第十六話
大変遅くなり、申し訳ありません。
投稿頻度は未定ですが、完成に向けてまた書き始めていこうと思います。
読んでいただけたら幸いです
学校の最寄り駅から電車で二駅、そこから数分歩きほどほどに栄えた街を抜けると、角張った家やアパートが立っている。
その並びには一軒だけ明らかに違和感のある家が建っていた。外装は洋風で白を基調とした壁にどこか品のある窓や、馴染みのない柱は中世ヨーロッパ風でもあり、まるで映画に出てくるような高貴な雰囲気がその家からでている。
「凄いね、この家……」思わず口にする。
「そうかな…… なんか、恥ずかしいな……」
木を隠すなら森の中という言葉があるが、美しすぎるものには通じない言葉のようだ。宮園さんと、この家の漂う気品を隠せる場所などどこにもないだろう。
「ちょっと待ってて、お姉ちゃんいるか確認してくるね」
どうやら僕はここで一旦ストップだ。秘密の花園すなわち宮園HOUSEへの扉はお預けということになり、僕は少しほっとしていた。
「うん」とだけ答えてお姉さまとの会話のシュミレーションを頭で練るが、だめだ、とすぐに諦める。
シュミレーションなど無意味だ。なぜならお姉さまの性格を僕はまだ知らない。
それなら、と作戦を考える。
へりくだり作戦なんかはどうだろう。つまりゴマすりだ。老若男女問わずへりくだられて嫌な思いをする人はいないはずだ。それどころか、どれだけ歴史を遡ってもこの作戦で地位を築き財をなした偉人や、いつのまにかリーダー的なポジションにされ、なんらかの功績をあげた人だっているはずだ。
この作戦でいこう。僕が覚悟を決めると、宮園さんの家の扉が開いた。扉を少しだけ開けて顔をだし手招きをしている。まねきねなんとかよりもご利益のありそうな手招きに僕の足は自然と進む。
「お邪魔します」そう言って玄関に入り靴を脱ぎ深呼吸をした。
「海斗君緊張してる?」
少し照れくさそうに宮園さんは僕を見る。
「してないといったら嘘になるかな。こういうの初めてだし……」
「初めて? 本当?」
宮園さんは何故か嬉しそうにしている。不思議な反応に僕は混乱する。しかし、動揺を出さないよう自然に返答する。
「は、初めてっていうのは宮園さんの家にくることがじゃなくて、仲良くなった異性に家に招かれる事がって意味で」
僕は正確に情報を伝えると「え? うん……」と宮園さんは何故か困った反応をする。
「き、綺麗な家だよね、いい匂いだし」
慌てて話題を変えると宮園さんに笑顔が戻る。
「あはは、そう? ありがとう。海斗君って本当不思議だよね?」
「そ、そんなことないよ」と返し僕は気が遠くなった。
なぜなら僕らはまだ玄関だ。この先いくつ関門をクリアすれば部屋に入れてもらえるのだろうか。
突然ガチャっと側面に位置した扉が突然開く。
「お、君が海斗くん? 姫から話しは聞いてるよ」
「お姉ちゃん遅い!」
宮園さんの「お姉ちゃん」の言葉を合図に僕は作戦を実行する。
「初めまして、姫奈さんのお話しからお姉さまが才色兼備、眉目秀麗であることはすぐにわかりましたが、僕の想像は甘かったようです。お姉さまの美しさを言い表す言葉が僕の知っている言葉ではとても……」
「ちょっと海斗君何言ってんの、やめてよ」宮園さんが恥ずかしそうに僕の肩を叩き、それを見たお姉さまはあはは、と高らかに笑う。
僕の言った言葉は決して大袈裟ではなく、お姉さんは本当に美人だ。鋭さのある目付きに意志の強さを感じさせる眉毛や表情、姫奈さんの印象が良家のお嬢様ならお姉さんは美人な秘書やキャリアウーマンの社長といった印象だ。
罵倒されてみたいと思うのは僕だけではないはずだ。
「なにこの子、姫の言った通り面白いね」
「もう、やだぁ」と宮園さんは顔をおさえ赤面していた。
「二人ともいいから部屋入んなよ」
宮園さんのお姉さんは僕らをリビングへと通した。
革製のソファーに大きいテレビ、白く綺麗な花の入った花瓶が目に入る。僕の実家とは対極に位置する洗練された部屋が目の前に広がっていた。
座って楽にして、とソファーに促される。
「あ、そうだ海斗君何飲む? お茶でいい?」
「は、はい。お、お願いします」
「そんな畏まらないで、もっと気楽にしていいから!」
僕は少し行き過ぎたへりくだり作戦を反省しつつ、高鳴る鼓動を落ち着かせようと必死だった。
お姉さんが冷蔵庫を空けるとすぐに「お姉ちゃん、私がやるから座ってて」と姫奈さんがすぐに駆け寄り声をかける。
「え?あんたがそんなこと言うなんて」とお姉さんは目を丸くして驚いた。つづけて「海斗君、毎日家にきなよ。だって姫ったら……」
「あー、もう。うるさい!持ってくからお姉ちゃん座ってて!」
お姉さんの話しを遮るように宮園さんは声を荒らげる。
「はい、はい。おーこわっ」そういってお姉さんはそそくさと僕の隣りに座った。そして急に顔を接近させ僕は動揺する。
「え? えっと……」
これは夢だろうか。
息遣いが聞こえてきそうな距離だ。緊張で僕は頭の中が真っ白になっていた。お姉さんの唇は赤く火照った僕の頬を掠めるように通過して僕の耳元に位置を落ち着かせる。
「海斗君……後で、二人で会おう」
吐息まじりの艶のある声が脳に靄をかけ痺れさせる。
「そ、それは……」