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幕間16S級冒険者VS魔人ルシファー


 私は氷結の乙女のアンリーヌ。

 魔王城の一階には魔人ルシファーが待ち構えていて、勇者様を魔王の下へ、そしてポーター達を別の場所に飛ばしてしまった。

「皆をどこにやった!」

 突然の出来事にシタタ・ラン軍師が慌てふためいている。

「魔王城のどこかにいますから、生きていれば会えますよ。生きていられればね」

 牙をのぞかせた魔人ルシファーが腹を抱えて笑っている。

「相手は一人だ、油断をしなければ負けはしない」

 私は先頭に立って魔剣フロストソードを抜刀した。

「皆さんは名のある冒険者だと思いますので、楽しませて下さいよ」

 十五人のS級冒険者を前にして平然としている魔人ルシファーは、背中の翼を広げてゆっくりと浮かび上がった。

 数多くの修羅場を潜り抜けてきたS級冒険者達は、各々の役割を心得ていた。

 剣士は私に続いて抜刀して、戦士は盾を構えて、魔術師は攻撃魔法や補助魔法の詠唱を始めている。

 一斉に攻撃魔法が放たれ、間髪入れずに剣士のスキルを使った攻撃が行われた。

「もっと、本気で来て下さいよ」

 長く伸ばした爪一本ですべての攻撃を弾き返している魔人ルシファーは、一番近くの戦士の盾を爪で切り裂いた。

「スキル、瞬足」

 私がフロストソードに魔力を流して魔人ルシファーに斬りつけると、一瞬で凍りついた爪が砕け散った。

「いいですよ。そう言った命がけの攻撃をして下さいよ」

 魔人ルシファーは別の爪を伸ばすと反撃してきた。

 攻撃を辛うじて躱したが、毛皮のコートが八つ裂きにされていた。

「くそが!」

 補助魔法を受けて肉体強化した戦士が、特殊シールド化した盾を構えてタックルにいった。

 岩も砕く強烈なタックルで吹き飛ばされた思われた魔人ルシファーはその場にいて、戦士は爪で串刺しにされて口から血を吹き出している。

「私の爪はミスリルの盾でも貫けるのです、魔法で強化した鉄の盾では紙と同じですよ」

 魔人ルシファーは、串刺しにした戦士を軽々と放り投げた。

「ルシファーは私が止める。魔術師は最大級の魔法を詠唱しろ。他の者は魔術師を守れ」

 全魔力をフロストソードに流すと、白いオーラに包まれた刀身がキラキラと冷たく輝いた。

 フロストソードと魔人の爪が激しくぶつかって、白い塵が舞い散った。

「フロストクロス!」

 十字を切るようにフロストソードを振ると、白い塵が渦巻き魔人ルシファーを空中に磔にした。

「聖なる光よ、我が友に力を。マジカルアップ!」

「氷よ、魔人ルシファーを切り裂き砕け。ダイヤモンドダスト!」

 他の魔術師から魔力を供給されたフロリアが、最大級の氷結魔法を発動させた。

 無数の氷の刃が魔人ルシファーに突き刺さり、その黒い体を真っ白に凍らせた。

「砕け散れ、スキル剛腕」

 大槌を持った戦士が、魔人ルシファーをガラスの像のように粉々に砕いた。

「やったぞ!」

 冒険者の中から勝利の雄叫びが上がった。


「素晴らしい攻撃力です。魔王様の足元にも及びませんが、私と戦える力だと認めて上げましょう。次は防御力を見せて下さい」

「どこだ。どこにいる!」

「ここですよ、生命反応もキャッチできないのですか?」

 砕けた体がジグソーパズルのように組み合わさって、魔人ルシファーが復活した

「こいつは不死身か」

「魔人は核を壊さなければ死なないのですよ、知らなかったのですか。次、戦う機会があれば迷わずに核を壊して下さい」

 魔人ルシファーが笑いながら両手を広げると、広間一杯にドーム状の幕が広がった。

「何をする気だ?」

「私と戦えるだけの防御力があるか試させて頂くのですよ。絶対零度と、鉄を溶かす灼熱とどちらが耐えられますか?」

「人間は化け物じゃないのだ、どちらも耐えられる訳がないだろが」

「そうですか。折角ですからどれぐらいまで耐えられるが実験してみましょうか」

 魔人ルシファーが自分の体を発火させると、ドーム内の温度が上昇していく。

「奴は狂っている、俺は逃げるぞ」

 数人が扉に向かって走ったが、半透明の幕はいかなる攻撃でも破れなかった。

「氷よ、我らを守りたまえ。アイスウォール!」

 魔術師が何度も詠唱を重ねて氷の壁を作るが、溶ける速さが次第に早くなっていく。

「暑くて耐えられん」

 戦士は鎧を脱ぎ、剣士は剣を手放している。

「まだ五十度ぐらいですよ。私の体は二百度ぐらいまでは耐えられますから、私と戦うのでしたらそれぐらいまでは耐えて下さいよ」

「奴は戦いを楽しんでやがる。これ以上は好きにはさせん!」

 下着姿になっているオルタが、古代龍の鱗の欠片で作った穂先のドラゴンランスを構えて突っ込んでいった。

「気が短いですね。ううん、これは……」

 魔人ルシファーが腹に刺さった槍を両手で掴むと、オルタの体が火だるまになった。

「ギャー!」

 オルタは悲鳴を上げながら転げ回るが火は消えず、誰もが皮膚が焼け爛れていく彼女から目を背けた。

「フロストソード、もう一度だけ力を貸して!」

 私はドリンクで回復した魔力の全てを、愛剣に注ぎこんだ。

「聖なる光よ、我が友に力を。身体能力向上! 移動能力向上! 肉体強化!」

 カトリエが私の能力を限界まで高めてくれた。

「一分以上動いたら筋肉が崩壊するわよ」

「分かっている」

 冷気が吹き出すフロストソードを握り締めた私は、高速移動しながら魔人ルシファーに斬りつけた。

「懲りない人ですね。そんな鈍らでは私の体にキズひとつ付けられませんよ」

 分かっていた事だが、炎に包まれているルシファーにフロストソードは届かなかった。

「これまでか!」

 軋む筋肉に最後の力を込めて、フロストソードを振り下ろした。プチ、プチと腕の筋が切れる音がしている。

「貴女の剣がこの槍のように特殊な素材で出来ていたら、いい勝負になったでしょうに残念です」

「ぐうっ……」

 砕けたフロストソードの柄を握り締めている私は、魔人ルシファーが突き出したドラゴンランスで串刺しされた。

「止めろ!」

 意識が薄らいでいく私の耳に救いの声が届いた。

 S級冒険者が破れなかった魔法の幕を無視する力を持った無双のデッサンの二人が、広間に入ってきのだ。

「しっかりしなさい」

 タカヒロと魔人ルシファーが消えると、ミリアナが私の傷口に掌を当ててきた。

 鎧ごと串刺しにされている私は、助からない事が分かっていた。たとえ一命を取り留めたとしても全身の筋肉が断絶しているので、二度と自力で動くことは叶わないだろう。

 ミリアナが眩しい光に包まれた私の体から槍を引き抜くと、暖かい温もりと共に生気が甦ってくる感じがした。

「大丈夫そうね」

 目を開けた私に笑みを見せたミリアナは、倒れている冒険者に治癒魔法を掛けて回った。

 皮膚が焼け爛れていたオルタも、生死の淵から甦って綺麗な肌に戻っていた。

「リーダー、動ける?」

 魔力を使い果たしているカトリエが声を掛けてきた。

「ミリアナに助けられたわ」

 私はゼリアと名乗った魔法使いと遜色のない治癒魔法を使っている、ミリアナから目が離せなかった。

「戦士の筈なのに、私が足元にも及ばない聖魔法を使っているわ」

 カトリエが驚愕の表情を浮かべている。

 心臓が動いていた者全員がミリアナに完全回復して貰い頭を下げていると、どこからともなくタカヒロが姿を現した。


「終わったようね。助けられない人もいたのが残念だけど、こちらも終わったわ」

 穏やかな表情から険しい表情に変わったミリアナが、飄々としているタカヒロに話し掛けた。

 タカヒロが頷いているところを見ると、信じられない事だが魔人ルシファーを倒してきたようだ。

「今度こそ、魔王に会いに行こうか?」

「そうね」

 二人は大型のオオカミに似た魔獣に乗ると、広間の奥に現れた階段を一気に駆け上っていった。

「無双のデッサン! 世の中には桁違いに強い冒険者がいるのね」

 仲間達と顔を見合わせる私は、命を助けられた事を感謝した。


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