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幕間14真鍮の守り盾のレベルカ


 古代龍のダンジョンで魔人と戦った事がある俺達真鍮の守り盾は、魔王討伐への参加を躊躇したが、S級冒険者としての誇りに衝き動かされてマダラン国までやってきた。

 タカヒロとミリアナも来ているかと期待したが姿は見えず、俺達は物資の警護を買って出て勇者一行の最後尾についた。

 進行は問題なく、北の大地へ通じる氷結迷路まで来ていた。

「リーダー、少しまずいのじゃないか?」

「どうしたダル」

「あまりの強行軍に兵士の疲れがピークに達している。このままだと本隊との距離が開くばかりだぞ」

 勇者を初めてする強者の足は速く、後方部隊は遅れがちになっていた。

 俺達は本隊の物資への無頓着さが気になっていた。たとえ戦いに勝っても、水や食料がなければ部隊は数日と持たないのだ。

「こんな時、タカヒロがいたらな」

「俺達はS級冒険者だぞ、C級冒険者に頼るような発言は慎め。他の者に聞かれたら笑い者にされるぞ」

 愚痴るファブリオに釘を刺した。

「ほんと、何しているのかしら。そろそろ現れてもいい頃なのだけどな」

「ゾッタまで。任務に集中しろ」

 何時もと違って戦闘部隊と距離があるので、仲間の気の緩みようにため息を漏らした。

「何を話しているの? 仲間に入れてよ」

「何でもありませんよ。仲間内の愚痴を聞いているだけです」

 S級冒険者の間でも名前が知られている、紅蓮の魔導士のリーダー、ジュリアに話し掛けられて驚いた。

「あなた達でしょ。古代龍のダンジョンが崩壊した時、魔人らしき敵と戦っていた冒険者と言うのわ」

「どこでそんな話しを?」

 俺達と同じように後方支援を選択したジュリアの、自信に満ちた顔をガン見した。

「マダラン国にくる途中で寄ったギルドで、噂話として聞いたわ」

「噂話はとかく大げさになっていくものだな」

 俺は作り笑いで顔を歪めた。

「ただの噂だったの?」

「古代龍のダンジョンが崩壊する現場にはいたが、魔人と戦ったと言うのは違うな。なぁ、皆」

「そうだな。だけど、そんな噂が広がるなんて、真鍮の守り盾も有名になってきたようだな」

 ファブリオが軽い口調で茶化してきた。

「そうなの、でも武勇伝は幾つも聞いているわよ。どうして後方部隊の護衛に志願したか分からないのだけど?」

 ジュリアがウインクを送ってきた。

「長期戦になれば物資を守るのが最優先だから、後方部隊を志願しただけさ」

「流石ね。私達と同じ考えを持つ冒険者が居て嬉しいわ」

「リーダー、顔が赤くなっていますよ」

「もっと、任務に集中しろ」

 ファブリオの冷やかしに声が大きくなってしまった。

「前衛が出口近くで敵と戦闘に入った、気をつけろ!」

 本隊から伝令が走ってきた。

「心配はないだろうが、油断をするな」

 勇者達が負けるとは考えられなかったが、仲間に戦闘準備に入らせた。


 突然空中に剣と盾と鎧が出現すると、他の三チームにも緊張が走っている。

(あの剣。それに盾と鎧まで!)

 古代龍のダンジョンで見た、呪われたアイテムに間違いなかった。

 ファブリオが剣を構え、ゾッタが詠唱を始めている。

「皆、気をつけろ!」

 兵士に注意を促したが遅かった。

 空を飛び回る剣は次々と兵士を刺し殺し、盾は兵士を叩き潰し、鎧は飛び散る血を浴びている。

「あれは何なのだ!」

 護衛に当たっていた冒険者がアイテムの動きを止めようとするが、攻撃がまるで通じていない。

「あれは魔人が作った呪われたアイテムだ。人間を殺して血を吸えば強くなっていく。兵士を守れ!」

 俺は真鍮の盾を構えて剣の前に立ちはだかったが、飛び回る剣を止める事が出来なかった。

 二十人近いS級冒険者が、三つのアイテムに翻弄されている。

「このような場所では、魔法が自由に使えないわ」

 いつの間にか俺の傍に寄っているジュリアが、舌打ちをしている。

「誰か、タカヒロのようにあれの動きを止める魔法が使える奴はいないのか?」

 殺されていく兵士を見ているしか出来ず、ファブリオを注意していた俺が叫んでいた。

「止めるだけなら出来るかもよ。皆、アイスウォールよ」

「氷よ、呪われたアイテムの動きを封じよ。アイスウォール!」

 ジュリアの掛け声で数人の魔術師が一斉詠唱をすると、飛び回っていた三つのアイテムが一瞬で氷漬けになって地面に落ちた。

「流石、S級冒険者の魔法。出来るじゃないか」

 喜んだのも束の間、アイテムは炎に包まれてしまった。

 燃え上がる呪われたアイテムは、さらに兵士を殺して全滅させてしまった。

「次はS級冒険者の血か、ワクワクしますね」

「やはり、貴様か!」

 突然、現れた魔人サクゾーを睨む俺は、血が滲むほど唇を噛んだ。

「古代龍のダンジョンで出会った冒険者じゃないですか。今日は助っ人は一緒じゃないのですか?」

 魔人サクゾーは憎たらしい笑みを浮かべている。

「今日はこれだけのS級冒険者がいるのだ、好きにはさせんぞ!」

 真鍮の盾を構えてはいるが、勝てる気は全くしなかった。

「それならS級冒険者の血、たっぷりと吸わせて貰いますよ」

 サクゾーが剣を手にすると、盾が俺を目掛けて飛んできた。

 どんな攻撃にも耐えてきた盾だが、一度の激突でヒビが入り、腕が痺れてしまっている。

 もう一度ぶつかれば盾が壊れて、真鍮の鎧も無傷では済まないだろう。

「おっと、残念ですがあなた達は後回しです。フォスターと勇者の戦いが始まってしまったようなので失礼しますよ」

 本隊がいる方角に視線をやった魔人サクゾーは、アイテムと共に消えてしまった。

「俺達も本隊と合流するぞ!」

 気力だけで立ち上がった俺だが、言葉とは裏腹に戦意が消失していた。

「リーダー、ちょっと待ってくれ」

 ダルが聞き耳を立てている。

「どうした?」

「入口の方から、誰かが走ってくるのだ」

「タカヒロ達なのか?」

 歩いて来た方角に視線をやった俺は、走ってくる三人の姿を見て生き返ったような気がした。

「間に合わなかったようね」

「ミリアナ!」

「敵は!」

「本隊と戦っている」

 短い会話をすると、タカヒロからマントを受け取ったミリアナが走っていき、その後を悠然の強者のメンバーだったゼリアが走っていった。

「兵士を守れなかった」

 ミリアナ達を見て気が緩んだ俺は膝をついてしまった。

「あんたの所為じゃないから、私達も行くわよ!」

 戦う気力をなくした俺は、ジュリアに励まされて本隊に向かった。



「奇跡だ、あの三人は一体何者なのだ?」

 氷結迷路での戦いが終わると、S級冒険者が口々に無双のデッサンを語り出した。

 ミリアナは魔人と互角に戦い、ゼリアは奇跡の聖魔法を使い、タカヒロは大量の物資を一人で運ぼうとしているのだ。

「あんた達は、あの三人を知っているのだろ。聞かせてくれないか」

 ジュリアが俺に迫ってきた。

「同じギルドに所属していて何度か仕事を一緒にした事があるだけで、詳しく知っている訳ではないのだ。それに無双のデッサンはタカヒロとミリアナの二人で、ゼリアが仲間に加わっているのは今知ったばかりさ」

「ミリアナって言う子は強そうだけど、氷結の乙女のアンリーヌとどっちが強いと思っているの?」

「ミリアナの方が強いだろうな。だが本当に強いのは……」

「歯切れが悪いな、ルベルカらしくないぞ」

 笑みを浮かべるジュリアが、肘で脇腹を軽く突いてきた。

「さっきの戦いを見ていただろ、間違いなくミリアナの方が強いさ」

 ジュリアの慣れ慣れしい態度に顔が熱くなった。

「ゼリアって言う子は?」

「以前から魔法は使っていたが、自分から賢者だと名乗るような子ではなかったのだがなぁ」

 ゼリアの変わり様には俺も驚いた。

「ポーターのタカヒロは?」

「不思議なアイテムを使うとしか知らないのだ」

「確かに。あれだけの物資を収納出来るアイテムボックスを持っているなんて、只者じゃないわよね」

 三人を見ているジュリアは、俺の話に何度も頷いている。

「これからも物資の警護。いいえ、タカヒロの護衛につくのでしょ」

 ジュリアが体をグイグイと押し付けてきた。

「そうしようと思っている。それがもっとも生きて帰れそうだからな」

「私達もそうするわ。よろしく」

 ジュリアはウインクをすると仲間の元に戻っていった。

「リーダー、モテ期に入ったのじゃないか?」

「からかうな。仕事に集中するぞ」

 顔が火照っているのを感じる俺は、仲間から視線をそらした。

「ダンカン隊長を初め多くの兵士を亡くしたが、我々は魔王を倒さなければ帰れない。荷物はポーターのタカヒロが運んでくれるので、他の者は周辺の警戒と戦闘に全力を尽して貰いたい。では、出立するぞ」

 シタタ・ラン軍師の掛け声で、勇者一行は北の大陸へ足を踏み入れていった。


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