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季節をこえて君といたい  作者: 木幡慎一
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第三話

「姫奈!早く降りてきてご飯食べなさい!」

「んー、いまいくー」と母から夕飯の呼び出しに適当な合図ちで反応する。

 なぜ世の中の母親は子供の唯一の安らぎの時間を邪魔するのだろう、とまるで世の中全ての親がそうであるかのように決めつける。

 作ってくれるのはありがたいけど、私にだってタイミングがある。ようやく、友達のSNSをまわり、適度に反応する作業や正体不明の男子からの下心満載のメッセージを手当り次第に消して終えて、これから映画でも見ようと思っていたところだったのに。不満に思いつつも、結局は食べなかったら食べないで色々言われるから、と仕方なくリビングへと向い食卓についた。

「やっときた。あんたねぇ、お父さんもずっとまってたのよ! もう少し早くこれないの?」

 また始まった。食事の前の説教だ。

「うーん」

「もう高校生なんだからしっかりしなさいよ。お父さんからもたまには言ってよ!まったく」

 お母さんは怒り口調でいただきますといって不満げに食事をはじめた。それに続き、私もお父さんもいただきますと手を合わせ食べはじめる。

 宮園家ではこれが、日常だった。正確には日常になった。

 私には三歳上の姉がいて、いつも姉が母と私の間をとりもってくれていた。その姉が去年から大学に行き、一人暮らしをしているせいで、母の小言がダイレクトに私に直撃している。

 お母さんは口うるさく私に注意するけど、父は無口で、怒りそうな雰囲気は常にあるけど怒られたことが1度もない。

 食事を取り始めて数分が経過し、母が会話をはじめる「あんた、学校はどうなの?」

「んー、楽しいよ」

「楽しいのはいいけど、勉強はちゃんとしてるの?」

「お母さん!食事中に勉強の話しはやめてよ!ご飯が美味しくなくなる!」

 母は「まったく…… 」といって呆れた顔をした。

「そういえば」と父が口を開いた。

「なに? お父さん」私は少し驚いた。父が食事中に口を開くなんてめったにない。

「お前、大学いくのか?」

 その発言には、母も目を丸くした。なぜなら父は私の進路について今まで1度も口を出したことがなかった。姉が大学に進学する時や私が高校に入学する時もまるで他人の子供かのように無関心だった。

「え? どうだろ…… まだわかんないかな…」

「今のままの成績じゃ無理ね、お姉ちゃんは頑張ってたわよ。あんたも頑張らないと」母がここぞとばかりに軽快に口を挟む。

「わかってるよ」今の私にはこれしか言えない。テーブルに置いた携帯が光り画面を見ると、友達の沙也加からのメッセージが表示された。

「げっ、明日掃除当番だ。最悪」と私はうんざりする。

「食事にまで携帯もってくるのやめなさい! それと……」と母がいづらそうに口ごもる。

「なに?」

「あんたまだ、あの男から連絡きてるの?」

 箸が止まった。母のいうあの男とは、中学生の頃に少しの間だけ付き合い、すぐに別れた元彼氏のことだ。私はそいつからストーカーされていた。

「ごちそうさま……」私は箸を置いて自分の部屋に戻ろうとすると「ちょっと…… 」と母は心配そうな顔で引き止めようとしたが、父が「お前も余計なこと言うな」と私の顔色みて察してくれたのか母を止めてくれた。

 震えを抑えながら自分の部屋に戻る「もうやだ、最悪…… 」

 思い出すだけで泣きそうになる。怖い……。

 今は何度も電話をしてきたアイツを思い出すから携帯はみたくない。でもなにかをして気分を紛らわせるために、明日の準備でもしようとカバンを開けると、教室で拾ったぐちゃぐちゃに丸められたノートの切れ端がでてきた。

「あ、これ、教室でひろったやつ…… 捨てようと思ってわすれてた…… 」

 不意に、丸められたノートを広げて中をみると私は吹き出すように笑った。

「え? なにこれ? あみだくじ? しかも私の名前…… あと…… 海斗さく……? 誰だっけ?…… 」

 ノートには、上の方に大きく、「海斗作、宮園さんと両想いになる確率」とタイトルのように書かれていた。

 そして、あみだくじのそれぞれの先には、50%から100%までの数字が書いてある。

 なんで、50%からはじまってんの? しかも確率なのに運任せのあみだくじで決めてるし、とツッコミどころ満載だった。

 気がつくと私は一人笑っていて、震えも止まり、ストーカーのこともすっかり頭から消えていた。気になってさっきメッセージがきていた沙也加に電話をかけてみると、沙也加はすぐにでてくれた。

「沙也加?…… 突然ごめんね」

「ううん、大丈夫、どうしたの?」

 驚きと心配が入り交じった声だった。沙也加とは中学校の頃からの同級生で親友だけど、私が沙也加に電話をするのは珍しい。基本的には終わる予定のないメッセージ、つまりスタンプの応酬や世間話し程度のやりとりが基本で電話をかけることはめったにない。それもあって沙也加は凄く心配そうだった。

「あのさ、沙也加、海斗作君って男子知ってる?」と聞くと沙也加の緊張がほぐれ声のトーンが上がる。

「男子? 海斗作? うちのクラス?」

「うん、多分…… 」

 いや、と知らなそうな反応をしたあと、数秒間を開けて、あ!と沙也加が声をはりあげる。

「 もしかしてあの、がり勉オタクの荻野じゃないかな!たしか海斗って名前だったよ!あいつがどうかしたの?」

「え? でも、あ…… ククッ ううん、なんでもないの。ちょっとね、ククッ」海斗作という名前ではなく海斗、作だと気づき笑い声が漏れる。

「ちょっと何笑ってんのよ。教えなさいよ!」

「ううん、本当になんでもないの! それよりよくわかったね! 沙也加は海斗君と関わりないんでしょ?」

「あー、あいつが私に言ってきたんだよね。明日は掃除当番なのでよろしくお願いしますって」

「え? そうなんだ」

「姫には言いづらいんだけど、明日私ちょっと用事がありましてですね……」

「あー、その感じはまさかサボる気ですね?」

「ごめん、姫! 明日は彼氏とデートなの!遅れたら嫌われちゃう!この埋め合わせはちゃんとするから!お願い!」

「もう、しょうがないな……」

「あのオタクには体調不良とか適当に言っておくから!」

「はいはい、わかりました!彼氏さんと楽しんできてくださいな」

「ありがとう!愛してる!おやすみ、姫!」

「まったく……」と私はため息をはいた。

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