十四話
遅くなり申し訳ありません!
度々遅くなりますが、これからも続けていくのでよろしくお願いいたします
どこかの海沿いに建つ比較的新しめにみえるレストランでレポーターの女性は、恍惚な表情を浮かべている。ふん、と鼻息を荒くし、目の前にあるパイ生地でできたミルフィーユ状の料理を興奮気味に絶賛していた。
「これは凄く美味しいです!私、食は味ではなく、食感が大事だと思っているので私にとってこの食べ物はベストです」と近くにいるシェフを苦笑いさせるコメントを残した。
中継先からスタジオにカメラがもどると、レポーターのコメントをきいた男性タレントが「味よりも食感が大事は失礼でしょ! というか料理は絶対に味の方が大事でしょ!」と独特の口調を強める。
両親不在な家のリビングでテレビを見ていた私は、女性レポーターのコメントの善し悪しは抜きにして、食感が大事というのは激しく同意せざる終えない。そして、まさに男性側と女性側でレポーターのコメントに対する意見が割れたのを見て、女と男ではこうも違うものか、と私はそのテレビを見ながらじゃがいもを薄切りにして揚げてあるスナック菓子を二枚に重ね口に運んだ。
男は未知で謎の生き物だ、と改めて実感する。味覚だけでもこれだけ感覚が違うのだから、考えや想いなんてわかるわけがない。
私は海斗君が今だに、約束したアイスを奢ってくれないことを根にもちながら、今度は三枚に重ねたお菓子を口にいれ不満を晴らすかのように食感を楽しんだ。
スナックが残り少なくなり、もったいなさを感じ一枚ずつ食べはじめた頃、スマホが揺れた。
「お姉ちゃん?! どうしたの?」
珍しく姉からの電話に驚く。
「どうもしないよ!ふと姫がちゃんとやれてるのか気になって電話してみただけ」
私はこれ以上ないくらいのだらけた格好と、雑に開けられたお菓子の袋を見て気まずくなる。
「も、もちろん、ちゃんとしてるよ!」
「本当に? どうせテレビ見ながら気の済むまでお菓子でも食べてたんじゃないの?」
エスパーかよ、とツッコミを入れたくなるほど鋭い指摘だった。血の繋がった姉に隠し事は通用しないらしい。
「そ、そんなことよりそっちはどうなの? 大学ってやっぱり楽しい?」
「私は大丈夫!大学は…… 楽しいよ。姫の方は学校楽しい?」
姉の反応を聞いて、やっぱり、と私は少しの寂しさを感じた。姉は昔から私に自分の事を話したがらない。いつも自分で抱え込みそれを人に相談することはなかった。きっとなにかあったのだろうと姉の異変に気づきつつも姉の性格を考え、「うん…… 楽しいよ」と余計なことは聞かずに答えた。
「それならよかった! それと姫、あんた例の男は大丈夫?」
「例の男?」
「ほら、あのストーカーの。大丈夫なの?」
「あー、そんなのもいたね。うん、全然大丈夫!」
「そ、そんなのって…… あんたしつこく付きまとわれてたし、それでかなり迷惑してたでしょ。本当に今は大丈夫なの?」
予想外だったのか、私の軽い反応に姉は珍しく動揺していた。そういえば心配かけた姉に進展を細かく話していなかった、と思い「うん、本当に大丈夫なの!クラスの男の子が助けてくれたんだ」と簡単に説明する。
「え?! そんな子がいたの? 彼氏とか?」
姉の声のトーンが一段上がった。
「ううん。ただのクラスメイト」
「ただのクラスメイトが助けてくれる? その子はきっと姫の事好きなんだよ!じゃなきゃおかしい!」
「す、す、好きじゃないよ! なんでおかしいの!」
「だってストーカー男は相当タチ悪いって言ってたじゃない! そんな危ない男からあんたを救い出すなんて好きとしか考えられない!その子只者じゃないよ、絶対!」
「うん、好きかどうかはわからないけど、只者ではないって姫も思う。何考えてるかわからないし」と私は笑い混じりに言った。
「どんな子なの?」と姉に聞かれたのをきっかけにアイスの話題やストーカー男の一件など、気がつくと私は姉に海斗君を熱く語っていた。
一通り話を終えると姉が「会わせて!」と声を弾ませる。
「え?……」
「だから、その子に会わせて! 姫を助けたって子」
「え? なんで?」
「姫が嬉しそうに話すその子に興味がある!」
「今話した通りの子だよ。会わなくても大丈夫!」余計な事を言っのたかもしれない、と後悔しはじめる。
「そうだ!来週帰るからその子うちに呼んでよ」
「え?! どうして? 大学は?」
「大学は大丈夫! 久しぶりに姫の顔も見たいし!」
「お姉ちゃんが帰ってくるのは嬉しいけど、海斗君を家に呼ぶのは絶対だめ!」
「どうして?」
「は、恥ずかしいから……」
「恥ずかしいってあんたまさか…… 変な事考えてない?」
「ばか! そんな事考えてない! お姉ちゃん最低!」
「あはは、冗談だよ!お姉ちゃんの一生の頼みだと思ってお願い!」
「えー、うん…… じゃあ、海斗君にきいてみるけど……」
「あんたが好きって言うのは向こうは知ってるの?」
「す?! 好きじゃない!」
姉はよろしくね!と強引に頼んで電話を切った。姉が変な事を言ったせいで私の頭中が少しの間海斗君に占領される。
姉のせいでこのままだと海斗君に会うだけでも緊張してしまう。こんな状態でみんなが見ている教室で話すなんで絶対に無理。なんとか強引にでも二人で話せる場所に連れ出さないと……。
「もう、最悪…… 」
私は気持ちを重くして、再びお菓子を手にとった。
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