第十八話
宮園さんが出ていった後、僕はお姉さんと二人きりになった。
本来なら泣いて家を出ていった宮園さんを追いかけなくてはならないはずが、お姉さんの元にとどまっている。
なぜここにいる。何かを期待しているのか僕は……
頭の中で変な妄想がよぎる。
宮姉「やっと二人きりになれたね」
僕「あぁ、でもいいのか? こんなこと……」
宮姉「仕方ないじゃない。ああでもしないと二人きりになれないんだから」
僕「そこまでして二人きりになりたい理由は?」
宮姉「それを私に言わせる気?」
僕「……これが大人の女性の魅力なんだね。お手柔らかにお願いします」
といった展開を頭の中で繰り広げていると、「海斗君!」と僕を呼ぶお姉さんの声で現実に戻る。
「は、はい!準備はできてます」
目を閉じて緊張で身体をかたくする。
「え? なんの準備?」
しまった……
お姉さんが笑顔なのが救いだが、僕はなんて最低なんだ。宮園さんが大変な時によからぬ展開を期待するなんて。
罪悪感に押しつぶされそうになりながらも慌てて話を切り替える。
「す、すみません。あの…… さっきの事なんですけど。僕と二人で会おうとした理由を聞いてもいいですか?」
「うん、そうだね、ちょうど姫もいなくなったし」
お姉さんは遠い目をしている。どこか寂しげな表情だ。
「姫奈さんには話せない内容を僕に?」
「うん、私、結婚しようと思ってるの」
「え?! 結婚? ですか?」
「そう」とお姉さんは頷いた。この話は本当のようだ。お姉さんの性格からして冗談を言うようには見えない。
「おめでとうございます。でもなぜ、それを僕に?」
「姫があんなに楽しそうに誰かの事を話すの初めて聞いたんだよね」
お姉さんは優しく微笑んでいる。
「そんな人が……」誰だろうと真剣に考えていると、あははとお姉さんは笑った。
「本当面白いね、君の事にきまってんじゃん」
「え?! 僕ですか?」
「うん、姫は私と電話する時いつも君の話しばっかりしてるよ」
「な、なんかすみません」
「ううん、ほらあの子男見る目ないでしょ? だから最初は心配してたんだけど、今日海斗君と会って安心した」
「恐縮です」
「だから海斗君にこれからも姫と仲良くしてほしいなって」
「も、もちろんですよ。こっちが姫奈さんにお願いしたいくらいです」
「姫のことよろしくね」
お姉さんの表情や言い回しに違和感を感じた。
「あの、結婚ってことは」
「うん、大学辞めてこの家出ていこうと思ってる。だから……」
やっぱり、と嫌な予感が当たる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんな僕と宮園さんはそういう関係でもないですし、それに今すぐ結婚しなくても」
「妊娠……」
「へ?」
「妊娠したの……」
お腹を摩りながらお姉さんは母の顔になっている。
「お、おめでとう……ございます」
「あはは、無理に祝福しなくていいよ。それでね、私大学辞めて彼の家に住もうと思ってて」
僕はお姉さんの顔を見ることができずうつむく。
「姫奈さん…… きっと悲しみますよ……」
「そうだね…… でも君がいるから大丈夫」
「僕がいるから?……」
なんだよ、それ……
「勝手ですね」と思わず口からでる。
「え?」お姉さんは目を丸くして驚いた表情を浮かべ僕をみる。
「僕がいるからなんなんですか。僕はあなたじゃないから姫奈さんの友達にはなれても姉にはなれないんです。姫奈さんにとってあなたはかけがえのない家族であり、たった一人の大切なお姉さんなんです。もっと…… 向き合ってあげてください。姫奈さんの悲しむ顔を想像したら僕は今のあなたを素直に応援できません。これが僕の素直な気持ちです」
僕はこの空間に耐えきれず立ち上がり、「今日はこれで」と言って宮園さんの家を出た。
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