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季節をこえて君といたい  作者: 木幡慎一
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十三話

「海斗くん、ちょっといい?」

 四時間目が終わり昼休みに入ると、暗算で何桁まで計算できるのか自分の限界を見極めようとしていた僕に宮園さんが恥ずかしそうに話しかける。

 この学校で一番人気があるといっても過言ではない美少女が、女性とは無縁と思われてきた僕に話しかけている光景にクラスがざわつく。もちろん教室中の視線は僕と宮園さんに集中している。そんなはずはないと不安そうな目で僕をみている男子生徒や、僕に弱みを握られているのではと勘違いして僕を睨みつける女子生徒など反応は様々だ。

「う、うん。どうしたの? というか宮園さん大丈夫?みんな見てるけど」

 多少の優越感は感じながらも、僕は宮園さんの立場が心配になった。

「うん、凄いね…… 海斗君と話すのは全然大丈夫なんだけど……」

 やはり人前で僕と話す事に抵抗があるのだろうか、宮園さんは話しずらそうにしている。宮園さんには元彼の一件以降、気を使わないつもりだったが、やはり多少は配慮すべきかもしれない、と考え「あの…… 放課後とかの方が……」と提案する。

 クラス中の視線を浴びている宮園さんは深呼吸したあと意を決したかのように「ちょっと!こっちきて!」と僕の手を掴み強引に教室から連れ出した。

 その様子をみて「なに!!」と声を荒らげ立ち上がる男子生徒や悲鳴をあげる女子生徒をみて僕は改めてクラスで自分の立ち位置が相当低かったのだと再認識し落胆する。

「ここに入って」と僕は言われるがまま美術室にはいる。

 人気のない場所まで宮園さんに連れられ僕は鼓動を早くする。

「ど、どうしたの?」

「あー緊張した!ここなら落ち着いてはなせるね」

「あ…… ごめんね。嫌な思いさせて、僕のせいで気を使わせちゃったよね…… 」

「え、違う! そうじゃないの! 海斗君と話すのを見られるのが嫌だったわけじゃなくて…… あの、海斗君にお願いがあって」

「お願い?」

「うん、断られるかもしれないし、人前ではちょっと恥ずかしくて」

 どんなお願いかしらないが、僕が宮園さんからの頼みを断るわけがない。

「そ、そうなんだ、それでお願いって?」

 緊張した様子で宮園さんはそのお願いを僕に伝え、聞いた僕は時が数秒止まる。

「ん? み、宮園さん…… 今な、なんと?」と、なんとか口を開いた。これでも最大限に平然を装い聞き返したつもりだ。すると、宮園さんは顔を赤らめ、恥じらうように「だから!きてほしいの…… 」と僕が求めていた会話の全容をいわずに意味深ともとれる発言をする。もし、僕がここで鼻息と呼吸を荒くしながら、喜んで!と即答すれば、変な誤解を招きかねない。

 はやまるな!ここは慎重に確かめるべきだ、ともう一人の僕も念をおしている。僕は自分に従い「えっと…… 来て欲しいって、その…… どこへ?」ときいた。僕の経験上、勘違いこそが黒歴史を生む種になることはしっている。

 しかし、最初に聞いた発言が勘違いではなく、僕の認識が間違っていなければ今この程度の動揺だけですんでいるのはむしろ幸運といえる。

「だから!今日海斗君に、姫の家に来て欲しいの! 恥ずかしいから二回もいわせないでよ!」

 二十回でも言って欲しい。むしろ、文章にして額縁にかざりたいくらいだ、と僕は感動する。

 間違いない。と僕は確信をえる。夢か奇跡かどうやら僕は宮園さんの家へ招待されている。

 十月に入り、外は肌寒く、冬季もすぐそこまできているというのに、僕には春が訪れようとしているのかもしれない。

「今日ね、うち親いないからできれば今日がいいな…… 」

 なんだって?

「い、いないって、それって…… その、だって僕達の関係は清らかなはずで、そんな……」

 思春期真っ盛りの男女が一つ屋根の下で微笑み合うと、その後神秘的な展開に発展するという逸話をネットで見た事がある。

「ちょっと! 変な誤解しないで! 海斗君には私のお姉ちゃんとあって欲しいの」

「おね、お姉ちゃん? ど、どうして僕が?」

「それは…… お姉ちゃんに海斗君の話ししたらなんか気にいっちゃったみたいで、それで話しの流れで会ってみたいってことになったの…… ごめんね、変なことに巻き込んじゃって、私が余計な事いうから……」

宮園さんは申し訳なさそうにそう説明した。

「そ、そうなんだ…… 僕は大丈夫だよ」

「本当に?! ありがとう! じゃあ放課後、学校の前で待ってるね!」

「うん…… あ、待って宮園さん、放課後すぐだとまたみんなに見られちゃうから、場所変えたほうが……」

「大丈夫! 私は別に見られたって平気だよ! 海斗君は嫌?」

 「宮園さんがいいなら僕は……」とうつむきながら承諾した。うつむいたのは、照れと嬉しさでにやついている顔をみられたくなかったからだ。

「おっけー! きまりね! じゃあ、放課後待ってるね!」

そうして僕達は別々に教室へと戻った。「宮園さんは教室帰ろ」と僕を誘ったが、二人一緒に戻るのは僕のほうが恥ずかしくなり、「トイレに行ってくるんで先に戻ってください」といって戻ってもらった。そして、僕はトイレにはいかず、授業が始まる時間ぎりぎりまで宮園さんの余韻に浸る。

読んでいただきありがとうございます!

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