面に叩き付けられてしまったマオを、ロードはすぐに拾い上げる。
そして、自分の肩に乗せた。
ロ「大丈夫ですか?ここにいれば安全ですよ。」
マ「…っ。」
そうロードに微笑み掛けられたとき、マオの中で何かが変わった気がした。
その後、ボスモンスターを倒すことに成功した。
マ「すごい…。すごすぎるよ、ロード…!」
ロ「ありがとうございます。」
2人は笑顔を見せ合った。
洞窟から帰る道。
夕焼けでオレンジに染まったフィールドを、ロードは歩く。
マオは、ロードの肩の上に乗っかっていた。
マ「…オレ、今までこんなに魔法が強い人見たことなかったな。」
ロ「そうなんですか。それは嬉しいです。」
マ「うん。それに、新しい場所やモンスターを見つけちゃうし…。ロードといるの、楽しいかもしれない。」
照れたように、マオは呟く。
ロ「…僕も、マオといると楽しいですよ。」
マ「…本当に?」
ロ「はい。君がよければ、これからも、ずっと一緒にいましょう。」
マ「…っ。」
前に突然辞めてしまった研究員のことを思い出したのか、マオは涙を流していた。
マオを自分の肩から降ろしたロードは、今度は胸の前に抱き寄せた。
ロ「…僕は、絶対君の元からいなくならないです。だから、安心してください。」
マ「…ロード…。うぅっ…!」
微笑むロードの優しい言葉に、マオの涙はなかなか止まらなかった。
デ「…そうか。2人はそんな出会いだったんだな。」
ロードの話を聞き、ディムアは小さな笑みを見せる。
ロ「はい。マオとはずっと一緒にいると約束を交わしたので、心配しなくて大丈夫なんですよ。」
マオとの思い出を懐かしむように、ロードも穏やかな笑顔を浮かべている。
デ「…お前に対しても、最初はそんな口の聞き方だったのか…。」
ロ「そうですね。でも仕方なかったんです。出会ったとき、マオは心に大きな傷を負って、誰に対しても心を閉ざしていましたから。」
今度は少し寂しそうな表情で、ロードはうつむく。
デ「…それでも、お前の優しさに触れて、今では固い絆で結ばれたパートナーか。…良い話だな。」
ディムアは小さく笑うが、マオに対して嫉妬の感情が出てきていることに、自分自身戸惑っていた。
ロ「…僕が優しいかそうでないかの話はおいておきますが、マオが僕にとって大切なパートナーということは間違いないです。」
デ「…うん。そうだな。」
微笑むロードを、ディムアは切なそうに見つめながら小さく頷く。
ロ「…彼はまだ人の気持ちを汲み取るということが苦手で、思ったことはそのまま正直に言ってしまうんです。それで先程あのような発言をしてしまいましたが、ディムアを護りたいという僕の気持ちを、彼は必ず理解してくれるはずですよ。」
デ「…!…本当に…?」
ロ「はい。パートナーの僕が保証します。」
デ「そ、それなら、よかった…。」
ロードの言葉に、ディムアは小さく笑い、頬を赤くする。
ロードが改めて自分を護ると言ってくれたことが、ディムアはとても嬉しかった。
ロ「AIといっても、彼はとても感情が豊かです。そして同時に心が繊細で傷付きやすいです。一緒に旅をしていく中で、接することが難しいと思うこともあると思いますが、ぜひこれからもマオと仲良くしてもらえると嬉しいですね。」
デ「…うん、わかった。仲良くする。」
ロ「ありがとうございます、ディムア。」
ディムアが頷くと、ロードは安心したように微笑んだ。
彼のその表情を見て、ディムアは心が温かくなるのを感じた。




