第十七話
傾いた氷の音が部屋に響いた。嫌な静寂が空気を歪ませている。決して暑くはない、僕は額を滑る汗を感じながら、涙目になった宮園さんの顔を見る。
「お姉ちゃんはいつもそうだよ!肝心な事は何一ついわないじゃん。大学を決めた時だってそうだし、家を出てく時だって」
「私はあんたのために言わなかったの」
「私のため? なにそれ? 私のせいだっていうの?」
なぜこうなった……
僕は二人の空間で、まるでただの置物ように気配を消している。
「そんなこと言ってないけど、私は姫にとって必要だと思うことは伝えてきたよ」
「私にとって必要ってお姉ちゃんが勝手に決めないで! もういい!」
僕の横でソファーが弾む。気配をけしていてもわかる。宮園さんは立ち上がり部屋を出て行こうとしている。
「あの…… 宮園……さん? 大丈夫?」
こういう場合、なんて声をかけていいのかわからない。僕は薄く浮かんだ頭の中の言葉を無理やり口にだした。
「ほっといて……」
涙目と混ざったような震えた声が微かに聞こえた。
お姉ちゃんは自分の考えや思ったことを口に出さない人だ。それが私にだけなのか、他の人に対してもなのかはわからないけど、私が見てきた限りでは誰に対しても心の内を見せていない。
でも海斗君に対しては今までと様子が違った。自分の事を楽しそうに口にする姉を見て心が重くなる。
「そんなことないですよ。お姉さんのほうこそ! いや、お姉さんだからこそですって!」
なんの話しかはわからないけど、海斗君は顔をニヤつかせ浮かれた声色でお姉ちゃんと話している。
「姫はどう思う?」
お姉ちゃんは多分そう言った。
「え? なにが?」
「なにって、海斗君が実はモテてるかどうかだよ」
「……しらない」
「どうしたの? 姫」
「いいから、ほっといて」
どうしたんだろう私、本当は普通にしたいのに口から出る言葉は嫌な言葉ばっかり。
嫌だな……
お姉ちゃんも海斗君も心配そうに私をみている。海斗君はみているというより固まっている。
「お姉ちゃんさ、海斗君にはそんな楽しそうに話すんだね……」
「え? ちょっと何言ってんの? あ、もしかして嫉妬?」
「ちがう! じゃあいうけど……」
気づくと私はお姉ちゃんを責めるように思っている事を口にだしていた。
嫉妬? そうかもしれない。でも、海斗君と仲良くしているからとかそんなんじゃない。お姉ちゃんが私には話してくれない内容を海斗には話している。私にはそんな風に話してくれたことないのに……
「あの…… 宮園さん、大丈夫ですか?」
今の私をこれ以上海斗君に見られたくない。
「ほっといて」と言って私は部屋を出た。