第九話
アイス屋で元彼のストーカーに会ってから二週間が経った。あの日から海斗君は私と目を合わせてくれなくなり、会話もどこかよそよそしくなっていた。
「だから、あんたが気にする事じゃないって」
気にする私を、親友の沙也加は電話口でなだめる。アイス屋の一件を話し、事情を知った沙也加は落ち込んでいる私を気づかって時折電話をかけてきてくれていた。
「だって…… 」と私は声のトーンを落とし、お菓子を摘む。
「あんな、オタクに嫌われたって別にいいじゃん、あんなののどこがいいわけ? あんたアイツのこと好きなの?」
「す、好きとか、そんなんじゃないよ。ただ、海斗君を傷つけたままで終わるのが嫌なだけ」といい自分の顔が熱くなる。
ふーん、聞いてきたわりに沙也加は興味無さそうに反応し「だってそれは姫が悪いわけじゃなくて、あのストーカーのクソ男のせいでしょ? マジでむかつく」とクソ男の部分に怒りをこめた。沙也加にとっては海斗君と私の関係よりも元彼のことに怒りがおさまらない様子だった。
「うん…… 一応そうなんだけどね……」と私は電話口で頷く。
「あのオタクもそれはわかってるって! それより、姫!聞いて!私の彼氏の友達がこの前姫のこと見て一目惚れしたらしくてアンタの連絡先知りたがってるんだけど教えちゃダメ?」
「えっ? ダメだよ!私その人のこと知らないし」
「あんたねぇ、最低最悪クソ男にいつまでも寄りつかれるのはあんたに男っ気がないせいでもあるんだよ!」
「男っ気ってなに」と私は笑う。
「笑い事じゃないって! だいたい姫みたいな美人に彼氏の一人や二人いない事のほうが不自然なんだから」
「一人は二人って、私はそんな男好きじゃありません!」
「いいから、連絡とってみなよ!見た目も結構イケてるし、他校の女子からも人気らしいから、あんたにピッタリだって」
「えー、うーん」と乗り気じゃない私の反応を聞いて沙也加はため息を漏らす「はぁ、わかった姫。あんたの好きにしなさい。でも、あんたがこれ以上落ち込むようなら私が無理矢理でも男紹介して、あのオタクしめるからね」
「しめるって沙也加怖すぎ。可哀想だよ」と私はまた笑い、「沙也加…… ありがとう」と沙也加の優しさに感謝を伝えた。
「本当なぞだわ、なんであんたがあのオタクを気にしてるのか」
「うん…… なんかね、不思議なんだ。海斗君って」
「私からみたらあんたが一番不思議だよ。学校入ってから何人にも告白されてるのに全員断ってるし、そんな姫があのガリ勉オタクを気にかけるなんて、絶対あいつ一生分の運を使い果たしてるよ。この前の休み時間なんて、数学の参考書見て一人で笑ってたんだよ? あいつはヤバいって」
それは確かにヤバそう、と内心思いながらやはり笑ってしまう。
「あはは、海斗君らしいね。沙也加も海斗君よく見てるね」
「ち、違う!私はあまりのキモさに驚いて見ただけ! あ、もうこんな時間! じゃあ私そろそろ彼氏と電話だから」
「うん、ありがとう」といって電話を切った。
十月に入り、外も学校も、夏の面影は消えてクリスマスの話題がちらほらではじめていた。
「姫、あんた今年のクリスマスどうすんの?」と沙也加が足をかきながら聞いてくる。
「姫のことだからもう誰かに告白されたんじゃない?」と他の女子も集まってきて私がなんて答えるのかを気にしている。
「うーん、特に予定はないけど、でもクリスマスはさすがに早くない?」
私の発言はそんなに爆弾発言だったのだろうか、みんな驚いた顔で私をみている。
それでもピンときてない私の反応に沙也加の熱が入る。
「何言ってんの!今が一番大事な時期なんだから!クリスマス直前なんてほとんどのイケメンは彼女つくっちゃうし、今の時期はイケメン争奪戦が繰り広げられてるって!」
うんうん、と他の子達も同意している。
「そうなの?」
「そうなの!今を逃したら、クリスマスに一人の確率が高くなるんだよ!それでもいいの?」
「私別にイケメンだからって……」
「いい? 姫! クリスマスと誕生日は女にとって一年で一番女をためされる時期なの!」
「ためされる?」
「そう!クリスマスや誕生日にどういう人といるかで女の価値が決まると言っても過言じゃないんだから!」
「言い過ぎだよ、私去年は家族と過ごしてるし、イケメンじゃなくても好きな人といるのが一番幸せでしょ?」
「う、あんたこんな時に正論を…… 私が言いたいのはそんな弱腰でどうすんの! それぐらいの気構えが大事ってこと!あんたならその気になれば彼氏なんてすぐできんのに!」
きっと沙也加は私が落ち込んでいたのを気遣って早く彼氏を作らせようとしているのだろう。そんな沙也加の気持ちは嬉しいけど、私はそんな気になれなかった
「ありがとう沙也加、でも沙也加はカッコイイ彼氏いるから心配いらないじゃん」というと照れるように沙也加は口角をあげる。「あ、照れてますな、幸せそう!」と私はからかう。
「ちょっと!私は姫のこと心配してんの! 」
あっ、といって不自然に沙也加が視線をそらした。
「どうしたの?」
「あいつまた姫のこと見てたよ」といって目だけを横に向け怪訝そうな顔をしている。
「あいつ?」私も沙也加が見てる方へ視線を向けると海斗君がいた。しかし、海斗君は教科書を開いて夢中でなにかを書き込んでいる。
「あのオタクだよ!萩野!」
「海斗君が? 沙也加の勘違いだよ、だって海斗君は今私のこと…… 」と俯く。
私の落ち込んだ表情をみて「よし決めた!あとは私に任せて! 」といって沙也加は自分の席へ戻って行った。
コメント、評価お待ちしてますm(_ _)m