第八話
1日空いたので、少し早めの投稿にしました!
お姉ちゃんは頭も要領も良く、おまけに美人だったから、いつも周りには誰かがいて人気者だった。いつも誰かに頼られている姉をみて「私のお姉ちゃんなのに」と小さい頃はよく不満に思っていた。
中学校に入学すると、学校の先生からは「宮園の妹か、期待しているぞ」と理不尽な期待をかけられ、家でも「お姉ちゃんのように頑張りなさい」といつも私は姉と比較されていた。お姉ちゃんとは違う、と反発する反面、優秀な姉が誇らしくもあり大好きだった。
歳の近い優秀な兄や姉を持つと必ず比較され、自分の価値を見失う。そう言った話はよく聞くし仕方ないとも思った。
そんな私もよくある話し、いわばセオリー通に、口では「私は私だから、お姉ちゃんとは関係ない」とよく言っていたけど、自分を認めてほしいとか優秀な姉への嫉妬とかはなく、単に姉に憧れていてずっとそばにいて欲しいと思っていただけだった。
心に変な隙間ができたのは私が中学校三年になる時に姉が地方の大学へ進学するため一人暮らしをはじめるときいた時だった。私の中で何かが壊れていくのがわかった。「お姉ちゃんがいなくなる」頭からその言葉を消すために学校が終わると友達の家を転々とし、帰らない日もあれば夜遅くに家に帰るという生活を続けた。
なぜか次第に化粧も濃くなり、髪も明るくなっていくわたしを母は怪訝な顔でみて不良娘と言うようになったけど、私の素行にたいし、強く注意するようなことはなかった。
そんな遊び歩いていたある日、家に帰らない私に友達が一つ上の男を紹介した。
目つきは悪く、だらしなく制服をきていて、口も悪い。見るからに柄の悪い男だった。「ねぇ、きみ可愛いし、かっこいいね。自由に生きてるでしょ? 俺と一緒だ」と馴れ馴れしく話しかけてくる。
「はぁ? 何言ってんの? 一緒にしないで 」と素っ気なく返すと「こわっ」とわざとらしい反応をする。
男は急に真顔になり私の顔を見つめ「いきなりなんだけど、君に惚れたから付き合ってほしい」と唐突に告白してきた。
「は? 意味わかんないんだけど、私達、会ったばっかだし、頭大丈夫そ?」
「君からすれば、会ったばかりだけど俺は何度も君のことみかけてるんだよ!よくこの辺で遊んでたでしょ?
「え? きもすぎ……」
「仕方ないだろ? 俺もこの辺よくくるし、好きになったんだから。感情なんて俺でもどうにもできないし」
「なにそれ? 一目惚れってこと? 性格しらなくても好きになれるなんて羨ましい脳みそしてるね」嫌味でいったつもりが、男は気にせず「いいじゃん! 好きになってしまったんだから、じゃあ俺のこと嫌い?」とグイグイ言い寄ってくる。
「いや、会ったばっかだし嫌いとかないけど……」
「じゃあ試しに付き合ってよ。嫌になったらすぐ別れていいからさ。もっと姫奈ちゃんのこと知りたいんだよ。友達からとかめんどくさいじゃん。俺昔から回りくどいの好きじゃなくて」
好きでも嫌いでもない男の軽い告白に私も軽いノリで「まぁ、いいよ」と返事をした。この頃の私は男ができれば姉がいなくなるショックも和らぐかもしれない、そんな浅はかな考えだった。
付き合ってから一週間がたった頃、私は彼氏になった男に誘われ半ば強制的にカラオケに連れてこられた。
男はどこからか持ってきたお酒をかばんからだす。
「え? お酒? なんで持ってんの? 私たち未成年だよ?」と引き気味になる。
「姫は変なとこで真面目すぎ!いいじゃん、せっかく二人でデートしてんだからハメはずそうぜ」
ほら、といって缶チューハイを差し出す。
「いや、私はいらない」
「いいから、飲もうぜ!」と強制してくる。
「あんたうざすぎ、いらないから」そう言って私は携帯をいじる。
一、二曲歌うと男はマイクを置いて、私の方を観察するようにジロジロ見始める。
「なに? キモいんだけど……」
「お前、キモいとかよく言うけど彼女だろ? 俺にもっと優しくしろよ」
「は? 酔ってんの? 意味わかんない。私帰るから」というと男は立ち上がり近づいてくる。私は身の危険を感じて沙也加に位置情報を送った。
「お前…… 俺が優しくしてるからってあんまりなめんなよ…… 」男がいきなり私の肩を強く掴み、薄暗いカラオケの椅子に押し倒した。「離して! やめて!」と叫ぶが、力が強く、抵抗できない。恐怖が身体を縛りつけ声すらも出なくなる。
男が顔を私に近づけた時、店員が扉をノックした。位置情報を見て察した沙也加がきっとお店に連絡してくれたんだと私は思った。
「お客さま? 大丈夫ですか?」
男は舌打ちをして私からはなれると、私はすぐにカラオケを飛び出した。
あいつが追ってくるかもしれないと恐怖で後ろを振り向けず震えながら外を歩いていると、「ねぇ、大丈夫?」と声をかけられる。
見るからに真面目そうなガリ勉タイプの学生だった。
「気にしないで」私がすぐに離れようとすると「もったいないな…… 」といわれ振り向く。
「もったいないってなに?」
「あ、いや、ごめん。君は見るからに優秀そうではないけど、自分を傷つけて生きるほど馬鹿なの?」
「はぁ? あんたに私の何がわかるわけ? 悪いんだけどあんたと話してる場合じゃないの」後ろを気にしていると「あいつはこないよ」と学生は黒縁の眼鏡をあげる。
「え?……」
「君が見るからに頭の悪そうな人に強引にカラオケに連れ込まれていたから僕が店員に言っといたんだ。カメラで見張っとた方がいいですよって。カラオケの個室はだいたいカメラがついてるから。だから今頃店員に捕まってるとおもうし、もしかしたら警察呼ばれるてるかもね」
「ありがとう、でもなんで……」
「塾の帰りにたまたま見かけて、不愉快に思ったからそうしただけだよ」あ、と腕時計を確認して「そろそろ帰るね」と言って正体不明の学生は帰っていった。
帰っている途中、沙也加から電話がきたけど、「大丈夫!なんでもない!間違えちゃった!急にごめんね」とメッセージを送った。
その日私が帰ると、姉は「どこ行ってたの?」と声をあらげ「お姉ちゃんには関係ない」というと私の頬を強く叩いた。
「あんた最近変だよ。どうしたの?」
心配そうに姉がきいてくる。
「お姉ちゃん出ていくんでしょ? もう心配しなくていいから」と強がると「出ていこうが行くまいが私はあんたの姉なんだよ!あんたは私の可愛い自慢の妹なんだから心配しないわけないでしょ!」
姉は泣いていた。感情的に本気で怒る姉を初めて見たわたしはその場で泣き崩れる。本当は怖くてしかたなかった。姉がいなくなるのも一人になるのも。でも維持をはって、姉がいなくても大丈夫なように強くなろうと必死で作っていた心の壁が姉の言葉で壊れていった。
「ごめんなさい……」と泣きつく私に、姉は「あんたが嫌なら私大学にもいかないよ」と優しい言葉をかけてくれた。
それ以来、夜遊びを一緒にしていた友達とは縁を切り、彼氏に「嫌になったら別れるって言ったよね? 別れよ。もう会わないから、さようなら」とクソ男に告げて、向こうの言い分はきかず連絡先も削除した。
お姉ちゃんは「大丈夫?」と心配してくれたけど、「もう大丈夫だから大学行ってきて!」と姉を送りだした。
それから一年後、入学式で正体不明の学生を見かける。眼鏡はかけていないけど、間違いなくあの時の学生だった。
「ねぇ」と私が話しかけると「な、なに? え? 僕?」と驚いた表情で答える。
私のことは全く覚えていなかったけど、私はそのあとからその学生をずっと気にしながら過ごすことになる。
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