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季節をこえて君といたい  作者: 木幡慎一
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第六話

普段は一通りの多い駅前も、今の時間は閑散としていた。

 スーツに汗を浸して、ストレスを地面にぶつけるかのように力強く足を進めるサラリーマンの姿もまだらで僕達のような制服姿の学生なんて皆無だった。

 それもそうか、と辺りを見渡していると、「海斗君、アイススクリーム屋さんあったよ」と僕の袖をひっぱり宮園さんは無邪気にはしゃぐ。

 照れくさく「う、うん」とだけ答えて、道路をはさんで奥にある赤と白の童話にでてきそうなお店に入る。

 外にはあまりいなかった人も店内にはちらほらといて、やっぱりここは人気なんだ、と改めて思う。

 ケージのなかにアイスが羅列されていて、宮園さんは目を輝かせながら僕に「海斗君はどれがすき?」とまるで選択を委ねる質問をする。

 ここでミスチョイスをしてしまったら、今後の宮園さんとの関係に影響は無いだろうか? と頭を悩ませる。

 そうだ!と一筋の、光を見出す。小さい頃の思い出で親戚のおばさんがくれたアイスがあった。それは確かベルギーチョコであり、世界的にベルギーはチョコで有名だと聞いた記憶がある。しかし、そのアイスが美味しかったのかは全く覚えていない。

 これだ!と思い僕は宮園さんに一目置かれる未来を想定して「ぼ、僕はやっぱり、ベルギー産のチョコかな」というと宮園さんはやはり驚いた表情をした。

 僕の勝利だ。きっと羨望の眼差しに違いない。

「ベルギーかはわからないけど、チョコならあるよ」と宮園さんはひきつり気味の笑顔で言った。

 そうか、それを考えてなかった。ここのアイスがベルギー産かどうかなんてわからない。

 僕はそれなら、と優しそうな女性店員さんにおすすめを聞くと、え? と宮園さんは言ったあとそのまま無口になってしまった。

 この店の外観とおなじ色の赤と白のアイスを片手に持ち、店内の空いている席にすわってからも宮園さんは不満げな表情をしていた。

 もしかするとアイスの味が宮園さんの好みではなかったのかもしれない。そう思い「アイス美味しいね」と僕が言うと、「知らない」と宮園さんは顔をそむける。

 なぜだ、僕は頭が真っ白になる。やはり店員のおすすめは信用すべきじゃないのか、僕はどうしていいかわからなくなり、「ごめん」と謝ると、「女の子は選ぶ時間も大事なんだよ」とまさかの事をいわれ、僕は今度から宮園さんと会う時はメモ帳を持参しようと心にちかう。

 宮園さんが学校からどうやって抜け出せたのかを聞いたり、普段はアイスを食べるのか、とか果物は何が好き?など中身のない幸せな会話を続け、僕の口の中が甘さで満たされた頃、背後で店内のひらく音がした。

 後ろを振り向こうとしたけど、宮園さんから「海斗君進路はどうするの?」とまさかの質問が飛び出して目を丸くする。

 正直、進路のことは決めていなかったが、宮園さんが、僕の進路を気にしてくれていることが嬉しかった

「えっと……」言葉に迷っていると「海斗君…… ごめん」と宮園さんから聞いたことのないか細い声が聞こえた。

こころなしか、声が少し震えているきがする。

「え?……」異変に気づいた僕が大丈夫? と声をかけようとしていると、つり上がった目に明るい髪、僕が一生身につけないであろうセンスの感じない下品なネックレスをつけた男と、同じような見た目の女が僕達の前に現れる。

 一目みてわかった。間違いなく僕が一番苦手とする人種だ。

 男の口調からして、きっと知り合いなのだろうが、僕はなれなれしく宮園さんに話しかけるその男に不快感をあらわにする。

 なにより、一番我慢できないのは、男が話しかければかけるほど宮園さんが辛そうにしていることだった。これ以上見ていられない。そう思った矢先、男が宮園さんに僕のことを聞いた

「姫! だれこいつ?」

「誰って関係ないでしょ? もうどっか行ってよ」

 怖くてしかたなかったが、どうにか帰って貰おうと交渉を試みる。見た感じは話しの通じそうな相手ではない。

「ぼ、ぼくは、宮園さんの同級生で……」

 僕が話すと男が大声で笑い「マジかよ、姫。俺の次がこれはねぇだろ、こんなのと一緒にいるなんて俺と別れたショックでおかしくなったんじゃねぇの? お前こういうやつ一番苦手じゃん」

「ちょっと!海斗君に謝って!」と宮園さんが怒っているけど、僕は放心状態になっていた。理由は目の前のマヌケそうな男が怖いからではない。この男が元彼だと知ったからだ。

「え…… つ、付き合っていたんですか?」

「あ? 元じゃねぇよ。今はこいつがちょっと拗ねてるだけだ。姫は絶対お前みたいなやつなんか好きになんねぇから」といい、「お前気持ち悪いから消えろよ」と僕を押した。

「か、関係ないですよ」

「は? なんつった?」

「あなた達のせいで、宮園さんが嫌がってるのは明らかなんだから、どうみたってあなたが消えるべきだ」

「なんだお前」と胸ぐらをつかまれる。ドーパミンの影響だろうか、それとも元彼というあまりのショックのせいだろうか、恐怖は感じなかった。

「暴行ですね。あなた僕と歳かわりませんよね、学校調べてこのこと言いますよ」

「勝手に言えよ!」と鼻息と口調を荒くする。

「あの、お客様、店内で喧嘩はおやめください」

 店員がナイスタイミングで間にはいる。

「外でろよ」と男は興奮しているが、僕が「店員さん警察呼んでください」というと男は手を離し宮園さんの方に体を向ける。「姫…… 本当、俺が悪かったから連絡返してくれ。お前がいないとだめなんだ。連絡待ってるな」と、ふざけたお願いをしたあと僕の方を向いて「お前許さねぇから」と悪役さながらの捨て台詞を吐いて店からでていった。

「海斗……君、ありがとう……大丈夫?」宮園さんは泣きそうな顔をしている。

「僕は全然大丈夫です。僕こうみえても絡まれることよくあるんですよ、慣れっこです。あ、そうだそろそろ学校戻りましょう。いつまでもここにいると学校で噂になっちゃいますから」

「海斗君、あのね…… 」宮園さんがなにかを言おとしたが僕は聞きたくなかった。

「そうだ!僕が先に戻るんで宮園さんは後から保健室にいたと言って戻ってきてください。それでなにかいわれたら先生には僕から話して宮園さんは絶対大丈夫なようにするんで」となぜか宮園さんにまで敬語になっていた。

 僕の口からいつもはなかなかでてこないくせに、次々と言葉がでてくる。なぜなら、話すのを辞めると僕は泣きそうだった。

 僕なんかじゃ、宮園さんとつりあわないなんてことはわかっていた、でも現実をみないように目をそむけ、この時間がずっと続けばいいって思っていた。

 さっきまで甘かった僕の口の中のアイスは頼んでいないはずのベルギーチョコのようにほろ苦くなっていた。

読んでいただきありがとうございます

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