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季節をこえて君といたい  作者: 木幡慎一
2/22

第一話

僕は一人っ子で、家には専業主婦の母と、毎日決まった時間に帰ってくる公務員の父がいる。一人っ子だからといって甘やかされることはなく、どちらかといえば父は厳しい方だと思う。

「学生の本文は学業だ、なにをおいても学業を優先させなさい」これは父がことある事に僕にいう言葉だ。

 そして、僕はこの言葉が嫌いだった。まるで、勉強以外は無意味で、お前はそれだけしてろと言われているような気がしたからだ。

 学校での成績が下がれば、父は外出することさえ許さなかった。「そんなことしている暇があるなら勉強しろ。成績が戻るまでは余計なことはするな」とまるでなにかに取り憑かれているように僕に勉強を強制した。なんで母さんはこんな父と結婚したんだろう。勉強しろと言われる度にそう思った。母になぜ父を選んだのか直接聞いたこともあった。

その時母は、なんでだろうね、と少しはにかんだ表情を見せて首を傾げた。自分が選んだにも関わらず理由がわからないなんてことがあるのだろか、とその時の僕は思う。

 この世の全ての現象には必ず理由がある、と物理の先生がカッコつけていっていたが、理由もなく生まれる現象もあるということなのだろうか。


 週末の休みが終わりに近づくと、僕はそわそわしはじめる。この週末、僕はうわの空になっている時間が人生で1番多かったと思う。理由はもちろん宮園さんだ。

 夕暮れのあの日、僕は宮園さんからデートに誘われたんじゃないか、そんな恐れ多い考えが頭から離れなかった。

 だとすると、や、もしかすると、を繰り返し様々な妄想を繰り返したが、結局答えにはたどりつかず、僕の頭はショートしかけていた。

 宮園さんはもちろん学校でも人気者で、同じクラスの男子なら1度は好きになっていないと生物学的におかしい、と異議を唱えたくレベルだ。

 そんな宮園さんが、クラスでも目立たず、休み時間はノートに恋愛あみだくじや、ただ真面目に勉強だけしている比較的イケてないとされる部類の僕をデートに誘うはずがない。冷静になればなるほど僕の勘違いで馬鹿げた妄想だということがわかる。

 しかし、あの日言った雪を見に行こう、というのは文面的に誘っていると解釈しても差し障りないのではないか。

 結局、そんなことばかり考え、週末最後の休みにもかかわらず僕は徹夜で過ごす事になる。


そんなことないよ!、教室をに入ると宮園さんがクラスの女子に囲まれていて何かを否定していた。

 僕は自分のことじゃないだろうかと席に座りチラチラと観察する。

「あー、姫照れてる!アクションかけちゃいなよ、あいつ絶対、姫のこと好きだって。私の女の勘がそういってる」

「え?!……」と僕はわかりやすく反応してしまう。

 しまった、思わず声が漏れてしまった、と思った時にはもう遅かった。姫奈さんを囲んでいた女子達が一斉に僕の方へ視線をむけている。

 目を丸くして驚いた表情をしている人もいれば、不振がり、蔑んだ目つきで睨んでいる人もいる。

 その蔑んだ目つきをしている色の明るい髪の頭の弱そうな女の子は僕を数秒凝視したあと、ふっ、と呆れたように口角をつりあげる。

「なに? あんた盗み聞きしてたの? ウケるんだけど。安心しなよあんたみたいなガリ勉が姫の事好きだろうが、姫とどうかなるなんてありえなすぎて興味ないから」

 そういうと囲んでた他の女子たちはまるで息を合わせたように同じタイミングで笑った。

 最悪だ。この言葉しか今は思いつかない。なにを浮かれていたんだ僕は。今すぐ教室から飛び出してそのまま消えてしまいたかった。

「あ!海斗くん!おはよ!」宮園さんは僕に気づき笑顔で手を振った。その一言で周りの女子達が驚いている。クラスの中もザワザワとし始めた。

 しかし、1番驚いたのは僕だ。

「えっ?! あ、あの……」

 なんとか、「おはよ……」と自分でも聴こえてるのかわからない声で呟き、すぐに目を逸らした。

 宮園さんは周りの反応なんて気にせず、僕に手を振ってくれたけど、僕は手を振り返す勇気なんてなかった。

 素っ気ない僕の反応を見てクラスの男子や女子達が安堵していた。

「だ、だよね。びっくりした!姫!だめだよ! 誰にでもキラースマイル振りまいたら!あんたは可愛いんだから。だからあんはオタクにも勘違いされちゃうんだよ!」

 そうだ。僕の勘違いだ。恥ずかしすぎて今すぐ消えてしまいたい。この空間が耐えきれない。気がつくと僕は教科書をカバンにしまい、教室を飛び出していた。


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